45.真実
「ドールの制作者か?」
「いかにも、お前さんがワシの娘たちを目覚めさせてくれたんじゃな。礼を言わせてくれ」
慈愛に満ちた優しい声が響く。
姿は見えないが、その声からは本当の喜びを感じられた。
不思議と驚きは緩やかだった。
予感があったわけじゃない。
ただ、この見たことのない研究室と、なぞの装置から聞こえる声。
この異様な光景こそが、彼が制作者であることを証明しているように思える。
「にわかに信じられないわね。この声はどこから聞こえているのかしら?」
「見えとるじゃろ? お前さんらの目の前じゃ」
「この浮いてる塊がそうだっていうの?」
「うむ、正解じゃ」
なぞの液体の中で浮かぶ結晶。
確かに声はそこから聞こえている。
姫様は訝しむ。
「彼女たちの生みの親だというなら、千年も昔の人物でしょう? そんな人が生きているなんて信じられないわ」
「生きておるわけではない。お前さんらが見ているそれは、生前のワシの意識をコピーしたもの。いわば魂の複製じゃ」
「魂の……コピー? そんなことができるの?」
「できたようじゃな。どうじゃワシはすごいじゃろ! ガッハッハッハッ!」
博士は大声で笑う。
清々しい自画自賛に、姫様も呆れている様子だ。
この陽気なテンションは、少しだけデルタに似ている。
マイペースさはシータにもか。
アルファに似ている部分も……どこかにあるのだろうか。
「やっぱりドールの性格は作成者に似るんだな」
「それは当然じゃろう? あの子たちはワシの娘じゃからのう」
「娘のように可愛がっていたのね」
「いや、比喩ではなく事実じゃ」
「「え……?」」
驚き、俺と姫様の声が揃う。
比喩ではない?
それはどういう意味だろう?
同じ疑問が頭に浮かんだ時、博士は答える。
「あの子たちはワシの血を引く娘たちじゃった。ドールになる前の話じゃがのう」
「……どういう意味だ?」
「説明してもらえるかしら?」
「もちろんじゃ。そのために……お前さんらを通したのじゃからのう」
表情は見えない。
だけど確実に、暗い雰囲気は流れる。
感覚的にわかる。
これから知る話は、きっと暗くて悲しいお話なのだろうと。
「あの子たちはワシのことを覚えておったか?」
「自分たちを作った博士だと言っていたよ」
「……そうじゃろうな。そう認識するように組んでおいた。あの子たちは……ワシが本当の父親であることも、自らが一度死んだことも知らぬはずじゃ」
「一度……死んだ?」
俺は耳を疑った。
アルファ、デルタ、シータの三姉妹が……死んでいた?
意味が分からず困惑する中、博士は続ける。
「少し長い話になる。当時、ワシはとある国に使える魔導具師じゃった。ワシは天才じゃった」
自分で言うのか……。
「特にゴーレム作りが得意じゃったワシは、自律するゴーレムの作成に取り組んだ。それこそがドールの原型となった。意志を持つゴーレム……机上の空論じゃったが、ワシは魔物の死体をベースにして、自立型のゴーレムを完成させたんじゃ」
死んだ魔物とゴーレム作成技術を応用し、魔物の身体を持つゴーレムを作成したという。
それはゴーレムであってゴーレムではない。
新たな命を吹き込まれた新しい生物、とでも表現するべきだろうか。
外からの魔力供給がなければ動けないが、魔力さえあれば永遠に生き続けられる。
限定的な不老不死を完成させた。
「ワシが作った自律型ゴーレムは、国にとっては強力な戦力じゃ。ちょうど戦争をしておったから、大量に作られた。結果、多くの血が流れた」
彼の作ったゴーレムは兵器として運用された。
壊れても死なない肉体を持つゴーレムは、不死身の兵力。
圧倒的な武力を手に、その国は快進撃を続けた。
が、それを快く思わなかった他国は、ゴーレムの発明者である博士を殺す計画を立てた。
「ワシが狙われるのは必然じゃった。じゃが予想外なのは、ワシの娘たちまで狙われてしまったことじゃよ」
「それが……アルファたちなのか?」
「うむ。ワシには嫁が三人おってのう。あの子たちはそれぞれの子供じゃった。危険じゃからとワシから離れて暮らしておったのじゃが……奴らはそこに襲撃した」
博士曰く、おそらく脅しだったのだろう。
お前のせいで多くの血が流れた。
だから大切な娘たちを殺され、報いを受けろ。
そういうメッセージだったのだろうと。
「そんな理由で……」
「ひどい時代だったのね」
「そうじゃよ。ワシはただ、研究ができればそれでよかった。その後の影響なぞ深く考えもせんかった。その結果……ワシは娘たちを失ってしまった」
声から悲しみが伝わってくる。
きっと、離れて暮らす娘たちのことが大切だったのだろう。
そう思わせられる。
「娘たちの遺体が、ワシの元に運ばれてきた。無残な姿じゃった……嘆いても生き返ることはない。じゃが、ワシは一つの希望を見出した」
それこそが自律型のゴーレム。
魔物の死体をベースに作り出した新たな命の形。
「ここまでくればわかるじゃろう? ドールとはすなわち、生きた人間をベースにしたゴーレムじゃよ」
彼女たちの肉体は、元から彼女たちのものだった。
人として生まれ、死んでしまった肉体を、博士の技術で復活させた。
彼女たちが異様に人間らしく、人形に見えない理由はそこにある。
見えないはずだ。
なぜなら彼女たちは、人間だったのだから。
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