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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

同一世界線A

男女の友情は成立するので、外野はちょっと黙ってて

作者: えばりぃ


 昨日あたりから、なんだか仲間達の様子がおかしい。とってもよそよそしくて、雰囲気が堅苦しい。

 まぁ、その理由なんて大方見当がつくのだけど。


「……」

「……」


 冒険者として魔物の討伐を終えた後、今はおやつ休憩。普段なら話の上手いダンが喋り続けるけど、そのダンが今日は全く口を開かない。


 いつも通り私のセレクトで流行りのカフェに連れてきたのに、文句一つ言わない。黙々と、この場所に似つかわしくない渋い顔をしかめながら、可愛いくまさんパンケーキを食べている。クロも概ね同じ。

 今日は本当に酷い感じ。やれやれ、困ったおじさん達ね。


「……ア、アンナ。二人とも、どうしたのかな?」

「カミラっ、ん~、今日も可愛い!大丈夫、あんな顔のくらーいおじさん達なんて目に入れなくていいのよ。ほら、スイーツでも食べて元気だして、ね、あーん」

「あ、あーん……って、流石に何も聞かないのは不味いんじゃ……」

「平気、平気!……多分、私達と同じ道を通ってるだけだから」

「同じ……って、どういう意味?」


 まって、鈍感なカミラが可愛すぎる。でも、言えない。カミラは純粋で嘘が下手だから、これはまだ、気づいてしまった私だけの秘密。

 「気にしなくって大丈夫」と耳元で囁いて、ほんの一瞬、二人に気づかれないようにすりっと頬擦りをした。ぽっとカミラが頬を赤くする。


 あぁもう、本っ当に可愛い。

 はやく二人も、こうなっちゃえばいいのに。


「ねぇダン、そのパンケーキ一口ちょうだい」

「お、おぅ、好きに取っていいぞーアンナ」

「お皿遠いし、面倒臭いの。ダンがあーんてして?」


 頬杖をついて、こてんと首を傾げて見せる。ほら、可愛い私の可愛い仕草にやられなさい?

 結果は当然、見事にクリーンヒット。ダンはう、と声を漏らし、ゆっくりと顔を手で覆った。


「うちの娘可愛すぎるだろ……」

「ダンはダンでしょ。お父さんじゃない」

「まぁまぁ細かいこと気にすんなって」


 「ほれ、あーん」とダンがパンケーキを差し出してくる。口に含むと、ふわふわしてて、あったかかった。美味しくてニコニコしていたら、ダンが頭を撫でてくれる。

 ダンは結構ちょろい。私が少し甘えただけで、すっかりいつもの調子を取り戻したみたいだった。


「育てたのは俺達なんだからいいだろ?なぁ、」


 クロ、と言おうと口をその形にして、目線を向け──そのままダンは固まった。


 クロはピンク色の可愛いケーキのトッピングを見つめたまま、微動だにしていない。じっと一点を見つめて黙り込むのは、クロが考え事をしている時の癖だった。

 いけない、せっかくダンが元に戻ったのに、これじゃ逆戻り。


「ねぇクロ、そのケーキはどうだった?私まだ食べたことないの」

「……」

「きいてるの?クーロー」

「……」

「ちょっと!無視しないでってば!」

「……」

「……ねぇカミラ、クロの足踏んじゃって!」

「え、踏むのはやだよ……」


 座席は正面がダンで、隣がカミラ。対角線上のクロに私の足は届かない。

 優しくてお上品なカミラは、クロの靴の先をトントンと軽くつついた。


「……カミラ?」

「アンナが話しかけてるのに、無視なんてひどいよ」

「……すまない、気づかなかった。アンナ、何の話をしていた?」

「そのケーキのこと!」

「美味しい」

「どこがどう美味しいのって聞いてるの」

「……?甘い」

「はぁ~~本っ当に味のしない感想」

「悪い」


 そう返して、クロはまた顔を下に向ける。こっちには甘えても大抵、ダンほどの効果はない。どうしたものかしら。

 困っていると、心配そうなカミラがクロの手を取った。あっ……カミラったらまたそういうことを。いっつもダメって言ってるのに!


