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ラウンド2:徹底討論!議会は必要か?

(ラウンド1が終わり、スタジオには4人の異なる思想が渦巻いている。あすかはその中心で、興味深そうに微笑んでいる)


あすか:「法、道理、自由、そして民意…。皆様が掲げる理想の国家像、実に鮮やかでした。しかし、その理想を実現する上で、避けては通れない存在があります。それが『議会』です」


(あすかが「クロノス」を操作すると、中央のホログラムに巨大な天秤が映し出される。片方の皿には王冠をかたどった『首長』のアイコン、もう片方の皿には議事堂をかたどった『議会』のアイコンが乗り、釣り合っている)


あすか:「それでは、ラウンド2を始めます。テーマは、シンプルにして究極の問い…『徹底討論!議会は必要か?』。この天秤、果たして釣り合わせるべきか、あるいは、どちらかに傾けるべきか。まずは、その異名の通り、議会をクラッシュしてきたこの方にお伺いしましょう。カエサル閣下、単刀直入にどうぞ」


カエサル:(待ってましたとばかりに、不遜な笑みを浮かべ)「必要か、だと?フン、時間の無駄だ。答えは分かりきっている。不要だ!断じて不要!」


(カエサルの断言に、天秤の『議会』の皿がガクンと下がり、ホログラムが赤く点滅する)


カエサル:「私が生きた時代の元老院を例に挙げてやろう。あれはもはや議会などではない。過去の栄光にすがり、己の利権を守ることしか考えぬ老獪な貴族どもの巣窟だ。私がローマの民のために新たな改革案を提出すれば、彼らは手続きがどうの、伝統がどうのと、くだらぬ理由でそれを骨抜きにする。国家の未来よりも、自分たちの財産が大事なのだ。そんなものに、一体何の価値がある!」


モンテスキュー:「お待ちいただきたい!それはあなたの国の議会が、たまたま腐敗していたというだけの話ではありませんか!それを以て、全ての議会の存在意義を否定するのは、あまりにも乱暴な論理です!」


カエサル:「ほう、では聞こうか、男爵。君の言う『理想の議会』とやらは、一体どこにある?私が知る限り、人が集まれば、そこには必ず派閥が生まれ、嫉妬が渦巻き、利権争いが始まる。高潔な理念など、数年もしないうちに泥にまみれるのが関の山だ。君は現実というものを知らなすぎる」


モンテスキュー:「現実から目を背けているのは、あなたの方です、カエサル閣下!確かに、議会は過ちを犯します。腐敗もするでしょう。しかし!それは、議会が不要である理由にはならない!なぜなら、独裁者の過ちは、議会の過ちよりも、遥かに悲惨な結果を招くからです!議会は、最善の仕組みではないかもしれない。しかし、独裁という最悪の事態を防ぐための、防波堤なのです!」


カエサル:「防波堤だと?違うな。国家という船の進行を妨げる、ただの重りだ。民が飢えている時に、『手続きに則ってパンを配るかどうかを三ヶ月かけて議論します』と言うのが、君の理想の議会かね?笑わせるな!私が為すべきは、今すぐパンを配ることだ!民衆が求めるのは、議論ではなく、行動なのだよ!」


あすか:「行動のための独裁か、暴走を防ぐための議論か…。では、ここで究極の『行動の人』にもお話を伺ってみましょう。始皇帝陛下。陛下の治世において、そもそも『議会』という存在は、どのようなものだったのでしょうか?」


始皇帝:(目を閉じたまま、心底くだらない、といった口調で)「…存在せぬ。故に、問題もなかった」


あすか:「存在しない、と。つまり、豪族や重臣たちに意見を求める場、というものも…」


始皇帝:「不要だ。朕は、郡県制を敷き、全国を36の郡に分けた。そこには朕が直接任命した役人を送る。彼らは、朕の定めた法を、寸分違わず執行するだけだ。そこに議論の余地はない。意見は、反乱の火種にしかならぬ。見つけ次第、根絶やしにする。それだけのこと」


モンテスキュー:(愕然として)「な…!なんという…!それは、国家ではありません!巨大な牢獄です!」


始皇帝:(初めてモンテスキューに憐れむような視線を向け)「牢獄であろうと、民が安寧に暮らせれば、それで良い。貴様の言う『自由』とやらで、国が乱れ、民が死ぬよりは、遥かに良い」


カエサル:「ふん、やり方は乱暴だが、一理あるな。議会という名の反乱分子の温床を、初めから作らない。徹底している。俺のやり方より、ある意味では賢いかもしれん」


(カエサルまでもが始皇帝の意見に一部同意し、モンテスキューは孤立無援の状態に陥る。天秤は完全に『首長』側に傾ききっている)


