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第6話 アンドロイドの襲撃

 ジョセフは頭から血を流し、意識はもうろうとしていたが、息をしていた。

「ミ...ミレイ...」かすれた声で長老が呟く。

「何があったの!?」

「襲撃...された...政府の連中が...お前の父のパスポートを...引き継ぐ者を...乗船させまいと...画策している」

 ジョセフは苦痛に顔を歪めながらも、必死に言葉を紡いだ。


「お母さんは?」

「逃げた...安全な場所に...ミレイ、早く行け!ここは...危険だ!早く!!」

「ジョセフ…」

 ミレイは血の気が引く思いで、急いで野村の待つ車へと引き返した。心臓が激しく打ち、足がもつれそうになる。


 車が見えた瞬間―

 突然、猛スピードで走ってきた黒い車両が!

「野村さん!!」

 野村の車に真横から激突した!

 グシャァァァァンッ!!!

 轟音と共に、金属が潰れる凄まじい音が響いた。


「きゃああああああ!!!」


 車両は大破し、ガラスの破片が宙を舞った。

 ミレイは震える足で現場へ駆けつけた。

 追突してきた車の運転席では、運転手が座席に挟まれて動けずにいた。

 その顔は、機械がむき出しになり、眼球の部分にはカメラのレンズが露出している。口からは意味不明なノイズが断続的に発せられていた。

「ビ...ビープ...エラー...エラー...」


「野村さん…」

 野村は血を流し、車内でシートと助手席のドアに挟まれ、意識を失いかけながら、もがいていた。

「野村さん!野村さん!」

 あまりのショックに、ミレイは咽び泣く。


 ミレイの泣き声に、彼は力なく目を開け、言葉を絞り出した。

「しっかりしろ!!ミレイ!...俺は...何とかなる...お前が狙われている!お前を777に乗せまいとしてるんだ!早く行け!早く乗船しろ!…」

「早く!!」


「うわああああん!野村さん!お父さん!お母さん!」

 —14歳の少女には、あまりにも過酷な現実だった。愛する人たちが次々と危険にさらされ、自分一人が宇宙船を目指さなければならない。しかし、躊躇している暇はなかった。

 ミレイは泣き叫びながら走り始めた。


 貧民街の迷路のような路地裏を、ミレイは生身の身体で必死に走った。機械化された富裕層とは違い、彼女の足は疲れ、息は切れる。

 しかし、それでも走り続けた。


 後方から、複数の足音が追いかけてくる。

 振り返ると、黒い服を着た数名のエージェントが猛スピードで追跡してきていた。

「捕まえろ!綾羽ミレイを逃がすな!」

 彼らの動きは人間離れしていた。まるで機械のように正確で、疲れを知らない。


 ミレイは角を曲がろうとして―

「きゃっ!」

 つまずいて転倒した。

 膝を強打し、痛みが走る。


 エージェントたちが迫ってくる。あと数秒で捕まってしまう!—

「終わりだ、綾羽ミレイ!!」

 時間が止まったかの様に思えた…

 その時―


 ドドドドドドド!!!

 突然、猛スピードで無人の車両が路地に突っ込んできた!

「うわあああああ!」

 ドゴォォォォンッ!!! ガシャガシャァァァンッ!!!

 エージェントたちは咄嗟に身を躲そうとしたが、間に合わなかった。3人が車に跳ね飛ばされ、残りの2人も車体に挟まれた。

 跳ね飛ばされたエージェントの身体が宙を舞い、壁に激突する。その衝撃で、彼らの身体から金属パーツ、電子チップ、カメラのレンズが散乱した。腕の一部が不随意運動を続け、カタカタと震えている。


「人間じゃない...みんな、人間じゃない...!」

 ミレイは目の前の残酷な光景に、ショックで立ちすくむ。


「ミレイ!こっちだ!」

 車から飛び出してきた男性が、ミレイに手を差し伸べた。

「あなたは...?」

 50代前半の男性で、ネイティブアメリカンの血を引いているのが分かる風貌だ。

「ホワイトホースだ。ジョセフ爺さんから連絡を受けて来た。急いで車に乗れ!」

 ミレイは躊躇なく車に飛び乗った。車は猛スピードで宇宙港へと向かった。


 車中で、ミレイは今目にした光景の衝撃から立ち直れずにいた。

「あのロボット…たちは何なんですか?」

「最近、最前線で命令に従う事は、ああやって...人工的なアンドロイドにやらせる。よく犯罪に使われる手口さ。そして、身体の一部が機械の人間たちは高級食材に舌鼓をうちながら…経過報告を見てるんだろう…政府中枢の奴らが!」

 アンドロイドを使って14歳の少女を襲撃する。父を暗殺し、母を追い詰め、野村を傷つける。自らの手を汚さずに、金と権力で…。

 人類の愚かさ、醜さ、残酷さを目の当たりにして、ミレイの心に絶望が宿り、人類に憎しみさえも芽生え始めていた。

 人間は...こんなにも醜く、残酷なものなの? 

 このままでは...人類は本当に滅びるべき存在なのかもしれない...



 宇宙港まであと数キロという地点で、ホワイトホースは車を止めた。

 前方に、国の警備隊がバリケードを張って待ち構えているのが見えた。完全武装した兵士たちが、検問を敷いている。

 ホワイトホースは建物の影に車を隠すと、ミレイに向き直った。

「いいか、ミレイ。俺がお前を送れるのは、ここまでだ、すまん。ジョセフ爺さんと一緒で、俺も政府から狙われている。政府にとっちゃ忌まわしい存在なんだ…」

「俺は、ニュータイプなんだ。瞑想を重ねて意識を宇宙とひとつにできる。だからテレパシーが使える」

「テレパシー...?」

「お前もニュータイプのはずなんだよ!ジョセフ爺さんが言っていた。お父さん、お母さんも知っていたが、お前が危険に晒されるから、誰も言わなかった」


 ミレイの心に、これまで感じていた不思議な感覚の正体が見えてきた。時折、他人の心の動きが分かったり、危険を察知したりする能力。それがテレパシーだったのか。


「だから、俺等はセレスティアル、宇宙人と同じ法則で生きられるはず。コミュニケーションが取れるはずなんだ」

「私に...そんな力が...?」

「これから幾多の困難、危機、ピンチ、迷う時が来る。そんな時こそ心を沈めて、心に聞いて、直感を信じることだ。分かったな!」

「うん。分かった!」ミレイは静かに頷いた。


「でも、あの警備隊のバリケードは...どうやって?」


 その時、宇宙港全体に巨大な影が差した。

 上空に浮かんでいた銀河宇宙使節船777が静かに、地上に降り立ったのだ。その圧倒的な存在感、巨大な宇宙船に、警備隊員たちも思わず振り返り、凝視している。

 そして、船から降りてくる光の柱の中に―

 半透明に光る人型の存在が現れた。

 セレスティアル。宇宙の使者が、ついに姿を現したのだ。


 ミレイの心の奥で、父の声が響いた。

『ミレイ、今こそ心を空にして、宇宙の真理に向き合うのだ』

 運命の時が、ついに訪れた。


「ミレイ!ここからは堂々と歩いて行け!もう宇宙人、セレスティアルも目の前にいる。無茶なことはできないはずだ」

 ホワイトホースは向き直り、真剣な眼差しでミレイを見つめた。


「行け!お前の父の遺志を継げ。そして、人類の真の未来を切り開いてくれ!」


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