「……クロ、大丈夫?何かあった?相談、乗るよ。その為の仲間でしょ?」

「カミラ……」


 クロはダンより少し若い。私やカミラから見たら年上なのは変わりないけど、クロはイケメンで見た目が若いのもあって、色々困る。なにがって、ほら。


「──見て、あっちのテーブルでまたクロードさんとカミラちゃんいちゃついてる~」

「ほーんとお似合いだよね、あの二人」


 こんな風に、恋人みたいに見えてしまうこと。クロは確かに格好いいし、正直お似合いって言われるのも分かる。

 でも、私は絶対に嫌。それに、今この状況ではマズい。だって──私は。ダンは。


「……やっぱ俺じゃねーよなぁ」


 クロとカミラを見つめながら、ぼそっ、とダンが言う。諦めたようなその声が気に入らなかった。


「ダンって格好悪い」

「ぁ、アンナ?……聞こえちまったか?」

「さぁね?クロには聞こえてないんじゃない?」


 ダンとひそひそ内緒話をしていると、黙り込んでいたクロがいつの間にかこちらを見ていた。そこに嫉妬は見られない。戸惑いと、少しの照れと、あとはなに?クロの感情は読み取りにくい。


「……クロ、ジロジロ見すぎ」

「っ……わるい」


 まぁ、気になっちゃうのは分かる。表情はあまり変わらないけれど、クロは少し声を震わせていた。

 クロも分かりやす過ぎ。誰見てるかバレバレだし……でもここは一応、知らないふりしておいてあげる。


「何悩んでるのか知らないけど、あんま」

「アンナ、カミラ……ダン」

『?』

「……聞いてくれないか」


 ──え?まさか、まさか言う気?ここで?クロ正気?

 この場に、その相手が居るのに?


「告白、されたんだ」

「え!?」『……』

「……どうしていいか、わからないんだ。人として好ましいとは思う。けれど恋人というのは、どうもイメージがつかなくて」

「そ、そんな……断ったの?嫌、だったの?」


 恋愛小説の好きなカミラは、告白した側に感情移入したみたい。あわあわしてるカミラもすてき……じゃなくて!これは返事が気になるところ。


「嫌な訳は無い」

「っっっしゃ」

「ア、アンナ?ど、して、喜んでるの……?」

「?……あっそういうことじゃないのカミラ!!違うから!!」

「そ、そうだよ、ね」


 カミラは頬を掻いて、「そうだよね」ともう一度小さく呟いた。どうやら心配させちゃったみたい。

 別に私が告白したんじゃない。クロが相手なんてこっちから願い下げ。こんな風にカミラに悲しい顔させちゃうなら、もう全部バラしてしまいたい。


 でもでも、多分あと一押しなの。視界の端ではダンがぷるぷる震えてる。もうっ、ウジウジしてないで早くしてよ、おじさん達!!


「ク、クロ、嫌じゃないなら付き合えばいいでしょ、相手が冒険者じゃないならちょっと困るかもだけど」

「アンナ……そうもいかない」

「なんっっでよ!とっとと付き合いなさいよ!!」


 バンッ!と勢いよく机を叩いて叫ぶ。どうしてこうも頭固いの、クロって!

 途端に、店内がざわざわし始める。いけない、大声出し過ぎた?


「──あの子片想いなのかな、頑張って欲しい……」

「あれアンナちゃんじゃない?クロードさんが好きだったんだ……知らなかった……」


「──え、なにアレ。クロードと付き合ってんのってカミラちゃんじゃねーの?」

「報われない恋ってやつ?アンナかわいそ……」


 田舎ってのは知り合いばっかで本当困る。また変な噂が増える予感しかしない。

 今回のは、流石に私の発言が不味かった。その自覚はある……けどそれにしたって、こういう人達って一体何が見えてるのかしら。クロとカミラが、ってそれどこから聞いたの?二人ともずっと否定してるのにいい加減にしてよ、うざったい。


