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【二章完結】世界でただ一人の自動人形『ドール』使い  作者: 日之影ソラ
第二章

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31.特別な人間

 馬車が揺れる。

 整備されていない山道は、凹凸で車輪が大きく上下する。

 時折くる大きな揺れも、予想できないからビクっとする。

 また一回、大きく馬車が揺れた。

 隣に座る彼女が、俺の腕に掴まって揺れを耐える。


「っと、大丈夫ですか?」

「ええ、ありがとう」

「ジー……」

「あら? なんだか注目されちゃってるわね」

「……そうですね」


 姫様は楽しそうに笑う。

 俺はさっきから感じるじとーとした視線のせいで、少し落ち着かない。

 

「あの、アルファ?」

「なんですか?」

「いや、そんなにじっと見られると緊張するんだけど……」

「お気になさらないでください」


 そう言われても気になるから困るんだ。

 俺たちは今、姫様からの依頼でマートレ湖という場所に向かっている。

 王都から距離が離れているから数日かけて馬車で移動する。

 アンデッド退治の時と同じく、姫様も同行したいと言ったので、一緒に馬車に乗っていた。

 かれこれ出発してから五時間ほど経過している。

 その間ずーっと、アルファは俺と姫様をじっと監視していた。

 アルファがこの調子なのは、アンデッド討伐を終えた直後からだ。

 まず間違いなく、あれが原因だろう。


「姉上は嫉妬深いからなぁー」

「何か言った?」

「な、何もいってない! 怖ぇよマスター……」

「あははは……」


 デルタは馬車を操縦してくれている。

 シータはマイペースに、俺の膝を枕にしてスヤスヤ眠っていた。

 よくこの揺れの中眠れるものだと感心する。


「アルファも少し休んだら? まだ距離もあるし」

「お気遣いありがとうございます。でも私は大丈夫です。しっかり警戒させていただきます」


 そう言いながら俺たちをじっと見たままだ。

 周囲を警戒するとかじゃなくて、俺の隣に座っている姫様をよく見ている。

 俺は落ち着かないけど、姫様はこの状況を楽しんでいるように見える。

 姫様はにこやかに言う。


「そんな風に見つめられると照れちゃうわね」

「……」


 余裕を見せる姫様に、アルファはムスッと頬を膨らませる。

 姫様はクスリと笑う。


「大丈夫よ。あのキスはお礼、そう何度もしたりはしないわ」

「……どうでしょうね」

「あら、信用ないのね」

「私が信用しているのはラスト様だけですから」


 一国の皇女様相手に物怖じしないこの態度。

 相手がエリーシュ皇女殿下じゃなければ、その場で罪人にされていただろう。

 接しやすく優しい人で助かった。

 いきなり頬にキスされるのは心臓に悪いけど……。

 まぁただ、嫌ではなかったな。


「あなたのご主人様は嫌じゃなかったみたいよ」

「うっ」

「ラスト様?」


 そうなんですか、と問いかけるような視線がアルファから向けられる。

 俺は笑ってごまかす。

 そうだった。

 時々忘れがちになるけど、姫様は特別なスキルで他人の心が読めるんだったな。

 しかもドールの心は読めないから、この場で心を見透かされるのは俺一人だ。

 ちょっと不公平じゃないか?


「ふふっ、面白い考え方をするわね」


 また心を読まれた。

 姫様は楽しそうに笑う。

 俺は開き直って姫様に言う。


「だってそうじゃないですか」

「嫌?」

「それはまぁ……嫌というよりは恥ずかしいですね。俺は結構、口に出さず頭でいろいろ考えちゃうので」

「そうみたいね。よく独り言が聞こえてくるわ」


 そう言って姫様はいたずらな笑みを見せる。

 この人は俺の心を読んで楽しんでいるみたいだ。

 本当にいい性格をしている。

 と、思っている声も聞こえているのだろう。


「あなただからよ」

「え?」


 唐突な一言にキョトンとする。

 姫様は憂いを含んだ瞳を、自分の膝の上で重ねた手に向ける。


「他人の心なんて、覗いても楽しいものじゃないわ。少なくとも、私の周りにいた人たちの心なんて、聞いてもちっとも楽しくなかったもの」

「それは……」

「わかるでしょ? 私はこれでも皇女だから」

 

 取り入ろうと近づく者たちの本心が見えてしまう。

 純粋に仲良くしたい、なんて人は少ないはずだ。

 皆、彼女ではなく彼女の肩書を見て歩み寄り、手もみしながら作り笑いを浮かべる。

 言葉や表情では友好的でも、内心は違うのだろう。

 姫様は小さく頷いた。

 

「あなたはわかりやすくて助かるわ。考えていること、心を覗かなくてもわかるもの」

「単純って言いたいんですか?」

「ふふっ、嫌だった? 私的には褒めているつもりだったのだけど」


 姫様はクスリと笑いながら続ける。


「裏表のない人って特別よ。あなたみたいな根っからの善人は特にね」

「俺は別に善人じゃ」

「ラスト様は善人ですよ」

「間違いないな」

「いい人ぉー」

 

 三人のドールが口を揃えてそう言った。

 姫様はニコっと笑いながら言う。


「そう言っているわよ」

「ぅ、なんだか恥ずかしいですね」

「信頼されている証拠だわ」


 姫様は小さな声で、羨ましいと呟いた。

 俺はその言葉に、深い悲しみと憂いが込められているように感じる。

 なんだか少しだけ、昔の自分と重なった。

 どうしてだろう?

 何もかも違うのに、鏡に映った自分を見ているような感じがして……。


「俺は、姫様のことも信じていますよ」


 ふいにそんな言葉を口にしていた。

 姫様はちょっぴり驚いたような顔をして、すぐに笑顔を見せる。


「ありがとう。私も信じているわ。あなたのこと……また、私のことを守ってね?」

「はい。そのつもりです」

「ジー……」


 向かい合う俺と姫様を、アルファはまたじっと見つめる。

 なんだかさっきより視線が鋭くなったような……。

 気のせいだと思うことにしよう。

 姫様は相変わらず、この状況を楽しんでいるみたいだった。

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連載版始めました!
悪役令嬢に転生した田舎娘がバッドエンド回避に挑む話
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