表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【二章完結】世界でただ一人の自動人形『ドール』使い  作者: 日之影ソラ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/45

35.襲撃者と希望

「ひ、姫様、そろそろ離れたほうが」

「嫌よ」

「嫌って」

「私はこのままがいいわ。あなたがしたいなら、今考えたことも……」


 ごくりと息を飲む。

 下心を見透かされ、恥ずかしさが絶頂に達する。

 俺だって男だ。

 こんな状況になって、姫様ほどの可愛い女性を前にして、何も感じないはずがない。

 理性で保っているのも限界がある。

 嫌じゃないと言われたら、本当に……。


 バキバキバキ―― 


 直後、亀裂音が部屋に響く。

 異様な音だ。

 雨の音をかき消し、雷の音でもない。

 俺はすぐに周囲へ視線を向ける。

 壁や天井をはうように、黒い木々の陰のような模様が広がっている。


「ラスト」

「これは……」


 結界だ。

 それも、俺たちを閉じ込めるために展開されたもの。

 部屋全体に魔力が満ちる。

 おそらく外との連絡は絶たれた。

 姫様の身体が恐怖で震え始める。

 感じているんだ。

 彼女に向けられる殺気を。


「大丈夫です。俺がいますから」

「ラスト……」


 未だ気配はない。

 だがこの状況、すでに刺客は近くにいる。

 警戒する俺の前で、影がうごめく。

 およそ暗い部屋で出来るとは思えないほど濃く、広い影が広がり、そこからローブで身を包んだ人がぞろぞろと出てくる。

 あっという間に囲まれてしまう。

 数は八人。

 

「暗殺者か? 狙いは彼女だろう?」


 俺の問いに対して返答はない。

 答えはなくとも目的は明白だった。

 王族の別荘に侵入している時点で、彼女以外にありえない。


「姫様、ちょっと失礼します」


 俺は姫様を左腕で抱きかかえる。

 密閉された部屋。

 この狭い空間で術式の使用は姫様を巻き込むからできない。

 よりコンパクトに、迫ってくる相手を迎撃する。

 大丈夫だ。

 今の俺なら、片腕でも戦える。


「来い」


 暗殺者たちが一斉に動き出す。

 手にはナイフを手にして、かく乱するように左右へ動く。

 さすがに動きは速い。

 狭い空間をもろともせず、縦横無尽に動き回る。

 こういった場所での戦いに慣れているのだろう。

 ただ、今の俺なら目で追える。

 遅れて反応しても―― 


「遅い」

 

 間に合う。

 背後から迫った男の腕をつかみ、そのまま投げ飛ばす。

 続けて左右から迫る暗殺者を、右から左へ順に殴りとばす。

 アルファの力で身体能力を向上させ、シータの金剛で肉体を鋼鉄並みの強度に引き上げる。

 俺の身体に生半可な攻撃は通らない。

 加えて――


「鎖!?」

「初めて声を出したな」

「ぐあぁあ!」


 デルタの能力で作った鎖で暗殺者を巻き取る。

 鎖には帯電の能力を付与してある。

 絡まれば最後、全身を走る電流によって行動不能となる。


「……」


 すでに半数が倒され、残った暗殺者が攻撃の手に悩む。

 数での有利は意味をなさない。

 次にとる行動は、逃走か別の手段による攻撃。

 彼らが選択したのは――

 

「魔術か」


 全員が異なる術式を展開する。

 闇雲に攻撃しても無駄だと判断し、広範囲に攻撃する魔術へ切り替えた。

 おそらくは仲間を巻き込むことを覚悟した上で。

 彼らの目的が姫様の殺害なら、手段としては正しい。

 もっともその判断が――


「少し遅かったな」


 部屋の扉に亀裂が入り、爆発音と共に扉が開く。

 姿を見せたのはもちろん三人だ。


「ラスト様!」

「無事か? マスター!」

「ごめん。結界開けるのに時間かかっちゃったぁ」

「来てくれると思ったよ、みんな」


 三人が異変に気付かないわけがない。

 そしてこの程度の結界を、彼女たちが突破できないはずもない。

 俺も結界に集中すれば破壊はできたんだ。

 そうしなかったのは、姫様の安全を優先したから。

 何より、彼女たちなら自力で結界を破壊し、合流してくれると信じていた。


「これで完全に、数の有利もなくなったな」


 もやは奴らに勝ち目はない。

 そう理解し、大人しく捕まってくれると有り難いが……。


「チッ」

 

 特大の舌打ちが響いた。

 直後、暗殺者たちの足元から黒影が広がる。

 現れた時と同じ影が、今度は彼らを包んでいく。


「移動の術式」


 シータがぼそりと呟いた。

 その時には暗殺者の身体は半分以上影に隠れている。

 術式の解除は間に合わない。

 思考をめぐらす間にあっさりと、暗殺者たちは消えてしまった。


「倒れてたやつらまでいなくなってやがるな」

「さっきの……どういう術式かわかる?」

「移動系。でも、たぶん使った人はあの中にはいなかったよ」

「外から助けたっていうことか。まだ他にも仲間が……ん?」


 デルタが部屋の中を歩き回り、何かを見つけて拾い上げた。


「なぁマスター、これあいつらの忘れ物じゃない?」

「それは……」


 金属の円盤?

 穴が開いて紐が通してある。

 手の平サイズの小さな金属の円盤には、たいまつと炎が描かれていた。

 煙も描かれていて、独特な絵だ。

 何かを表しているような……。


「幻灯団」


 俺の隣で、姫様がぼそっと口に出す。

 その名は姫様が俺たちに提示した依頼の一つ。

 国を荒らす盗賊の一団の名だった。


「さっきの奴らが幻灯団だったのか? なんで姫様を狙ってるんだよ」

「姫様」

「わからないわ。今まで一度も襲われたことは……」


 姫様の表情が変わる。

 何かに気付いた様子だ。


「姫様?」

「……そういえば、あの人たちの心……ちゃんと読めなかったわ」

「え」

「殺意は感じた。けど、何を考えているのかはわからなかった。こんなの初めてね」


 姫様が不安そうな顔を見せる。

 だけど俺は、これをチャンスだと思えた。

 彼女の能力を封じる。

 もしくは阻害する方法を彼らは知っている。

 ならその方法を知れば、たどり着けるかもしれない。

 俺の思考を呼んだ姫様が、ぱっと俺のほうへ振り向き、視線を合わせる。


「見つかるかもしれませんよ。苦悩を解決する方法が」

「――ええ」


 これは思わぬ光明だ。

 悪いことばかりじゃない。

 姫様の瞳には確かに、希望の光が宿っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
連載版始めました!
悪役令嬢に転生した田舎娘がバッドエンド回避に挑む話
https://ncode.syosetu.com/n7604hy/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしよければ、

上記の☆☆☆☆☆評価欄に

★★★★★で、応援していただけるとすごく嬉しいです!


ブクマもありがとうございます!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