 ヒートアップした頭がスン……と冷めていく。一気に無表情になった私を見て、クロが苦笑いした。


「……クロがさっさとその誰かさんとくっつかないからこうなるの」

「それは論点がズレてないか」

「うるさい」


 ぶすくれてプイとそっぽを向く。目線の先では、カミラがダンを不思議そうに見つめていた。見てみると、何故かダンは一心不乱にあのパンケーキを食らっていた。

 ──ねぇそれどういう感情?正直おもしろくて元気出たんだけど。


 結構大きいやつなんだから、切らずにそのままかぶりつかないでよ行儀悪い。シロップも何故かいつの間に大量にかかってるし。甘過ぎるの苦手って言ってなかったっけ?カフェオレに砂糖入れまくる私に文句言ってたのってどこの誰だったっけ??

 

「どうしてダンまた黙っちゃったのかな?」

「カミラ、放っておいてあげて。ついにスイーツの良さに気づいたのよ、ダンは」

「クロの恋バナの最中に?」

「クロの恋バナの最中に」


 それならいいんだけど、とカミラは優雅に紅茶を一口。これで納得しちゃうカミラは可愛い。

 いつもそう、皆やってるって言うと大体信じちゃうし、なんでもさせてくれる。流されやすいカミラは最高。


「クロ、さっき言ってなかったけど、結局返事はしてないのよね?何て返したの?保留?まさか流してないでしょうねそうだったら許さない」

「少し、考えさせて欲しいと、それだけ」

「ふーん……ふぅーーーん?」

「……た」

「?」

「っ……」


 言葉に詰まって、クロが口を手で覆った。少し頬が赤いような気がする。クロの貴重な照れ顔……なに気になる。

 根気強く待っていると、目線だけ少しダンの方を向けて、クロは言った。


「大切、だから、大切に考えたい」


 ピタ、とダンの手が止まる。口の中のものをごくんと飲み込んで、「は」と息を漏らして完全停止。

 破壊力の強い一言に、取り繕えなくなったらしい。みるみるうちにダンの顔が真っ赤になっていく。


「ダン、口がべたついてる」


 ハンカチを取り出して、クロがダンの口を拭う。驚きで身体を跳び跳ねさせたダンは、まるで猫みたいだった。


「……えっ、アンナが言ってた“私達と同じ”って、そういう」


 小声で呟くカミラに、うんうんと深く頷いた。流石にこんなにいちゃつかれたら、鈍感なカミラでも気づく。

 クロのことはよく分からないから、正直ずっと心配してた。けどこの調子ならきっと、もうダンは大丈夫。


 ──大切に、ねぇ。そう言うんだったら、気長に待ってあげる。

 にやけそうになる顔を引き締め、華やかな香りのフルーツティーを口に含む。いつもより甘い気がしたのは、きっと二人のせいね?


 男女混合の冒険者パーティーだと、恋愛関係の問題が起こって長続きしないことが多いらしいけれど、うちはそうはならない。

 クロはそれなりに顔がいいから、私やカミラは関係を疑われることが多いけど、とんでもない。こっちはこっちで上手くやってるから、是非とも、そっちはそっちでくっついて欲しい。


 クロとダンがもし恋仲になったら、堂々と私の恋人はカミラだって言うって、決めているもの。


 勿論私の最愛はカミラだけど、ずっとこのパーティーでやっていきたいって思うぐらいには二人のことを気に入ってる。でもきっと、私とカミラの関係を知ればクロとダンは変な空気になってしまうから、今のところは我慢してる。

 ダンは多分何も気にしないけど、問題はクロ。クロの性格上、収まりが良いとか、その方が皆幸せになるとか考えてダンと付き合う可能性が十分にある。あの二人早くくっつけとは思うけど、仕方なく、なんてそんな風にはさせたくなかった。


 私には可愛い可愛いカミラが居るし、むさ苦しいおじさん達の恋路なんて普通応援したくないけれど、クロとダンなら話は別。クロにとってはいい迷惑かもしれないけど、ダンは結構前から、なんなら私達と出会った時には既にクロを好きだったみたいだし。


 ──だからほら、ね。早くこっちに堕ちてきて。


 内心ほくそ笑みながら、私は大好きなカミラの腰を優しく撫でた。


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