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4.物理で殴ればいい

 夜は魔物が活発化する。

 昼間は眠っている魔物が目を覚まし、餌を求めて徘徊する。

 目覚めた奴らは空腹に苛立ち凶暴化している。

 故に、夜の森は非常に危険な場所とされ、冒険者であっても積極的に踏み入らない。

 誰もわざわざ危険を冒す意味がないからだ。


 そんな場所に俺はやってきた。

 仲間を失い、一人の少女……ドールと一緒に。


「大丈夫か? この森、結構強い魔物が出るんだぞ」

「ご心配には及びません。私の性能にラスト様の魔力が加われば、ドラゴンとも対等に戦えます」

「ど、ドラゴンと!?」


 それはさすがに言いすぎじゃないかと思うが……。

 かなりの自信があるのは伝わった。

 俺も興味が勝って森へ案内してしまったし、こうなったら腹を括ろう。

 でもせめて、弱い魔物が出てくれますように……。


「来ました。十二時の方向、数は一」

「……」


 彼女のセリフの直後に姿を現す。

 赤い一つ目の怪物。

 怪力と高い再生能力をもつ森の番人、トロールが。


「冗談だろ……」


 よりにもよってトロールだって?

 しかもかなりのサイズだ。

 俺が今まで見てきた中でもトップレベルに大きい。

 岩をも持ち上げる怪力と、物理攻撃がほぼ無意味な再生能力は極めて凶悪だ。

 魔法や魔導具がないパーティーにとっては相性の悪い相手でもある。


「アルファ、君は魔法が使えるのか?」

「いいえ。私は近接打撃型のドールですので、武器はこの手足です」


 そう言って彼女は綺麗な手で拳を握る。

 戦いなんてしたことがないようなきめ細かい肌をしている。

 本当に大丈夫なのかと不安になってきた。


「お下がりください、ラスト様。そして……どうかよく見ていてください。すぐに終わります」


 瞬間、彼女は跳び出した。

 地面を抉るほどの衝撃で、まっすぐトロールの懐へ。

 トロールは気づけない。

 彼女はすでに拳が届く位置に立つ。

 さらに彼女の両手から、揺らぐ炎のようなオーラが放出される。


「な、なんだあれ?」


 炎のように見えるけど違う。

 何か別のエネルギーが、彼女の拳を覆う。

 その拳で、トロールの腹部を殴った。


「はっ!」

 

 たった一撃。

 細く綺麗な手からは想像できないほどの威力で、トロールの腹部に大穴を開ける。

 

「つ、つよ……だけど――」


 トロールの再生能力は高い。

 腹部を貫かれようと、瞬時に回復してしまう。

 やはり打撃のような物理攻撃は相性が悪いか。


「まだです」


 しかし彼女は相性の悪さをもろともせず殴る。

 殴って、殴って、殴り続ける。

 トロールに反撃の隙を与えない速度で、再生速度すら上回る勢いで。


「……は、はは……」


 これはもう笑うしかない。

 物理攻撃が効きにくいトロール相手に魔法を使わず、拳だけで……。


「終わりました。ラスト様」


 トロールを殴り殺した。

 彼女は可愛らしい笑顔を俺に向けてくれる。

 これが彼女の……自動人形の力なのか。


  ◇◇◇


 翌日。

 俺は冒険者ギルドに向かった。

 追放されたこともあって、少々憂鬱ではあるが。


「ふぁー……」

「昨夜はあまり眠れなかったのですか? ラスト様」

「ああ、うん、ちょっとね」


 隣を歩くアルファの答えながら大きな欠伸をする。


「何かお考え事をされていたのですか?」

「そんなところ……かな」


 さすがに君のせいだとは言えないな。

 人形とは言え女の子が同じ部屋で眠っている……というのを意識すると眠れなかった。

 どうやら彼女は睡眠も食事も取るらしい。

 ただし必須ではなく、睡眠は魔力消費を抑えるため、食事は体内で魔力に変換するためだとか。

 極論を言えば、一日中動きっぱなしでも彼女は疲れない。

 見た目も中身も人間そっくりだけど、そういう部分は人形っぽい。


「結局どこまで人間なんだ?」

「どこまで、というのは難しいですね。私の体組成はほぼ人間と同じですが、一部人間にない器官を持っています」

「ベースは人間の身体で、そこに特殊な器官を加えているって感じか」

「はい。ですから中身も人間とそん色ありません。子供を産むこともできます」

「こ、子供!?」


 彼女は意味深にお腹の当たりに手を当てる。

 上目遣いでうっとりしながら、俺を見つめる。


「確かめて……みますか?」

「――なっ、そ、それはさすがに」

「ふふ、冗談です。すみません、ラスト様」

「……心臓に悪いな」


 こんな風に冗談も言える。

 だから俺は、彼女を人形ではなく一人の人間として扱おうと決めた。


 そうこうしているうちに、冒険者ギルドの前にたどり着く。

 中に入ると、いつも通りの賑わいを見せていた。

 見知った顔もチラホラ見えるが、彼らはいないようだ。

 そのことにホッとしたのもつかの間、どこからかヒソヒソ声が聞こえてくる。


「あいつ追放されたんだって?」

「らしいな。戦闘じゃ何の役にも立たないんだってよ」

「そりゃ追い出されて当然だな」

「……まぁ、そうなるよな」


 予想通り、すでに噂は広まっていた。

 若干の尾ひれもついている。

 これじゃ他のパーティーに入れてもらうのは厳しいな。


「お、なんか女連れてるぞ?」

「可愛いじゃねーか」


 俺に続けてアルファが注目されている。

 昨日追放された人間が次の日、見知らぬ女性を連れて歩いていたら誰だって気になるだろう。

 特にアルファの容姿は綺麗だからな。


「なぁ姉ちゃんってそいつの仲間なのか?」


 突然大男が声をかけてきた。

 俺ではなくアルファに直接話しかけている辺りが、俺をなめているのがよくわかる。


「知らねーのか? そいつ役立たずだって捨てられたんだぜ?」

「……」


 アルファは答えない。

 俺と一緒に立ち去ろうとするが、男は邪魔をして道を塞ぐ。


「そんな奴と一緒より俺らのほうが頼りになるぞ?」

「……」

「あの、彼女は俺の――」

「うるせーな。役立たずは引っ込んで――」


 俺への悪態を彼女は見逃さなかった。

 黙っていた彼女は瞬時に男の腕を掴み、軽々ところがす。

 倒れた男の肘を決め、汚物を見る目で睨む。


「な、い、いてててててて!」

「ラスト様への侮辱は許しません。次にその汚い口を開けば、この腕を折りますよ?」


 場が静寂に包まれた。

 可憐な容姿の彼女からは想像できない過激な行動とセリフに、全員が驚愕している。


 さすがにやり過ぎな気がするけど……。


「ありがとう」


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