聖女試験
聖女候補エミリーは、会場の神殿の大広間にいた。
この国の権力は三つに分かれている。
王と、法、そして神だ。
王は王家の人間が代々受け継ぐ。
法は裁判官たちが司っている。
そして、神殿だ。
物には多かれ少なかれ潜在的な魔力があり、同じ種類の物でも効能が変わる。
食べ物であれ、鉱物であれ、はたまた植物や生物であれ、魔力が多ければ多いほど効果が高まる。この国の人間は求める効果や目的によって、魔力の多いものを判断しながら進化を遂げてきた。
そのために有効なのが聖女だ。
聖女は国に重要な判断を数多く行う。
王が惑いし時は、神殿に――。
神殿は国の方向性を決めるうえで重要な役割を担っていた。
神殿の資金は王家や貴族たちからの寄付、平民の税でまかなわれる。
下は十四歳から上は六十歳まで。女性のみが働く神殿は男子禁制の特別な場所だ。限られた男の聖職者が数人いる程度の神殿には、五十人の聖女と、その世話をする女官がいる。
女官は平民でもなれるが、聖女には基本的には貴族の両親か、後見人やそれに代わるものがいなければなれないと言われている。
厳正なる試験に合格した、選ばれし者が国を代表する存在となる。
栄誉であり、力であり、誇り高い。
聖女は美しく清らかで賢く、人々の憧れだ。
五十人の聖女たちは、3年の任期が明ければ自由だ。そのまま神殿に勤める者が多いが、婚姻や年齢を理由に籍を空ける者もいるので、年に数人の入れ替わりがある。
国中の憧れの聖女を夢見る少女は限りなく、倍率は酷く高い。
だが、エミリーは確信していた。
自分こそが合格する。
(私の敵はいないわ)
有力な令嬢は母が金を握らせて辞退させた。
それでも頑として出場を言い張るわからず屋は、エミリー自らが『ちょっと痛い目を見てもらう』ように取り計らった。
(ヴァレリアン公爵も入院したと聞いたし、案外あの浮浪者も使えたわね。また雇ってやろうかしら? いいえ、聖女になればあんな者との繋がりは無い方がいいわね)
エミリーはうっそりと嗤った。
ここに集っているのは書類選抜に合格した者だ。
最低限の読み書きは、聖女の仕事をするためには不可欠。情報を得て必要なものを紙にまとめて届ける。この時点で、殆どの平民は除外される。過去には平民で資産家の令嬢もいたが、不合格だった。正直なところ、有力な貴族の推薦や後援がなければ聖女就任は厳しい。合格のあかつきには、国を代表した他国の接待や公務もあるのだ。最低限のマナーを覚えた立ち居振る舞いはできなければ困る。
そして、神殿の門をくぐる際の選抜だ。門の先には水晶のはまったオブジェがあり、触れる者に一定以上の魔力があればオレンジ色に光り輝く。
先に進むと神殿の入口があり、ここでは聖歌の試験と教典を読む試験がある。
対策は完璧だった。エミリーは堂々とこの大広間に歩みを進めた。
そして、合格した者がここにいる。
人数は十人に満たなかった。
聖女には容姿は関係がないと言うが、これまでの歴代の聖女たちは皆が容姿端麗だ。
エミリーはぐるっと辺りを見渡した。
(楽勝だわ。顔だけでいえば私の圧勝!ドレスも一番優雅! 最終試験は聖女としての立ち振る舞いのはず。あと少しだわ!)
神殿の豪華さや、この先に待っている聖女としての生活にぼうっとしていたエミリーは、大広間に最後に入ってきた、白いドレスを身にまとった小柄な少女のことは視界に入っていなかった。
「最終試験を開始します」
厳しい顔つきの女性が告げた。