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7.新しい日々

 次のクエストはトロール三体の討伐。

 本来は強力なパーティーにのみ受注可能なクエストだけど、特別に俺たちも受けることができた。

 グラスホッパー討伐を達成したことで、ギルドからの信頼が上がったおかげだろう。


「トロールか」

「私におまかせください。三体でも百体でも軽々とうち滅ぼしてみせましょう!」


 俺の隣を歩くアルファは、トントンと自分の胸を叩く。

 トロールを軽々と倒してしまった光景は今も記憶に新しく、驚きは鮮明に記憶されている。

 彼女に任せておけば難なく達成できるだろう。

 だけど……。


「アルファ、できればトロールは俺に任せてもらえないかな?」

「ラスト様に? お一人で戦われるおつもりですか?」

「うん。そうしたいと思ってる」


 俺は拳をぐっと握りしめ、身体中を流れる魔力を感じる。

 彼女のおかげで手に入れた力。

 この力がどれだけ通用するのか試したい。

 そんなことを考えてしまえるほど、今の俺はやる気と自信に満ちていた。


「わかりました。ラスト様のお力なら問題ありませんね」

「ありがとう」

「とんでもございません。私はあなたの物ですから。使いたいときに使い、不要になったら捨てて頂いても構いません」

「そんなこと絶対にしないよ」


 俺は仲間を見捨てないし、切り捨てたりしたくない。

 それは彼らと同じ行為だ。

 自分がやられて嫌だったことを、他人にするのはクズのやることだから。


「ラスト様はお優しいですね」

「普通だと思うけど」

「そんなことありませんよ」

 

 そう言って彼女は優しく微笑む。

 彼女はずっとこの調子で、事あるごとに俺のことを褒めてくれる。

 なんだか俺が何をしても肯定してくれそうな勢いだ。

 褒められたり認められたりすることに慣れていない俺には、眩くて恥ずかしい。

 

 森の中、他愛ない会話で団らんとした雰囲気。

 しかしここは敵地。

 魔物がすぐ近くにいる。


「ラスト様、きます。十二時より敵接近中。数は三、おそらく報告にあったトロールかと」

「わかった」


 気を引き締めろ。

 俺は腰の刀を抜き、臨戦態勢をとる。

 どしん、どしんと大きな足音が複数近づき、木々を押し倒して姿を現す。


「トロールです!」


 アルファの声とほぼ同時に俺は駆け出した。

 相手がこちらを見つけるより早く、先手をしかけるために。

 懐に潜り込み、トロールの大きな腹の前で刀を構える。


「魔力を――」

 

 全身に巡らせろ。

 そして纏え!


 アルファから貰った魔力放出の力を発動させる。

 全身から溢れる魔力を纏い、魔力は手に握る刀にも流れる。

 強化された刀の斬撃は、トロールの腹を下から首にかけて両断した。

 魔力で強化されたことで斬れ味も上がっている。

 それだけじゃない。


「ラスト様! 左右からきます!」


 残る二体のトロールが拳を振り下ろす。

 同時に左右から。

 俺は刀を地面に突き刺し、両手でそれを受け止めた。

 トロールの拳は重く、受け止めた風圧で木々が軋むほどだ。

 そんな一撃も軽々と止められる。

 魔力を纏ったことで身体能力が向上し、肉体の強度が大幅に上昇している。

 今の俺なら、ドラゴンのブレスも耐えられるんじゃないか?

 そう思えるくらいの万能感。


「おお!」


 俺は受け止めたトロールの拳を掴み、ぐわんと振り回す。

 右の一体を放りなげ、続けて左も同じ方向へ吹き飛ばす。

 二体は重なって地面に倒れじたばたさせる。

 そこにすかさず刀を拾い、大きく跳びあがって重なった頭を突き刺す。

 トロールの攻略法はいくつかある。

 強力な再生能力も、頭を一撃で潰せば発動しない。


「はじけろ!」


 突き刺した部分から魔力を高出力で拡散させ、トロールの頭部が爆散する。

 じたばたしていた手足がピタリと止まり、肉体が消滅していく。

 残った魔力結晶がごとんと落ち、それを回収してから刀を鞘に納めた。


 パチパチと拍手が聞こえる。


「お見事です。ラスト様」

「ありがとう。正直自分でも驚いてるよ。こんなに戦えるなんて」

「それがラスト様の本当の実力です」

「俺の……か」


 コネクトによる力の共有。

 今まで一方向でしかなかった力を、お互いが活用できる。

 アルファは俺の魔力を使い、俺は彼女がもつ能力を借り受けられる。

 おかげで俺は戦えるようになった。

 

「アルファ、やっぱり君のおかげだよ。君がいるから俺は戦える。俺一人じゃ何もできない。だから、ありがとう」

「そ、そんな! 私はラスト様のおかげで目覚めることができました。感謝するのは私のほうです」


 あわあわと焦りながら手を振る。

 人間らしい仕草をしても、彼女は自動人形……ドールだ。

 戦うために作られた存在。

 だけど俺には、やっぱり優しい女の子にしか見えないな。


「君のおかげで戦う力が得られた。自分の力も……知ることができた」


 コネクトのことだけじゃない。

 俺の魔力が常人と異なり無尽蔵であることも、彼女に教えてもらえなければ知らないままだった。

 自信が持てないまま、なにも出来ずに街を彷徨っていたかもしれない。

 この出会いが、俺を大きく前進させた。

 

 ありがとう、アルファ。

 ありがとう、爺ちゃん。

 俺ははまだ、冒険者として生きられる。


「アルファも、俺に何かしてほしいことがあったら言ってくれ。貰ってばかりは申し訳ないんだ」

「いや、私はラスト様の所有物ですので、ラスト様の望みが私の望みです」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、俺も何かしたいんだ。自己満足だけど、何かできることがないかな?」

「ラスト様……」


 彼女のおかげで今がある。

 尽くされるばかりは俺が後ろめたい気持ちになるから。

 彼女のために、何かしたいと思った。


「では一つだけ、お願いしてもよろしいですか?」

「うん」


 彼女の願いを、なんでもいいから叶えてあげたい。


「私の姉妹を、見つけてくれませんか?」

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悪役令嬢に転生した田舎娘がバッドエンド回避に挑む話
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