新しい朝
朝起きたレベッカは、雲の上で寝てしまったのかと思った。
ものすごく体が軽い。
板のようなベッドとは雲泥の差だ。
「おはようございます。ラルエット様」
とメイドが影のように入ってくる。
ヒエェッッと声をあげそうになる気持ちをレベッカは我慢した。
自分以外の人間が部屋にいることが変な感じだ。
「お、おはようございます……」
「朝食の準備が整っております。お支度が整い次第、食堂へご案内いたします」
メイドに服を見せられたレベッカは思わず
「あ、あの……」
と声が出てしまった。
「その、これはあまりにも……」
「簡素でしたでしょうか。でしたらもう少しレースの多い物を……」
「いえ、そうではなく……あの、ものすごく裏地の肌触りがよく、これはもしかすると」
「ラソワでございます」
ラソワというと、東の国から輸入されるという高級な生地だ。
ラルエット家でも義母や義妹の枕のカバーに少しばかり使っていた。
なんでも髪や皮膚に近いらしく手触りが良い、という話だったが、まさかこれほどとは思わなかった。
それを贅沢にも裏地に使うとは、このドレスはいったい幾らくらいするのだろう?
表地こそシンプルなものの、縫製がきちんとしていて、良い仕立てだと分かる。
「あの、すみませんが、私はこれから街に行くのです。こんな……限られた貴族が着るようなものはとても……」
「ええ。この公爵家は『限られた貴族』なのです、ラルエット様。さあ、お急ぎ下さいませ」
急き立てられるがままに袖を通したレベッカは、信じられない肌触りに驚嘆した。
(これは……だめ……人を駄目にする服だわ……)
「香油は何になさいますか」
「いえ、ですから私は街にっ……」
「ロゼッタ、ガルデニア、フリジア」
「あのっ」
「そうですね。ラヴァーンドなんていかがでしょうか。何かご希望ございますか」
「な、ないです」
「承知しました」
レベッカが、あ、あ、と口をはくはくしている間に、髪は梳かれてつやつやになり、顔も丁寧に手入れされた。
「お化粧はいかがしましょう」
「いえっ! もう本当に大丈夫です!」
いっぱいいっぱいになったレベッカが泣きそうになりながら言うと、メイドはようやく解放してくれた。
しかしこの後、案内された食堂で、レベッカは衝撃の言葉を聞くことになるのだった。