43.本当にダンジョンですか?
ダンジョンの中は薄暗く、狭い。
前回の探索時に大崩落し、ダンジョンの中はほとんど壊れている。
俺たちが見つけた入り口も、半分ほど潰れて通れなくなっていた。
人がギリギリ通れそうな隙間を縫って、俺たちは中へと進む。
「せ、狭ぇ……ぶっ壊してもいいか?」
「ダメよデルタ。壊したら道もなくなっちゃうわ」
「うぅ……通りにくいんだよ」
「文句言わないで。私だってその……きついんだから」
隙間は半身になって通らないといけない。
身体のどこかが出ているほど、通る時にひっかかってしまう。
アルファが一番苦労しているのがわかった。
俺はなるべく見ないように、先頭を進む。
「ぷはっ! やっと広いところに出れたぜ」
「はぁ……」
ようやく、崩壊が進んでいない道に到着して、アルファとデルタが安堵している。
その様子を見ながら、シータは自分の胸と彼女たちと見比べて落胆する。
「ねぇお兄ちゃん」
「ん?」
「お兄ちゃんは……胸が大きいほうが好きなの?」
「ぶっ、い、いきなり変なこと聞くなよ」
どうやら自分のスタイルを気にしているらしい。
いつものほほんとしているシータが珍しいと思う反面、回答に困る。
胸の大きさで女性を判断したことはない。
あまり意識したこともなかったから、好みを聞かれても答えられないんだ。
改めて考えるとどっちだ?
大きいのもいいと思うし、シータくらいも悪くない……。
みんな可愛い女の子だ、としか思っていなかった。
恥ずかしくて、一度もハッキリ口にしたことはないけど。
「大丈夫よ。あなたのお兄さんはみんなにデレデレみたいだから」
「ちょっ、姫様!」
「本当?」
「ええ、私が保証してあげる」
「やったー」
嬉しそうに緩やかに喜ぶシータ。
心が見える姫様には、俺の感情も筒抜けだった。
プライバシーも何もない。
「ふふっ、怒らないで」
「怒ってませんよ」
「そう? お詫びに……」
姫様がそっと近づき、耳元でささやく。
「私のなら、いつでも触っていいわよ」
「ちょっ、何言ってるんですか!」
「冗談よ」
「っ、わかってますよ!」
この人は本当に、いつでもどこでも俺をからかう。
ダンジョンは危険な場所だってわかってるのかな?
「もちろんわかってるわ。でも、あなたが一緒だから安心してるの」
「……」
そういうことを言われると、嬉しいから困るんだ。
と、心で思った感情も姫様には伝わっている。
意地悪だけど嬉しそうな笑顔を横目に、俺はダンジョンの奥地へと進む。
「なんも起こらねーなー」
しばらく進み、デルタが退屈そうに頭の後ろで手を組んでぼやいた。
緊張感のない彼女を、アルファが注意する。
「警戒しなさい。ここはダンジョンの中よ」
「でもさ、なんもこないじゃん。魔物もいないし、トラップもないし、ホントにダンジョンなのかこれ? ただの昔の遺跡なんじゃない?」
「以前に調査したときは魔物も生息していたそうよ」
姫様がそう語る。
おそらく入り口が封鎖され、新しく外から魔物が入り込めなくなったことが理由だろう。
ダンジョンには魔物がいるものだが、最初から生息していたわけじゃない。
長い時間をかけて魔物たちがダンジョンで巣を作るんだ。
入り込む場所がなければ、魔物も増えたりしない。
よく見ると、所々魔物らしく骨が転がっている。
食べ物がなくなり、ほとんど餓死してしまったに違いない。
「シータ」
「うん。魔力は濃くなってるから、ここはダンジョンで間違ってないと思うよ~」
俺たちはシータの感覚を信じている。
ただの遺跡に魔力を感じることはありえないだろう。
今は平和でも、奥に進めば必ず何かある。
そう思っていたのに……。
一時間後――
「ホントに退屈!」
「こら、デルタ!」
「だってさ! なーんにも起こんないじゃん!」
「確かに平和ね。驚くほどに」
俺たちはシータの感覚を頼りに、魔力が濃い方角へ進んでいる。
着実に違づいてはいるのに、何も起こらない。
ダンジョンならトラップの一つも用意してあるだろう。
以前の崩壊で、ダンジョンの機能そのものが停止してしまったのか?
それとも単に運がいいのか。
「何も起こらないことはいいことよ」
「……姉上だって本当は暴れたくてうずうずしてるくせに」
「――な、そんなことないわよ」
「うっそだー! オレより姉上のほうがじっとしてられないの知ってんだからな」
前衛の二人は身体を動かせなくてストレスを感じている様子だった。
特にデルタは我儘を口にするほど。
ダンジョン探索と聞いてワクワクしていた半面、拍子抜けするほど平和で微妙な気持ちになっているのだろう。
アルファも諫めてはいるけど、少しソワソワしているのを感じる。
「元気な子たちね」
「ですね」
「そっちの子は歩き疲れちゃったみたいだけど?」
「ははっ」
「楽ちんだー」
俺はシータをおんぶしてあげていた。
途中で歩くのが疲れたから抱っこしてほしいとせがまれた結果だ。
「おいシータ、ちゃんと自分で歩けよ」
「そうよ。ラスト様に迷惑をかけちゃダメでしょ」
「えぇ~ お兄ちゃんがいいって言ったんだもん」
「シータはずっと魔力を探ってくれているからな。これくらいはいいよ」
「甘い人ね」
ワイワイしながら先へと進む。
俺すらも、ここがダンジョンだということを忘れてしまいそうになる。
団欒とした雰囲気の中、一瞬だけ視線を感じた。
いや、視線というのにはあいまいだった。
敵意もなく、どちらかというと安心しているような……。
表現が難しい感覚を、どうやら俺だけが感じていたらしい。
そして――
俺たちはたどり着く。
ダンジョンの最奥地に。
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