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第18話 光る存在との遭遇

 ザックがゆっくりと、ミレイに近づいてくる。

 ミレイは、恐る恐るザックの顔を見た。その目は、意外にも…悲しみ、諦め、そして何か虚無にも似た何か…が渦巻いている様だった。


「君の父、綾羽タケシは優秀な男だった」ザックの声は、静かだ。

「俺の命を救ってくれたこともある。だが、彼は間違った道を選んだ。そして今、君も同じ過ちを犯そうとしている」

「父は間違っていません!父は、人類の未来を信じていました。宇宙人との共存を—」ミレイの声が、廊下に響く。


「共存?」ザックの声が、突然大きくなる。

「それは支配だ!奴らは俺たちの自己決定を侵害した。権利侵害だ。そして私たちを管理しようとしている。君の父も、それに加担した。だから殺された。そして君も—」


 ザックは言葉を止めた。

 彼の機械化された左腕が、激しく震えている。

「君も、同じ運命を辿る。だが、その前に、君には役割がある」

「役割?」

「宇宙人を呼び出すんだ!…そして、俺たちが人類の意志を示す!」


****


 船橋では、キャプテン・リードが状況を把握しようとしていた。

「被害状況は!?」

「下層階で、一般市民24名が死亡—動機は不明。死者の共通点と言えば、下層民である。という事くらい。その他何ら関係、共通性が無い為、下層民を無差別に殺害されたのだと思われます」

 報告を聞きながら、リードの拳が震えた。


「ブラックウッドの居場所は!」機械化された左腕が、怒りで青白く光る。

「下層階、セクション7で、数十人の市民と共に、ミレイが拘束されているとの報告が—」

「くそ!!」リードは立ち上がった。

「俺が行く!」

「船長、危険です!」

「構わん!あの子を見殺しにはできない!」


 下層階のメインホール。普段は、普段は住民たちの集会場として使われていた…が、今は過激派に占拠され、数十人の人質が床に座らされている。その中心に、ミレイがいた。

 ザックは、大型モニターの前に立っていた。


「ミレイ・アヤハ。瞑想で、宇宙人を呼び出せ!」


「断ります」ミレイの声に、迷いはなかった。

 普通の14歳の少女…恐怖はある。しかし、同時に覚悟もしていた。—お父さん、そして沢山の人たちが亡くなっていった。大切な人たちを裏切る…宇宙の人たちに背くより、みんなと同じ道を辿りたい。


「…断る?そうか、それで良いんだな?」

 ザックは、人質の一人を指差した。


「ならば、この人質たちを一人ずつ殺していく」

 人質たちが、恐怖で震える。


 ミレイの心臓が、激しく鼓動した。

 —どうすればいい?

 その時、心の奥底で、あの声が聞こえた。


 【人間の子よ。彼の言う通りにして…】

 ルミナス・プリズムの声だ。


 —でも、あなたたちを利用しようとしているのよ!

 【わかっている。大丈夫。だから、彼のいう通りに…】


 —・・・・。

 暫くの間、沈黙が続いた。

「分かりました。呼び出します!」

 ザックの顔に、勝利の表情が浮かんだ。


 ミレイは床に座り、瞑想の姿勢を取る。周囲の雑音が、だんだんと遠くなっていく。意識が、内側に向かう。そして、あの光の存在に呼びかけた。

 —ルミナス・プリズム。来てください。


 数秒後、船橋の警報が鳴り響いた。

 ピーーーーッ! ピーーーーッ! ピーーーーッ!

「船長! 未確認飛行物体、急速接近中!」通信士の声が震えている。

「距離は!」キャプテンが問う。

「10万キロ! いや、5万! 3万! くそ、速すぎる!」カチャカチャカチャ、とキーボードを叩く音が響く。

「1万キロ!」

 船橋の大型モニターに、虹色に輝く宇宙船が映し出された。それは流線型で、表面が七色の光を放ちながら明滅している。キラキラ、シュワー、という音が聞こえてくるような。


 下層階のホールでは、ザックが狂喜の表情で叫んだ。

「来たぞ! 奴らが来た!」

 彼の機械化された左腕が、興奮で激しく光り始める。ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。まるで心拍数が上がっているような、早い点滅。

 ガシャーン!

 ザックが、大型の武器を床に置いた。それは船の壁を利用した、対宇宙船用の特殊兵器。スターリングが密かに用意させていたものだ。

「全員、配置につけ!」

 過激派のメンバーたちが、ガチャ、ガチャ、と武器を構える。金属音が、ホール全体に響き渡る。カチャ、ガシャ、カチン、カチン。


 人質たちが、恐怖で震えている。その中で、ミレイだけが静かに座っている。瞑想を続けたまま。


 ウィーーーーン。

 船外から、低い振動音が聞こえてきた。それは、ルミナス族の宇宙船が接近している音。窓の外を見ると、虹色の光が、だんだんと大きくなっている。

「距離500メートル! 300! 100!」船橋での報告が続く。

「停止しました! 船外に、静止しています!」


 ザックは、武器のスイッチを入れた。

 ピピピ、ピーーーッ。

 起動音が響く。武器の先端が、青白く光り始める。ウィーーーン、ジジジ、という充電音。

「これで、奴らに人類の意志を示す!」

 ザックの指が、引き金にかかった。

 過激派のメンバーたちも、武器を構える。カチャ、ガシャ、ガチャ、ガチャ。

「撃て!」

 しかし、その瞬間だった。


 シュワーーーーーー!

