38.エンカウント
魔物は全部で六種。
空を飛ぶことができるスケールグローという大鷲の魔物が一種。
それ以外は地上メインの魔物だけだ。
警戒すべきは空を飛ぶ種類のみ。
それを先に堕とす。
「シータ!」
「はいはーい」
シータが右手を前にかざす。
展開された術式は極光。
光のエネルギーが弾丸となって放たれ、空を飛ぶスケールグローを撃墜していく。
「地上のは私たちに!」
「任せてくれよなマスター!」
シータの攻撃と同時に、アルファとデルタが駆け出す。
アルファは拳の魔力を纏わせ、豪快な一撃で魔物を沈める。
デルタは両手に剣を持ち、背後にも剣を浮かせて装備しながら、舞うように魔物たちを切り刻む。
距離を取ろうとする魔物は、背後に浮かんだ剣を射出して追撃する。
この程度の魔物、彼女たちの相手にはならない。
俺は姫様の護衛に集中しながら、シータに尋ねる。
「あいつらが汚染の原因なのか?」
「うーん……違う、気がするよぉ
「そうか。ならこの先に……」
本命の魔物が待っている?
「はっ! 余裕だぜ!」
「気を抜かないで。まだ残ってる」
「大丈夫だよ、姉上。このくらい平気――!」
アルファとデルタの元に衝撃が走る。
何かが飛来した。
空から真っ逆さまに落ちて、二人を襲う。
間一髪で気づいた二人は大きく飛び避け、俺の前へと戻る。
「二人とも平気か?」
「問題ありません」
「なんも受けてねーよ。それよりマスター、なんかやばいのが来やがった」
「……ああ」
立ち上る土煙の中に、何かがいる。
いや、誰かがいる。
微かに見えるシルエットが、大柄の人間らしき雰囲気を醸し出す。
「チッ、どっちも躱しやがったか」
男の声が聞こえた。
それとほぼ同時に、男は何かを横に振るった。
風圧で土煙が掻き消え、姿が露になる。
立っていたのは大柄で短髪、右手に身の丈の倍はある大剣を握った男だった。
立ち振る舞い、醸し出す雰囲気からわかる強者の圧力。
俺たちは無意識に警戒を強める。
その警戒をすり抜ける様に、ぬるっともう一人が現れる。
大男の隣にひょこっと立つ。
「――ダメじゃないですかー。あの子たちは壊しちゃダメって言われてるんですよ~」
「うるせぇな。ただの挨拶だ。本気じゃねーよ」
「本当ですか? ま、躱されたみたいですし問題ないですね」
「喧嘩うってやがるのか」
「まっさか~ 仲良くやりましょうよ。ボクらのターゲットは向こうですから」
中性的な顔つきの青年が、ニコやかに俺たちを見る。
大男とは正反対の容姿、雰囲気。
だけど、明らかに普通の人間じゃない。
笑顔の中に、鋭い殺気が隠れている。
「二人もいやがったか。どうする? マスター」
「……そうだね。まずは確かめよう」
俺は男たちに問いかける。
「お前たちは何者だ?」
「あん? なんだてめぇ、知らないでここに来たのか? 馬鹿どもが昨日挨拶に言っただろ?」
「……やっぱり、幻灯団か」
「正解ですよ~ ボクはロキ、この大きな人がバイデンさんですよー」
「勝手に教えんな」
バイデンとロキ。
その名前を聞いた瞬間、姫様がピクリと反応した。
「知っているんですか?」
「帝都でみた報告書にあった名前よ。二人とも幹部、バイデンは確か……副団長」
「幻灯団の二番手ってことですか」
「ええ」
帝国と真っ向から戦争ができるほど強大な組織。
その二番手と幹部がいる。
俺はごくりと息を飲む。
「気を付けて。二人とも相当な強さよ。それに……」
「てめぇが護衛の男か!」
「――!」
バイデンが俺に話しかけてきた。
俺はビクッと反応して、身構えながら答える。
「ああ」
「昨日の奴らを返り討ちにしたのもてめぇだな?」
「そうだけど?」
「そうか。じゃあもう一個、てめぇらの中で一番強いのは誰だ?」
バイデンは大剣の切っ先をこちらに向けて問いかける。
どういう意図での質問か思考する。
相手の戦力を知るため?
なんとなく、そういう雰囲気には見えない。
バイデンは俺を睨む。
「お前か? 男」
「……」
「そうです」
俺が回答に困っていると、横からアルファが答えた。
それに合わせる様に二人も続く。
「オレたちのマスターだからな」
「お兄ちゃんが一番だと思うよ~」
「みんな……」
俺が答えに困ったのは、自信がなかったからだ。
強くなった自負はある。
それでも、強さを自覚してもいいのかと……自惚れだと思われないか不安だった。
だけど、彼女たちがそう言ってくれる。
俺は強いと教えてくれる。
それは信頼であり、期待だ。
ならば俺は、彼女たちの前で恥はかけない。
その自信を俺にも分けてくれ。
「そうらしい」
「――はっ」
バイデンが笑う。
豪快に、期待するように。
「決まりだ」
直後、バイデンの姿が消える。
気づいたときには視界の右端にいて、大きく大剣を振りかぶっていた。
そのまま大剣を振りぬき、俺は吹き飛ばされる。
「ラスト様!」
「マスター!」
「お兄ちゃん!」
「ロキ! 予定通りそっちは任せるぞ」
「はいはい。手早く終わらせてくださいよ~」
「はっ! そいつは、あの野郎の実力次第だな」
バイデンが駆け出す。
追おうとしたアルファたちの前に、ロキが立ちはだかる。
アルファがロキを睨む。
「邪魔をしないでください」
「ごめんね。邪魔をするのがボクの仕事なんだ」
ロキは指を鳴らす。
すると彼の背後に術式が展開され、黒い影が無数に姿を見せる。
シータがそれを見てぼそりと呟く。
「召喚術……?」
「正解。ボクはサモナーなんだ」




