6.失ったもの【追放側視点】
「がっはははははははっ! 今日は最高の日だぜ!」
「ちょっとドイル、飲み過ぎじゃない?」
「いいじゃねーか今日くらいよぉ~ なんたってパーティーのお荷物をようやく追い出せた記念日なんだからなぁ」
「そうだぜサレナ。今日はとことんのもうや」
ドイルとリーグが酒を飲み交わし、べろべろに酔っ払っている。
お酒が得意じゃないサレナは彼らを見ながら呆れるが、本心では同じ気持ちでいた。
「アスタル。あなたはほどほどにしておきなさいよ。私と同じでお酒に弱……」
「すぅー」
「寝てるのね。まぁいいわ」
四人とも今日を精一杯に満喫していた。
彼らはずっと前から、ラストの存在を疎ましく思っていたのだ。
特に魔術師であるサレナが強く思っている。
「何が自分がいないとダメよ……逆に決まってるわ」
ラストの言い分は、自分が魔力供給をしているから、みんなが満足に戦えているというものだった。
それを聞いた彼らは呆れ、軽く怒った。
役立たずの癖に、一丁前に役に立っているアピールをされたから。
今までの成果が、彼のおかげだと言われている気がしたから。
「ふふっ、後悔するのはやっぱりあいつのほうね」
魔力タンクと言っても所詮は一人の人間。
彼がいなくてもこれまで通りのパフォーマンスはできる。
むしろ、彼を守らなくていい分、みんなの動きがよくなると考えていた。
余った枠にもう一人前衛職を入れたら、さらに戦闘が安定するだろうと。
だが、彼らは痛感することになる。
彼がパーティーにもたらしていた影響力を。
◇◇◇
「ふぁー……頭いてぇ……」
「だから言ったでしょ? 飲み過ぎなのよ」
翌日。
彼らはいつも通りに冒険者ギルドへ足を運んだ。
早朝から出発するクエストを受けるためだ。
彼らがギルドに到着すると、ちょうどギルドの扉がオープンになる。
中に入ってすぐ、受付嬢が彼らに気付いて笑顔を見せた。
「いらっしゃいませ。あら、今日はお一人足りないようですが……」
「ああ、あいつはクビにしたんだよ。戦闘でも大して役に立たないからなぁ」
「そうだったのですか。では新しいメンバーの募集をされるのですか?」
「そのつもりでいる。適当に募集をかけといてもらっていいか?」
「かしこまりました」
ギルドの彼らへの信頼は厚い。
故に待遇もよく、様々な面で優先される。
そしてこの会話を聞いていた別の冒険者が、他の仲間たちへ噂を広めた。
彼らは有名人だから、噂が広まるのも早い。
魔導パーティーから追放者がでた。
枠が一つ空いたぞ、と。
「昨日言ってたクエストあるよな?」
「はい。ワイバーンの討伐、および卵の回収ですね」
ドイルは提示されたクエストを確認する。
間違いないと頷いて、彼らは冒険者ギルドを出発した。
ギルドを出てすぐ、リーグが気付く。
「そういやいなかったな。あいつ」
「ラストか? もうやめちまったんじゃねーか。あいつの力じゃ冒険者は無理だろ。どこも拾ってくれねーだろうしな」
「賢明だな。どっか別のとこで迷惑かけてると思うと、こっちが悪い気分になるぜ」
「だな」
男二人でラストのことを笑う。
当然だが、彼らは友人でもなければ仲間ですらなかった。
対等だと思っていなかった以上、こうなる未来は必然だったのだろう。
そして――
◇◇◇
「それじゃとっとと片付けるぜ」
「おう!」
「ええ」
「了解」
彼らはワイバーンとの戦闘を開始する。
場所は街から離れた渓谷。
ワイバーンが巣を作り、大量に繁殖してしまった。
成長したワイバーンは餌を求めて各地を飛ぶ。
放置すればいずれ街が危険にさらされるからと、ギルドに討伐の依頼がでた。
卵の回収がセットなのは、ふ化させ飼いならすことができるからだ。
どちらも高難易度のクエスト。
並のパーティーでは空を飛び交う奴らに太刀打ちできない。
「サレナ」
「ええ」
魔術師の彼女が飛行能力付与の術式を展開。
自分を含む四人に付与し、大空を翔る。
「燃えやがれ」
あいさつ代わりにドイルが炎の魔剣で奇襲する。
強靭な鱗に守られている身体も、彼の魔剣の前では無意味だった。
そして彼の隣を、稲妻の一撃がかける。
「っと、おい! あぶねーぞ!」
「心配するなって! 当てんのはワイバーンだけだ!」
雷の魔槍を振り回すリーグ。
稲妻を纏ったその鉾は、鋼鉄をも軽々と貫く。
余裕を見せる二人。
そこへワイバーンが四方から迫るが、無数の矢がことごとくを撃ち落とす。
「二人とも、油断しないで」
「ありがとな、アスタル」
「油断はしてねーよ。けど助かったぜ」
弓使いアスタル。
彼女が操る水の魔弓は、高圧縮した水を矢として放つ。
大気中の水分を利用しているため、魔力効率がよく連続攻撃が可能。
威力もワイバーンを貫く程度造作もない。
「お、数が増えやがったな」
「何匹いたって関係ねーだろ!」
「早く終わらせよう」
いつも通り、順調だった。
が、攻勢もここまで。
「はっ! ん?」
「おらっ! な、なんだ?」
「威力が落ちている?」
三人はほぼ同時に違和感を覚えた。
自身の攻撃がワイバーンに通じなくなっている。
炎は小さくなり、雷は弱まり、水が集まりにくくなっている。
と同時に、身体を襲う疲労感。
「ワイバーンの攻撃か? いったんさがるぞ! サレナ!」
「まかせて!」
こういう時に魔術師である彼女が輝く。
飛行魔術の維持に努めていた彼女だったが、仲間のピンチに攻撃へ転じる。
前方に展開された術式は、炎と風を合わせた複合魔術。
「燃えて消えなさい! フレアトルネード!」
業炎の竜巻がワイバーンを襲う。
まとまっていた奴らが散り散りとなり、攻撃の手が止む。
「ふふっ、やっぱりこれくらい――え?」
「なんだ? どうしたサレナ!」
「高度が落ちてるぞ!」
四人は飛行能力を失い、急速に地面に落下してしまう。
訳が分からないという表情のサレナ。
だが、直後に気付く。
身体の中に湧き出るはずの魔力が、ほとんど感じない。
「まさか……魔力切れ?」
ぼそりと口にした一言を全員が聞いた。
なぞの疲労感、突然威力が弱まった攻撃、それらの答えはシンプルだった。
「嘘だろ?」
彼らは気づいていなかった。
魔剣や高火力の魔術が、どれほど魔力を消費していたか。
魔力管理がどれほど大変かを。
そして……。
ラストの無尽蔵な魔力に頼り切っていたことを。
彼らはようやく知ったのである。