 ルミナス族の宇宙船から、光が放たれた。それは、レーザーのような攻撃的な光ではなかった。むしろ、柔らかく、優しい、でも圧倒的な光。まるで、朝日が雲間から差し込んでくるような。

 キラキラキラキラキラ。

 虹色の光の粒が、宇宙船から溢れ出て、船内に流れ込んでくる。それは固体の壁をすり抜けて、まるで水のように、空気のように、全てを透過してくる。


「何だ、これは!」

 ザックが叫んだ。彼の周りを、光の粒が舞っている。キラキラ、フワフワ。

 光がホール全体を満たしていく。

 シュワーーーー、キラキラキラ、フワーーーー。


 そして、その光がミレイに触れた瞬間—ドォォォォォン!

 空気が震えた。音というより、振動。胸の奥から響いてくるような、低い、でも力強い波動。


 ザックが引き金を引いた。

 カチ。—

 何も起こらなかった。

「え?」もう一度引く。

 カチ、カチ。でも、武器は沈黙したまま。

「くそ! 何だ!」

 過激派のメンバーたちも、武器を撃とうとする。カチャ、カチ、カチ、カチ。でも、どの武器も動かない。

 ピーーーッ、という電子音が響いて、全ての武器の電源が切れた。充電されていたエネルギーが、音もなく消えていく。ウィーーーン、シーーーン。

「何だ、これは! 武器が、全部——」

 ザックの機械化された左腕が、激しく震え始めた。ガタガタガタガタ。制御が効かなくなっているような。


 そして、光の中心から、何かが姿を現し始めた。

 シュワーーーー、キィィィィィン。

 最初は、ぼんやりとした光の塊だった。でも、だんだんと形を持ち始める。人間のような形。でも、それは肉体ではなく、純粋な光のエネルギー。

 キラキラ、シュワー、フワーーー。

 光の粒が、その周りを舞っている。まるで、無数の蛍が集まっているような。でも、その光は冷たくない。むしろ、温かい。生命の温もりがある。

 ホール全体が、虹色の光に包まれる。その光は、壁を透過し、床を透過し、人々の体さえも透過している。

 キィィィィィィン、という高い音が響いた。それは耳で聞く音ではなく、心に直接響いてくる音。美しくて、神秘的で、でも圧倒的な。

 ガタガタガタ、と武器を持っていたメンバーたちの手が震える。恐怖なのか、畏怖なのか、自分でも分からない。


 そして、光の中から、その存在が、完全な姿を現した。

 ルミナス・プリズム。

 エネルギー体のような、輝く存在。人間の形をしているが、細部は常に変化している。光の波が、体の表面を流れている。その存在が、ゆっくりと浮かび上がった。

 シュワー、キラキラ、フワー。

 重力を無視して、床から30センチほど浮いている。その下には、光の粒が渦を巻いている。


 ホール全体が、静まり返った。

 誰もが、息を呑んでいる。武器を持っていた過激派のメンバーたちも、カラン、カラン、と武器を床に落とす。金属音が、やけに大きく響く。


 プリズムの体から、波紋のような光が広がった。

 ドォォォォォン。

 また、あの低い振動。胸の奥が共鳴する。心臓の鼓動と同じリズムで。ドクン、ドクン、ドォォン、ドクン、ドクン、ドォォン。

 そして、その存在が—声を発した。いや、声ではない。それは、全員の心に直接響いてくる。言葉にならない言葉。でも、意味は完璧に伝わってくる。


 【人類よ】


 空気が震えた。いや、空間そのものが震えたような感覚。

 人質たちが、思わず床に伏せる。過激派のメンバーたちも、膝をつく。その圧倒的な存在感に、立っていることができない。

 ザックだけが、必死に立ち続けている。機械化された左腕が、ガタガタガタガタ、と震え続けている。


 【あなた方の分裂を、私たちは深く悲しんでいます】


 その言葉と共に、プリズムの体から、さらに強い光が放たれた。

 シュワーーーーーーーッ!

 キラキラキラキラキラキラキラ!

 虹色の光が、ホール全体を包み込む。それは、まるで波のように、床から天井へ、壁から壁へと広がっていく。

 光に触れられた人々が、思わず目を閉じる。でも、瞼の裏にも光が見える。優しい、温かい、でも圧倒的な光。


 そして、その光の中で、ミレイは目を開けた。

 ホール全体が、光に満たされている。虹色の、優しい、でも圧倒的な光。

誰もが、言葉を失っていた。

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