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【二章完結】世界でただ一人の自動人形『ドール』使い  作者: 日之影ソラ
第二章

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32.マートレ湖

 マートレ湖。

 世界最大の湖であり、四方を囲む都市に水を水を供給している貴重な水源。

 地下水と山から流れる川の水が交じり合った水は、そのまま飲んでも平気なほど綺麗で美味しい。

 人々の生活に欠かせない湖に、数週間前から異変が見られ始めた。

 底まで見える透明度を誇っていた水が、わずかに濁り始めたのである。

 嵐が起きた日の翌日など、原因がハッキリした濁りではない。

 前後に何か大きな出来事があったわけでもなく、突然水の透明度が損なわれた。

 ちょうどその頃からだろう。

 四方を囲む都市で、原因不明の病が蔓延し始めたのは。


「ここがその湖ですか?」

「そうらしいね。俺も来るのは初めてだ」


 俺たちを乗せた馬車は五日かけて移動し、ようやく目的地にたどり着いた。

 アルファが隣で一緒に、目の前に広がる湖を眺める。

 聞いていた以上に大きい。

 水平線が見えるほどだ。

 周囲は木々に覆われていて、森の中に巨大な湖が一つある。

 湖は山から流れる川以外に、四方へ別れる川がある。

 それぞれが各都市に続いているそうだ。

 デルタとシータが湖の中を覗き込む。


「十分綺麗じゃね」

「ちょっと曇ってるくらいだねぇ~」


 俺とアルファも遅れて水を確認する。

 二人の言う通り、そこまで汚いとは思えなかった。

 透明な水は湖の底まで見える。

 わずかに濁っているのか、少しだけ暗い。

 普段の様子を知らない俺たちには、今がどれほど変化した後なのかわからなかった。


「かなり濁っているわね」

「姫様」

 

 姫様が俺の隣に歩み寄り、しゃがみこんで水に触れる。

 すくいあげた水も透明で、俺には綺麗に見えた。

 姫様は水の匂いを嗅ぐ。


「本当に少しだけど刺激臭が混ざっているわ」

「本当ですか?」

「ええ。私は普通の人より鼻もいいのよ。前に何度か来たことがあるから、本来の様子も知っているわ」


 そう言って姫様は立ち上がり、普段の様子を教えてくれた。

 姫様曰く、本来なら風がない日は太陽の光がそのまま湖の底を照らすほどの透明度を誇っているらしい。

 微かに曇っている今の状態でも、十分な変化だそうだ。


「見て。魚も泳いでいないでしょう?」

「みたいですね」

「前はもっといたわ。この周りにも、水を飲みにくる動物の姿を見たものよ」


 俺たちは周囲を見渡す。

 森に囲まれ、自然豊かな土地だ。

 動物の一匹や二匹、姿を見ても不思議じゃない。

 そういえば、道中もあまり生物を見かけなかった。

 飛び立つ鳥はいたけど、野生の動物たちの姿はない。

 単純に警戒して隠れているだけかとも思ったが、姫様の話を聞いた後だと、違う理由が思い浮かぶ。


「生息地を移動させたんでしょうか」

「そうかもしれないわね。水を飲むのは人間だけじゃないわ。いえむしろ、動物たちのためにあるものよ」

「水に何か……ただ濁った程度で生き物がいなくなるのは不自然ですね」

「私もそう思うわ。だから調査しに来たのよ」


 俺は姫様と話しながらしゃがみこみ、彼女と同じように水をすくいあげる。

 どう見てもただの水だ。

 匂いを嗅いだけど、俺には刺激臭は感じられない。

 飲んで味を確かめる……というのは、さすがに怖くてできなかった。

 少なくとも観察した限りでの違和感はない。

 俺はシータに視線を向ける。


「シータ、魔術的痕跡がないか調べることはできる?」

「やれるよ」

「じゃあお願いできるか?」

「うん。お兄ちゃん指出して」

「指?」


 シータはこくりと頷いた。

 手は水をすくった後で濡れている。

 拭いてから差し出そうとすると、そのままでいいと言われた。

 よくわかないまま彼女に右手を差し出す。

 するとシータは俺の右手を握り、人差し指を――


「はむ」

「えっ」


 パクリと口に入れた。

 そのままちゅぱちゅぱと吸っている。

 まるで赤子のように。

 驚いているのは俺と姫様だけで、アルファとデルタは動じていない。

 アルファはもやもやした感情を表情に見せているけど、驚いてはいなかった。

 つまりはシータの行動は、彼女たちにとって普通のことなのだろう。

 シータは指から口を離し、目を瞑る。

 しばらく待っていると、彼女は目を開いた。


「魔術の痕跡はない」

「そうか」

「――けど、魔力っぽい味はしたよ」

「味?」

「うん。人間じゃない。魔物かな?」


 シータは舌は魔力の味を感じ取れるらしい。

 彼女曰く、水の中に何らかの魔物の魔力が混じっているそうだ。

 それが濁りの原因になっているのか。

 辺りを見渡しても、それらしい気配は感じられない。

 考えられるとすれば湖の中だ。


「確認してくるか」

「シータも行く」

「じゃあ二人で行こうか。みんなはここで待っていてくれ」

「かしこまりました」

「了解だぜ」

「わかったわ。気を付けて」


 三人には待機をお願いして、俺とシータは揃って術式を発動させる。


「「兎月」」


 俺とシータは空気を蹴って上空へ飛び上がり、そのまま湖の中心を目指す。

 濁っているとはいえ、これだけの透明度を保っているなら、上空から見れば一発でわかるだろう。

 シータが湖を見下ろしながら言う。 


「ひろーい」

「だな」


 こうして上から見ても、湖の大きさに圧倒される。

 気づけばアルファたちの姿は豆粒みたいに小さくなっていた。

 少しずつ高度を上げつつ、俺たちは中心を目指す。

 ようやく中心っぽい地点までたどり着いて、真下を見下ろす。


「どうだ?」

「うーん……」


 視力は人間の俺より、ドールのシータのほうが高い。

 

「何もないよ~」

「そうか。もう少し外周も回ってみよう」

「はーい。疲れたからお兄ちゃん抱っこしてぇ~」

「仕方ないな」


 シータに甘えられるとなぜか拒否できないんだよな。

 抱き着いてきたシータをお姫様抱っこして、そのままぐるりと湖の周りを一周した。


「お帰りなさいませ。って、どうしてシータを抱っこしているんですか?」

「快適だったぁ~」

「はぁ……また甘やかして」

「姉上もやってもらえばいいじゃん」

「そういう問題じゃないでしょ! もうっ」


 アルファは大きくため息をこぼす。

 妹たちのことで頭を悩ませる姿は、人間の姉妹にも重なるだろう。

 その光景を微笑ましいと思いながら、姫様がニヤついているのがわかった。

 また心を読まれたな。

 ツッコまれる前に話を進めよう。


「湖の中に異常はありませんでしたよ」

「そう。中じゃないなら、考えられるルートは二つね」

「都市と上流ですか」

「ええ。どちらかに問題がある。水の流れだけなら上流ね」


 湖に流れ込む山の水。

 源流に問題がある可能性が一番高い。

 ただ、時間的にもう遅い。

 西の空に夕日が沈みかけていて、もうじき夜が訪れる。


「ラスト様。先に都市を回ったほうがいいと思います」

「そうだな。どこか宿も見つけて一泊しよう」

「そんじゃ馬車に乗ってくれ!」


 デルタが運転席に乗りこみ、後から俺たちも馬車へ乗る。

 俺たちは一先ず、ここから一番近い街へ向かうことにした。

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