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【二章完結】世界でただ一人の自動人形『ドール』使い  作者: 日之影ソラ
第二章

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33/45

33.変なことしちゃだめですよ!

 マートレ湖の周囲には四つの都市がある。

 どれも規模は同じくらい、人口もそこまで変わらない。

 建物の感じや街の風景にも大差はなく、違うのは名前くらいだろう。

 俺たちが足を運んだのは、湖の西側にあるウエスト。

 到着した頃にはすっかり日も沈み、宿を探そうとした俺たちに、姫様が進言する。


「この先に別荘があるわ。そこを使いましょう。デルタ、このまま真っすぐ行ってちょうだい」

「了解! さっすが皇女様。別荘持ってんのか」

「私のじゃなくて王族が所有するものよ。あまり使っていないけど」

「へぇ~ 勿体ねぇーなー」

 

 デルタの運転で馬車は走る。

 地味な見た目の馬車だから、誰も王族が乗っているなんて気づきもしないだろう。

 時折視線は感じるが、馬車が走っていれば誰でも一瞬くらい目で追う。

 人気のない道に入り、明かりも少ない通りを進むと、姫様が言っていた別荘が見つかる。


「到着っと! でっけぇーなー」

「これで別荘……」

「誰も住んでないのぉ?」

「普段は使っていないわ。前に来たのは二年前だったかしら」

  

 さすがに勿体ない。

 そう心の中で思いながら、馬車を停めて中に入る。

 中は思ったより綺麗だった。

 定期的に清掃はされているらしく、埃や汚れもほとんどない。

 ベッドもすぐ使える状態を保っていた。


「部屋割りはどうしようか」

「シータはお兄ちゃんと一緒に寝る~」

「ずるっ、じゃなくてダメよシータ」

「一瞬本音が漏れたな、姉上」


 ぼそりと呟いたデルタを、アルファがギロっとにらむ。

 デルタは小さな声で、なんでもないですと言って縮こまっていた。

 俺は苦笑いしながら提案する。


「これだけ部屋があるんだし、一人一部屋とかじゃだめかな?」

「それがいいと思います」

「オレもいいぜ」

「えぇ……しょうがない」

「そう? じゃあ私はラストと一緒の部屋にするわね」

「「「え?」」」


 三姉妹の声が揃った。

 俺も驚きかけたけど、三人の声にかき消された。

 アルファが慌てて問いただす。


「どうしてそうなるんですか!」

「深い意味はない。ただの護衛よ」

「護衛?」

「私はこれで皇女なの。何かあったら大変でしょう? 強くて頼りになる人が傍にいてくれないと、安心して眠れないわ」


 もっともらしい理由を言われ、アルファが一瞬納得しかける。

 けどすぐに思い返して反論する。


「それなら、私たちの誰かでもいいじゃないですか!」

「そうね。誰でもいいわ。だからここは、彼の意志を尊重しましょう」

「え」


 唐突に、姫様が俺に視線を向ける。


「ラストはどう?」


 姫様の質問に合わせて、全員の視線が集中する。

 俺がどうしたいか選べ、ということらしい。

 姫様に護衛が必要なのはわかった。

 少なくとも誰か一人、同じ部屋にはいるべきだろう。

 普通に考えて、姫様と同じ女性が一緒にいるべきだ。

 男である俺はその時点で除外される。

 けど……。

 姫様の視線が、強く訴えかけているような気がした。


「わかりました。今夜は俺が護衛に入ります」


 俺がそう答えると、姫様はホッとしたように呼吸をする。

 当然、アルファは納得がいかない様子だ。


「どうしてですか?」

「交代制にしようと思うんだ。調査が一日で終わるとも思えないし、順番に変わったほうがいいだろう?」

「私なら平気です」

「俺が平気じゃないんだ。明日はアルファにお願いするから、今日は休んでくれ」


 俺はなだめる様にアルファの頭をぽんぽんと撫でる。

 理屈で納得させるのは難しい。

 アルファの言いたいことはわかるし、間違っていないから。

 ただ今は、俺の意図を汲んでほしかった。


「……わかりました。我儘を言って申し訳ありません」

「我儘だとは思ってない。俺のことを心配してくれたんだろ? アルファは優しいから」

「……優しいのはラスト様です」

「え、何?」

「なんでもありません! くれぐれも、変なことはしないでくださいね?」


 ピシッとアルファが俺の顔に向けて指をさす。


「す、するわけないだろ。ただの護衛だ」

「私はいいわよ」

「ちょっ、姫様?」

「むぅ、やっぱり私も一緒の部屋にします!」


 姫様が余計なことを言うから、納得しかけたアルファが再び怒りだしてしまった。

 なだめるのに三十分もかかってしまったよ。

 まったく、姫様のからかい好きには困ったものだ。

 そんな姫様がどうして……少し怯えているように見えたのだろう?


 別荘の中は快適で、生活に必要なものは全て揃っていた。

 夕食を済ませ、シャワーも浴びて。

 寝るだけになり、時間も遅いのでそれぞれの寝室に入る。

 最後の最後まで、アルファからは変なことをするなと念を押された。

 もちろん俺にその気はない。

 相手は一国の王女様だ。

 もし仮に手を出そうものなら……俺は打ち首だろうからな。

 あくまで護衛のために一緒にいる。


「ぅーん、馬車に乗るだけでも疲れるわね」

「揺れますからね。腰とか足はそれだけでも疲れますよ」

「そうね。早く寝ましょう。あら……」


 姫様が窓の外を見える。

 ちょうど窓ガラスにぽつりぽつりと、水滴がつく。

 気づけば一瞬で、外は騒がしくなる。


「降ってきたわね」

「みたいですね」


 かなり強い雨だ。

 大雨や嵐は湖の水質に影響を与える。

 異変が起こっている今、追加で悪影響を及ぼす事態になるのは不運としか言えない。

 明日の調査にも影響するだろうし、朝には止んでほしいな。

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悪役令嬢に転生した田舎娘がバッドエンド回避に挑む話
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