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ラウンド3:現代からの声〜縮小社会の統治論〜

(ラウンド2が終わり、4人の思想が平行線を辿ったまま、スタジオには一種の膠着状態が漂っている。あすかは静かにそれを見渡し、ゆっくりと口を開く)


あすか:「人を信じるか、制度を信じるか…。皆様の議論は、統治の根源にまで達しました。しかし、その思想が、もし現代という名の舞台に置かれたとしたら、一体どのような物語を紡ぐのでしょうか。ここで、一つ、現代日本からの声を聞いてみたいと思います」


(あすかは手元の「クロノス」に視線を落とす。その表情は、これまでのどの瞬間よりも真剣だ)


あすか:「これは、つい最近まで、日本のとある市の市長を務めていた人物の言葉です。彼が肌で感じた、二元代表制の現実…。私が、彼の声の代弁者となりましょう」


(あすかはゆっくりと、スクリーンに映し出されたテキストを読み上げていく。その声は淡々としているが、言葉の重みがスタジオに響き渡る)


あすか:「(読み上げる)『地方政治、地方議会のあるべき姿を、かなりの国民が理解できていない。首長、与党、野党的な考え方が浸透してしまっていて、本来の二元代表制の機能というものが見過ごされている。政治家たち自身、分かってはいても、理解をしていない。これの何がまずいかというと、強大な権力を集約させた首長が暴走してしまうと、それが止められないということです。これまでは経済が拡張していたので、それでも何とかなった。しかし、これからの縮小していく社会においては、厳しく選んでいかないといけない。何を残すのか、何を諦めるのか。そうしたときに、二元代表制本来の機能が備わっていないと、どっかで破綻します。首長の暴走が許されれば、10年、20年後、次の世代が将来の禍根として被害をこうむってしまうのです。』」


(あすかが読み終えると、スタジオは深い沈黙に包まれる。それは、時空を超えた論客たちが、現代の痛みに耳を傾けている沈黙だった)


あすか:「皆様、これが、現代日本の地方が抱える現実の一端です。このコメントにある『病』…その根源は、一体どこにあるとご覧になりますか?モンテスキュー男爵、あなたの理論が現実世界で悲鳴を上げているようにも聞こえますが」


モンテスキュー:(顔を覆っていた手を下ろし、憤りと確信に満ちた声で)「これだ!これこそ、私が生涯をかけて警鐘を鳴らし続けた、権力分立の精神が崩壊した姿に他ならない!首長と議会が『与党』と『野党』に分かれるなど、愚の骨頂!議会は、首長の政策に色をつける場所ではない!その政策が、法と民意に照らして正しいかどうかを判断する場所なのです!首長の暴走を止められない…まさに、私の懸念が現実になっているではありませんか!」


カエサル:(モンテスキューを鼻で笑い)「相変わらずだな、男爵。問題の本質はそこではない。コメントの男が言う『強大な権力を持つ首長』とやらが、そもそも大したことがないのだ。真に民を熱狂させるだけのカリスマと実績があれば、議会が与党だろうが野党だろうが関係ない。それに、『縮小社会』だと?情けない。指導者が諦めの言葉を口にした瞬間、国は滅びるのだ。俺ならば、この縮小社会とやらでも、民を鼓舞し、新たなガリアを見つけ出し、拡大させてみせるがな!」


あすか:「しかしカエサル閣下、現実問題として資源は有限です。全てを守り、全てを拡大させることはできない。その『厳しい選択』を迫られた時、どうなさるのですか?」


カエサル:「その『選択』を、民に納得させるのが指導者の器量だ!『諦める』のではなく、『未来のために集中する』のだと、民に夢を見させるのだ!」


北条泰時:(静かに、しかし強い口調で)「…カエサル殿、それはあまりに危険な賭けにございます。そして、元市長殿の言葉で最も胸に突き刺さるのは、『次の世代が禍根をこうむる』という部分。目先の熱狂のために、将来の世代にツケを回す。それは、為政者として決してやってはならぬこと。これこそ、『道理』が完全に失われている証拠にございます」


モンテスキュー:「その通りです、泰時殿!『縮小社会』という厳しい局面だからこそ、熱狂や独断ではなく、冷静な議論と厳格なチェックを通じて、最も痛みの少ない道を探るべきなのです!」


北条泰時:「左様。そして、その『厳しい選択』…例えば、地域の最後の病院を一つ閉鎖せねばならぬ、といったような決断こそ、首長一人が決めてはならぬ。地域の民、議会、そして首長が、皆でその痛みを分かち合い、知恵を出し合う『評定』の精神が、今こそ必要とされているのではありますまいか」


始皇帝:(それまで黙って聞いていたが、心底呆れたように)「…くだらぬ。病の根源だと?理解せぬ民が愚かなだけ。それを導けぬ為政者が無能なだけだ。縮小?諦める?朕の辞書にない言葉だ。病院が足りぬなら、新たな病院を建てさせる。金が足りぬなら、富める者から奪い、作る。禍根?朕の治世に、禍根など存在せぬ。朕の決定が、未来永劫の安寧を創るのだ。迷うこと、議論すること自体が、国家の衰退の証よ」


あすか:「しかし、陛下、その決断を下すのは、絶対的な権力者である、あなたお一人です。…では、皆様に具体的にお聞きします。先ほど泰時殿がおっしゃったような、『地域の最後の病院を一つ、閉鎖しなければならない』という、まさに究極の『厳しい選択』。この決断を、一体誰が、どうやって下すべきなのでしょうか?」


(あすかの問いに、スタジオの空気が張り詰める。それは、もはや哲学ではなく、現実の政治そのものだった)


カエサル:「俺が、民衆の前で演説し、その必要性を説き、決断する。反対する者は、ローマの敵と見なす」


モンテスキュー:「議会で、データを基に、数ヶ月かけてでも徹底的に議論し、投票で決めるべきです。首長の一存など、あってはならない」


北条泰時:「関係者全てを集めた評定の場を設け、皆が涙を飲んででも納得できるまで、何日でも話し合うべきでございます」


始皇帝:「朕が、決める。即座に。」


あすか:「…ありがとうございます。皆様の答え、見事に分かれました。そして、その具体的な『処方箋』こそ、我々が最後に聞きたい物語です」


(あすかは立ち上がり、最終ラウンドの始まりを告げる)


あすか:「それでは、これまでの議論の全てを踏まえ、最終ラウンドへと参りましょう。題して、『現代日本への提言』。あなたならば、この国、この地域を、どう導きますか?」

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