28.離れていても
「ラスト様!」
「くっそやられた! シータ!」
「ムリ」
「は? なんでだよ!」
デルタが質問を口にする前にシータが否定する。
焦りで喧嘩口調になるデルタに、シータはいつもの調子……ではなく、少し切迫した様子で答える。
「術式の適応範囲外。たぶん、リッチーの次元に飛ばされた」
「別次元か」
「そう。だからムリ」
「時間をかければどうなの?」
今度はアルファが尋ねる。
シータはしばらく考えてから口を開く。
「探す時間がいるけど、見つかればなんとかなる、かも」
「十分だぜ! だったらまず――」
「ええ」
「そうだねー」
目の前のアンデッドを無力化する。
リッチーと対峙する主の元へ駆けるために。
必然、三人の思惑は一致した。
デルタが右手に聖なる剣を、左手に聖なるガントレットを生成する。
「姉上!」
「ありがとう!」
ガントレットをアルファが装備。
これで前衛二人の攻撃はアンデッドに通用する。
最前衛はアルファが、デルタは一歩下がってシータを守りつつ前線で戦う。
「シータ!」
「支援よろしくね」
「はーい」
シータは二人の背中に触れる。
「――兎月、金剛」
アルファとデルタに二つの術式を付与する。
二人の身体が淡く光る。
「ありがとう、シータ」
「よっしゃ! いっちょ派手にやろうぜ!」
「おー!」
三人の準備ができると同時に、集まったアンデッドたちが一斉に行動を開始する。
まるで待っていたかのように。
先陣を切るのはアルファ。
高速の歩法で群れの中へ入り込み、鋼をも砕くこぶしをふるう。
続けてデルタが剣を手に前進。
アンデッドを斬り裂く。
「はっ! 余裕だぜ!」
「デルタ油断しないで!」
「なっ、再生してる? オレの剣が効いてねーのか?」
「……違うわ」
再生はしているが通常よりはるかに緩やかである。
剣やガントレットに付与された聖なる力は効力を発揮している。
ただのアンデットなら一撃で葬れる威力がある。
が、この地は王のテリトリー。
「リッチーが残した結界……これがアンデッドの不死性をあげているのよ」
「そういうことかよ。でもさ。攻撃が効かないってわけじゃねーし! だったらやることは一つだぜ!」
デルタは宙を駆ける。
「倒せるまで斬ればいいだろ!」
「ええ!」
それに合わせてアルファも前進、正面の敵を粉砕する。
彼女たちに付与された術式は二つ。
空気を蹴って宙を跳ぶことを可能にする『兎月』、全身を鋼のように硬化させ、剣すらはじく硬度を手に入れる『金剛』。
どちらも前衛で身体を張る二人に最適な能力である。
さらにシータは自身の周囲を簡易的な結界で保護。
アンデッドの侵入を防ぎつつ、次なる術式のため魔力を練り上げる。
死したドラゴンが動く。
「姉上! そっちが近い」
「わかってるわ」
動きを察知したアルファがドラゴンへと駆ける。
ドラゴンはシータの魔力が上昇するのと同タイミングで動き出した。
狙いはシータであることは明白。
「妹の邪魔はさせないわ!」
ドラゴンをシータの元へは行かせない。
アルファのこぶしがドラゴンの頭部を殴る。
すさまじい威力で粉砕するが、瞬く間に修復してしまう。
アンデッドの不死性は、元となった生物の生命力によって上下する。
ドラゴンは地上で最強最大の魔物である。
故に、その再生能力はリッチーに次ぐ。
「強いわね。でも、その朽ちた翼じゃ飛べないでしょう?」
ドラゴンは地を這う。
アルファの予想通り、すでに飛行能力はない。
死した肉体には飛ぶ力はなかった。
アルファはそれを理解し、空中からドラゴンを攻撃する。
地上では無数のアンデッドが蠢く。
「おらおら! こっちに集中しやがれ!」
アンデッドの群れをデルタが蹴散らす。
戦況は優勢。
しかし敵の物量は尽きず、未だに増え続けている。
ドールである彼女たちにも限界がある。
体力ではなく、肉体の限界。
負荷をかけすぎれば再生が追い付かず、疲労に似た負荷が蓄積される。
「アルファお姉ちゃん、デルタお姉ちゃん、お待たせ」
「来たか!」
「お願い! シータ!」
「――天躙」
夜空がまばゆい光に包まれる。
降り注ぐは聖なる光。
極光と同質のエネルギを、空から雨のように降らす。
広域浄化術式である。
天から降り注ぐ光は結界を砕き、街にあふれるアンデッドを次々に消滅させていく。
「ナイスだぜシータ! これで敵の不死性も――」
「まだ」
「なに?」
破壊された結界が修復していく。
有象無象の弱いアンデッドは消滅したが、ドラゴンを含む強い個体は全員無事だった。
「おいおいマジか」
「長期戦になりそうね。もっと火力をあげるわよ!」
「おう!」
「はぁ、了解」
戦闘は激化する。
◇◇◇
感じる。
元の世界で彼女たちが戦っている。
コネクトの効果は異空間に飛ばされても問題なく機能しているな。
よし、これなら……。
「エリーシュ様、できるだけ離れていてください。あいつの狙いは俺です」
「ええ。余計なお世話かもしれないけど、頑張って」
「ありがとうございます」
エールも貰った。
俺は右手に聖なる剣を生成して握る。
「抵抗するか。ならば相応にもてなそう」
リッチーの足元から死せる者たちが出現する。
数で圧倒されては不利。
だから敵の数を増やさせない。
「極光!」
左手から光のエネルギーは放出する。
地の底から這いあがろうとしたアンデッドを、完全出現前に消滅させた。
彼女たちなら心配いらない。
俺は目の前の敵に集中しよう。
大丈夫だ。
離れていてもお互いの存在を強く感じられる。
俺はもう、一人じゃない。
「死の王、お前は俺が倒す」
「よい鮮度だ」
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