十二、赤ずきん少女とアリババと四千人のエキストラ
重症の案山子を背負ったセレアとサラは、森の妖精を見失い、しばらく適当に森の中を歩いていました。
しばらく歩いていました。
ずんどこ歩いていました。
…………。
もう誰も、ツッコミを入れてくれなくなりました。
「セレア」
サラがセレアに言いました。
「いいよ、無理しなくて」
「何のこと?」
「顔がすごく無理してる」
「別に、無理なんてしてないんだからね」
「セレア……さっきはごめん。あなたがツッコミを入れないと話が前に進まないってこと、今ようやく気付いた」
「サラ……」
「だからいいよ、無理しないで。さっきのことは忘れて」
すると案山子が突然顔を上げてセレアに言いました。
「はーひふへぽー」
「ぎゃぁ! ――って、ちょっとォ! 突然耳元でわけわかんないこと言わないでよ!」
くすくすと。
ふとセレアは、隣から小さなかわいらしい笑い声を耳にして、時を止めました。
「サラ……? 今、笑った?」
サラの顔が、元の表情のない顔に戻りました。そして首を傾げて聞き返してきました。
「笑……う?」
「そう、今初めて笑ったよね?」
あははは。あははは。
「――ほら、こんな感じに……」
あははは。あははは。
…………。
セレアとサラは目を点にして時を止めました。
あははは。あははは。
森のどこからかイカれた笑い声が聞こえてきます。
「誰かしら?」
「行ってみよう、セレア」
セレアとサラは共に声のする方へと向かいました。
二人は森の獣道を草の根分けて突き進みました。
ずんずんずんずん歩きました。
すると視界が開けて、広大な砂漠が現れました。
「――って、何ゆえ砂漠!?」
「見て、セレア」
サラが真横を指差しました。
セレアは示された先に目を向けました。
すると遠く離れたここと同じ森と砂漠の境目から、何千もの足の生えた巨大な芋虫のような魔物が顔にいくつもの赤い目を光らせて飛び出してきました。
「――って、明らかにそれ童話以外のネタでしょ!」
セレアの叫びは魔物の暴走する音にかき消されました。
サラは言いました。
「大変。怒りで我を忘れてる……鎮めなきゃ」
セレアは血走らせた目でサラを全力で引き止めました。
「台詞を微妙に変えてるけど、明らかにあのお姫様の台詞だよね? それ」
「セレア、あの魔物の前に人が」
言われ、セレアが魔物の前に目を向けると、走るラクダにまたがり笑い声をあげる男性を見つけました。
「――って、ラクダに追いつけない魔物って、どんだけぇ!?」
「セレア、ここは私に任せて。あの魔物の怒りを鎮めてくる」
「いや、救出頼んでないんですけどー。放っておいていいと思うんですけどー」
しかしサラはセレアの制止を振り切って魔物に向かって駆け出しました。
「ちょっと、サラ! 『僕は死にません』は禁句だからね!」
サラは尋常じゃない走りを見せて魔物の前に立ち塞がりました。そして懐から四千人分の茶封筒を取り出すと、それを扇状に広げて言いました。
「この日当が、目に入らぬか!」
すると魔物はサラの前で急停止しました。
魔物は脱皮を始め、中から四千人のエキストラの皆さんが出てきました。
エキストラの皆さんはサラから茶封筒を受け取ると、脱け殻になった魔物をひきずりながら森へと帰っていきました。
「――って、ちょっと! そーいうのは舞台裏でやりなさいよね!」
と、セレアは懸命に言いましたが、誰も聞いてくれませんでした。
すると「あははは」と笑いながらラクダに乗った男が声をかけてきました。
「いやぁすまない。助かったよ。銀行強盗したら追いかけられちゃって――」
「一生牢屋に入ってろ!」
セレアは華麗にバックドロップを決めました。
そして尋ねました。
「あなた誰?」
男はよろめきながら答えました。
「アリババです」
「助けた礼はいらないから、盗賊の宝が隠された場所と扉を開く呪文を教えなさい」
アリババは悔しげに言いました。
「この外道主人公が……!」
「過去のテンプレみたいに言わないで」
アリババは言い換えました。
「このジャイアンが……! ドラえもんに言いつけてやる」
「それすごく複雑」
セレアは心を痛めました。
アリババは言いました。
「盗賊の宝ならもう無い。すでに白雪姫と六尺法師に奪われた」
セレアは舌打ちしました。
「油断も隙も無いわね、あの脇役ども……!」
「そして彼らからコレを預かっている」
アリババは、聖剣と『だいじな手紙』をセレアに渡しました。
セレアは聖剣を手に入れました。
「――って、なんで私が勇者やらなきゃいけないのよ!」
セレアは聖剣を捨てました。が、聖剣は捨てることができません。他のアイテムを選択してください。
「うがぁー!」
セレアは苛立たしくほえました。
アリババは驚いて逃げ出しました。
――次話へ続く。
「って、ちょっと! 何なのこの終わり方!」