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【二章完結】世界でただ一人の自動人形『ドール』使い  作者: 日之影ソラ
第二章

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34.その心に甘えて

「朝も雨が続いていたら、上流への調査はやめたほうがよさそうですね」

「そうね。その場合は街中の調査を優先しましょう」

「はい。被害状況も詳しく知りたいですね」

「ええ」


 俺たちは淡々と会話を進める。

 明日のことを確認しているだけで、他意はない。

 姫様の様子も普段通り……に見える。


「もう寝ましょう。俺はそこのソファーにいるので、何かあれば」

「あら? 一緒に寝ないの?」

「っ、ダメに決まってるじゃないですか」

「私は気にしないわよ?」


 またこの人は……。

 俺のことをからかって楽しんでいる。

 少しだけ不安そうに見えたのは気のせいだったのだろう。

 そう思って彼女に背を向ける。


「からかわないでください」

「いいじゃない。私たちしかいないのよ?」

「そういう問題じゃ――!」


 無視してソファーへ向かおうとした俺の手を、姫様が握る。

 一瞬で理解した。

 その手がわずかに、震えていることに。

 外では雨が強まり、雷が鳴っている。

 雷の音に怯えている?

 いいや、そんな感じはしない。

 だけど間違いなく、彼女は何かに怯えているようだった。

 理由はわからない。

 考えられるとすれば、彼女が持つ特別な力で……。


「何を見たんですか?」

「……殺意よ」

「殺意?」


 姫様は静かに頷く。

 俺たちは二人でベッドの端に並んで腰かける。

 握った手は姫様が離してくれない。

 俺も無理に離そうとは思わなかったから、そのままでいた。


「街に入った後よ。私たちを見る視線の中に、私に対して明確な殺意を向けているものがあったわ」

「それって……」


 馬車に姫様が乗っていることに気付いていた奴がいる?

 一度も顔を外に向けていないのに?

 

「気のせい……とかじゃないですよね」

「だったら私は間抜けね」

「すみません」


 他人の心を覗くことができる彼女が、敵意や殺意を間違えるはずがない。

 彼女がそう感じたのなら間違いない。

 この街に、姫様を殺意を向ける輩が紛れている。

 一体誰だ?

 今回の任務も、姫様が同行していることを知っている人物は限られている。

 帝国内部の……上層部?

 あるいはどこかで情報が洩れて、帝国と敵対する組織が動いているのか。

 

「だから護衛がほしいと言ったんですね」

「……ええ」


 殺意の正体がわからない。

 不安の恐怖を和らげるために、頼りになる人を傍に置きたい。

 そう思って、俺を選んでくれたのか。

 

「光栄ですね」

「口に出ているわよ」

「わざとですよ。どうせ心の中で言ってもバレますから。だったら口に出そうかと」

「諦めがいいのね」

「姫様も、話していたほうが落ち着きませんか?」


 俺と話している間、姫様の震えは止まっていた。

 それに気づいていたから、意図的に会話を広げようとしてみる。


「優しいわね。あなたは」

「そんなことありませんよ」

「無自覚かしら? そんなだと、あの子たちが嫉妬しちゃうわよ? でも今は……」


 姫様は握っていた手を離し、今度は腕に抱き着く。

 胸を押し当て、密着するように。

 さすがに俺もドキっとしてしまう。

 逃げようと身体をずらしても、彼女が力強く引き戻す。

 何より……。


「その優しさに甘えるわ」

「姫様……」


 安心しきった表情を見せられたら、振り払うのが躊躇われる。

 俺なんかと一緒にいて、こうも安心してくれる。

 そう思うと誇らしい。


「なんかじゃないわよ」

「また心を……」

「……私、普段は心を読まないようにしているのよ」

「え、そんなことできるんですか?」


 驚く俺に、姫様はクスリと笑う。


「正確にはできないわ。ただ聞こえても無視したり、頭の中で他のことを考えたりして、自分の中でごまかしているのよ。そうしないと、嫌になるから」

「……いい声は聞こえてこないんですね」

「ええ。わかるでしょ? 私は皇女……近寄る相手なんて、心を読むまでもなく意図が透けているわ。こんな力……なければよかったのに」

「姫様……」


 今のは本音だ。

 心なんて読めなくても、強くそう感じた。

 他人の心を見透かす。

 とても便利で強力な力だけど、使っている本人からすれば便利なだけじゃない。

 聞きたくなくても、他人の考えが流れ込む。

 知りたくもない相手の心を、嫌でも見てしまう。

 考えるだけでも苦痛だ。

 彼女はそれに……何年も耐えてきたのだろう。

 どうにかして、その力を制御する方法はないだろうか。

 能力のオンオフが可能になれば、彼女の抱えている苦労も軽減されるはずだ。

 

「本当に優しいわね。他人のことなのに、そんな風に真剣に悩んでくれるなんて」

「普通じゃないですか? 今の話を聞いたら、誰だって考えますよ」

「いないわよ。少なくとも私の周りには……便利な力だって思う人間しかいなかった。私が悩んでいることすら気づいていなかった。お父様も……」


 小さく消えいりそうな声で、姫様は呟いた。

 彼女の肉親は、幼いころから力のことを知っているはずだ。

 陛下がどう思っているのか気になったが、この様子なら聞かないほうがいいだろう。

 彼女も何も言わない。

 聞いてほしくないなら、俺はあえて尋ねない。


「何かいい方法が見つかるといいですね」

「無理よ。ずっと探しているけど何もないもの」

「わかりませんよ? 俺だって、ずっと自分の力なんて意味がないものだと思っていました。けど思わぬ出会いがきっかけで変わったんです」


 アルファと出会い、俺は戦う力を得た。

 魔力タンクになるしかできないと思っていたスキルにも、気づいていない力が隠されていた。

 自分のことでも、気づいていないことは意外と多い。

 思いがけない方法で、体験を経て、変わることだってあるんだ。


「アルファたちにも相談してみましょう。彼女たちは現代にない知識を持っていますから」

「……そうね」

「きっと見つかりますよ。俺も一緒に探しますから」

「……ラスト」


 彼女は俺の名前を呼び、顔を見上げる。

 いつもと違う、うっとりした表情で。


「ありがとう。あなたの心は、ずっと見ていたいと思えるわ」

 

 思わずドキっとしてしまった。

 からかっている時の笑顔でもなく、楽しそうにしている時の笑顔でもない。

 初めて見るその表情に、心臓の鼓動が加速する。

 なんだかいい雰囲気だ。

 このまま本当に……そういう流れになりそうなほど。

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悪役令嬢に転生した田舎娘がバッドエンド回避に挑む話
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