あすか:「モンテスキュー男爵、かなり分が悪いようですが…。この状況、どう打開されますか?」


モンテスキュー:「うぅ…!彼らは、根本を理解していない!権力がいかに恐ろしいものか、その本質を…!」


(モンテスキューが言葉に窮した、その時だった)


北条泰時:「…お待ちくだされ。どうも、話が噛み合っておらぬように見受けられまする」


(泰時が静かに口を開くと、白熱していた場の空気が少し落ち着く)


あすか:「と、申しますと?泰時殿」


北条泰時:「カエサル殿も、始皇帝陛下も、そしてモンテスキュー殿も。皆様、議会というものを、『首長と対立する場』、あるいは『首長に反抗する場』としか見ておられぬのではないか、と。某にはそう思えまする」


カエサル:「事実、そうであろう。元老院は常に俺の敵だった」


モンテスキュー:「権力をチェックするのですから、対立は当然でしょう!」


北条泰時:「果たして、そうでございましょうか。そもそも、まつりごととは、誰かと誰かが争うためにあるのではありますまい。国を、民を、より良くするために知恵を出し合う場であるはず。我らが鎌倉で行った『評定』は、まさにそうでございました。執権たる某と、御家人を代表する評定衆が、いがみ合うのではなく、どうすれば道理に適う裁きができるか、共に頭を悩ませる。対立の場ではなく、協力の場でございます」


あすか:「協力の場、ですか。それは、現代の議会がしばしば見失っている視点かもしれません」


北条泰時:「議会が不要なのではなく、今の議会の『あり方』が問題なのではないか。いがみ合うためだけの議会ならば、それこそ不要かもしれません。しかし、首長と議会が、車の両輪のごとく、力を合わせて国を動かすことができるのならば…それこそが、最も望ましい国の姿ではないかと、某は考えまする」


(泰時の言葉に、スタジオの空気が変わる。カエサルは腕を組み直し、モンテスキューは何かを考え込んでいる。天秤の傾きが、少しだけ中央に戻り始める)


あすか:「対立か、協力か。『議会』という器に、全く違う魂を込める。泰時殿、素晴らしい視点です。しかし、その協力関係が、首長と議会の単なる『なれ合い』になってしまう危険性はありませんか?互いにチェック機能を失い、民意から離れたところで物事が決まってしまう。それこそ、最もたちの悪い事態とも言えますが」


北条泰時:「あすか殿、それこそが『道理』、そして『法』の役割にございます。某が定めた御成敗式目は、執権である某自身も従わねばならぬ決まり事。評定の場では、身分に関係なく、この式目に照らして何が正しいかを議論いたしました。協力とは、ただ仲良くすることではございませぬ。同じ法、同じ道理という土台の上に立ち、共に汗をかくことでございます。その土台さえしっかりしていれば、なれ合いに陥ることは防げると考えまする」


カエサル:(泰時の言葉を遮るように、苛立たしげに)「協力だの道理だの、どこまでも悠長なことだ!いいか、戦場では、将軍の決断一つが生死を分ける。評定を開いている間に、敵は陣を固め、味方は死んでいくのだぞ!国を治めるということは、平時であろうと戦時と同じ。最終的な決断と、その結果に対する全ての責任は、一人の指導者が負うべきなのだ。皆で決めたから責任も皆で、などという無責任な体制で、国が守れるものか!」


モンテスキュー:(カエサルの意見には頷かず、泰時の方を向いて)「泰時殿、あなたの言う『協力』の理念は理解できます。しかし、私もあすか殿と同じ懸念を抱かざるを得ません。もし、首長と議会が法を捻じ曲げ、結託して民から富を搾り取ろうとしたら、一体誰がそれを止めるのですか?チェックする者とされる者が手を組んでしまえば、それは始皇帝陛下の独裁とは違う意味で、最も巧妙で、最も抜け出しにくい専制政治の始まりです。それこそが、私の最も恐れる事態なのです!」


(モンテスキューの指摘に、天秤が再び揺れ始める。泰時の「協力」という理想にも、大きな落とし穴があることが示された)


あすか:「…議論は堂々巡りの様相を呈してきました。ですが、それこそがこのテーマの奥深さ。皆様の論理の根幹にあるものを、もう少しだけ、えぐり出してみたいと思います」


(あすかの表情が、それまでの柔和なものから、物語の核心に迫る案内人の鋭いものへと変わる)


あすか:「まず、カエサル閣下。あなたは常に『民意』『民衆の熱狂』が正義だとおっしゃる。では、お尋ねします。その民意が、間違った方向に熱狂した場合はどうなさるのですか?歴史上、熱狂した民衆が、冷静な判断を失い、自らを破滅へと導いた例は少なくありません。多数派の意見が、常に正しいとは限らない。その時、指導者たるあなたは、民意に逆らってでも、国を正しい道へ導くのですか?それとも、民意と共に、誤った道を進むのですか?」


カエサル:(一瞬言葉に詰まるが、すぐに傲然と胸を張り)「…良い質問だ。だが、答えは決まっている。指導者とは、民意の奴隷ではない。民意を創り出し、導く者だ!もし民が道を誤りそうになれば、私が演説をし、私が勝利を示し、私が富を与えることで、民意そのものを正しい方向へと導いてみせる。それこそが、真の指導者の務めだ!」


あすか:「では次に、モンテスキュー男爵。あなたは、人の心を信じず、暴走を防ぐための完璧な『制度』こそが理想だとおっしゃいました。では、お尋ねします。その素晴らしい制度を完璧に運用できるほど、人間は理性的でしょうか?決まり事や手続きにがんじがらめになり、決断が遅れることで、救えるはずの命が失われることはないのですか?目の前の一人を救うための『例外』を、あなたの制度は許すのですか?制度を守ることが、人命よりも重いと?」


モンテスキュー:(苦渋の表情を浮かべ、しかし信念は揺るがない様子で)「…それは、政治が常に抱える悲劇的な選択です。しかし、私はあえて申し上げたい。独裁者が気まぐれで起こす大虐殺に比べれば、制度の硬直性が生む犠牲は、まだしも少ない。目の前の一人を救うためにルールを曲げれば、その例外が、いずれ千人、一万人の犠牲者を生む独裁への扉を開けてしまうかもしれないのです。私は、その扉に鍵をかける方を選びます!」


あすか:「そして、泰時殿。あなたは、対立ではなく、皆が納得する『道理』を、話し合いで見出すべきだとおっしゃった。では、お尋ねします。価値観がバラバラに引き裂かれた現代において、皆が等しく納得できる『道理』など、果たして存在するのでしょうか。あなたの言う『合議』は、結局は単なる時間稼ぎや、声の大きい者の意見に、物静かな者が従うだけの結果に終わりませんか?話し合っても、話し合っても、答えが出ない。その間に、国は衰退していく。その危険性を、どうお考えですか?」


北条泰時:(静かに目を閉じ、そしてゆっくりと開く)「…おっしゃる通り、至難の業でございましょう。答えが出ぬこともあるやもしれませぬ。しかし、某は、それでも話し合うことにこそ価値があると考えます。たとえ結論が出ずとも、互いの言い分に耳を傾け、相手の立場を理解しようと努める。その過程そのものが、国の分裂を防ぐための、目には見えぬ大切な『絆』となるのではありますまいか。拙速に答えを出すよりも、その絆を守ることの方が、長い目で見れば、国のためになると信じておりまする」


あすか:「…ありがとうございます。では、最後に。この議論そのものが不要だとおっしゃる、始皇帝陛下」


(あすかは、初めて真っ直ぐに始皇帝の目を見て、問いかける)


あすか:「陛下は、法であり、国家そのものであると。では、お尋ねします。万が一…いえ、億が一にも、その陛下の決断が、間違っていたとしたら。国は、民は、どうなるのですか?誰もそれを正すことができない。誰も異を唱えることが許されない。その絶対的な孤独の中で下された決断の過ちは、誰が、どうやって、償うのですか?」


(スタジオが、水を打ったように静まり返る。全員が始皇帝の答えを待っている)


始皇帝:(ゆっくりと立ち上がり、他の三人と、あすかを、まるで矮小な虫けらでも見るかのように見下ろし、そして、ただ一言、告げる)


始皇帝:「……朕は、間違えぬ」


(その言葉は、肯定でも否定でもなく、揺るがしようのない事実として、スタジオに響き渡った。反論も、弁明も、一切を許さない、絶対的な宣言だった)


あすか:(しばしの沈黙の後、ゆっくりと息を吐き)「…ありがとうございました。議会をめぐる議論は、どうやら、人間そのものを、そして、その集合体である民衆を、どう捉えるかという、根源的な哲学の問いに行き着いたようです」


(天秤のホログラムは、どちらにも傾かず、ただ激しく揺れ続けている)


あすか:「議会は不要か、必要か。対立すべきか、協力すべきか。そして、その根底にあるのは、人を信じるか、制度を信じるかという問いなのかもしれません。この議論の結論は、まだ、この場では見えません。ラウンド2は、ここまでといたします」

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