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【二章完結】世界でただ一人の自動人形『ドール』使い  作者: 日之影ソラ
第二章

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25/45

25.死んだ街

 今よりひと月と三日前。

 帝都から東に位置する街、ノーランドの住民が一夜にして失踪した。

 異変に気付いて駆けつけた時にはすでに、街はもぬけの殻だった。

 一部争った形跡はあるものの、複数の足跡が街の外へ向かっていることを確認する。

 現場に残った痕跡を調査した結果、街の住人はアンデッド化したものと思われる。


 それより一週間後。

 近隣の村々から忽然と人が消える。

 さらにもう一つの大きな街アドリアでも同様の事象が発生する。

 帝国は騎士団を派遣し調査を試みたが、隊員はアンデッドと交戦し死亡したとみられる。

 調査は中断され、以降四週間騎士の派遣はされていない。


 そして現在――


 エリーシュ皇女の要請により、俺とドール三姉妹が派遣されることになった。

 俺たちは馬車に揺られる。

 操縦はデルタが担当していた。


「で、どこまで操縦すればいいんだ?」

「最初に被害にあった街よ。現場を見てもらったほうが今後がイメージしやすいでしょ?」

「んじゃノーランド行きだな」


 しゅっぱーつと元気な声をあげて馬車が加速する。

 俺とアルファとシータ、エリーシュが馬車の室内で向かい合って座る。


「本当についてきたんですね……」

「あら? そういったはずよ」

「聞いてましたけど……危険な場所へ行くんですよ? なのに護衛もなしに……」

「護衛ならあなたがいるじゃない。頼りにしてるわ」


 エリーシュは軽い口調で俺にそう言って微笑む。

 頼られるのは嫌じゃないが、この場合は相手が皇女様っていうのが正直重い。

 何かあったら全部俺の責任になるよな。


「もちろんよ」

「……今からでも帰りませんか?」

「嫌よ。私、結構頑固なの。一度行くと決めたら曲げたりしないわ」

「姉上と一緒だなぁ」


 デルタからぼそっと声が聞こえた。

 アルファも同じタイプなのか。 

 確かにそんな気はしてる。


「私は意思が固いんです」

「それを頑固という。すぅー」

「ね、寝言?」

「ふふっ、面白い子たちね」


 彼女は柔らかな笑顔を見せながら、アルファやシータを見つめる。


「やっぱり全然見えないわね。人形には」


 ぼそりとつぶやき、俺に同意を求めるような視線を向ける。

 俺はうなずいてから答える。


「彼女たちは人間と変わらないですよ。俺たちと同じ感情がある。自分の考えを口にすることができるわけですからね」

「そうみたいね。それにとっても素直だわ。あなたにだけ、かもしれないけど」

「私たちはラスト様のものですから」

「素晴らしいわね。その言葉をなんのよどみもなく言える。まさに心からの信頼関係だわ」


 当然ですと言いたげなどや顔を見せるアルファ。

 確か彼女たちの心は読めなかったはずだが。


「読まなくてもわかるわよ。長くこんな力を持っているとね? 力を使わなくてもわかるようになるわ。目とか、声のトーン、表情でね」

「そういう。大変、だったんですよね?」

「想像にお任せするわ。たぶんあなたが想像するよりずっとよ」


 他人の心を見透かす目。

 その力だけでも特異、異質な存在だ。

 加えて彼女は皇女という立場でもある。

 これまで一体、どれだけの視線を受け、心に充てられてきたのだろうか。

 人間は本心を隠す生き物だ。

 俺がドイルたちから追放されるまで、その感情に気づけなかったように。

 普通、気づかなくていいこともある。

 それが通じない彼女は、人間の表も裏も知ってしまう。

 その苦労は、他人の俺には到底理解できないだろう。


  ◇◇◇


 デルタが操縦する馬車は東へ。

 次第に雲行きが怪しくなってきた。

 雲が集まり、一雨降りそうな天気だ。

 天気のせいだろうか?

 気持ちもどんよりして、どこか薄気味悪さを感じる。


「天気のせいだけじゃないわ。近づいているからよ」


 と、エリーシュが俺に言った。

 近づいている。

 事件が起こった街に。

 人々が一夜にして消え、アンデッドになった場所へ。


 風が吹く。

 その風に乗って、嫌な香りが漂う。


「っ、これ……腐敗臭?」

「見えてきたわ。あそこが……ノーランドよ」


 ぞっとした。

 目の前には街がある。

 綺麗な街だった。

 建物は新しく、人がいた痕跡もまだ新しいほうだ。

 だが、誰もいない。

 人の気配だけがしない街というのが、どれほど不気味か知った。


 俺たちは馬車を停め、街の中を散策する。


「なんにもねーな」

「当然よ。ここにはもう何もない。何もなくなってしまったの」


 街の規模から考えて、人口もそれなりに多かったはずだ。

 少なくとも俺たちが住む街と同じくらいはいただろう。

 それだけの人間が、一夜にしてアンデッドになった。

 アンデッドに殺された人間はアンデッド化する。

 そうして数を増やしていくのが特徴だ。

 

「ラスト様、外から入ってきている足跡が少ないですね」

「ああ。これだけの人数をアンデッド化するなら、相当な数がいたはずなんだが……」


 アンデッドは単体ではそこまで強力な存在ではない。

 動きが遅く、対処法も確立されている。

 聖水さえあれば子供でも退治できる。

 面倒なのは不死性と増殖能力だ。

 その二点さえなければ、一介の魔物より弱い。

 

「アンデッド化には何か秘密がありそうですね。少なくとも、ただ襲われただけじゃなさそうだ」

「なぁマスター、ここでアンデッドになった人たちって別の街に行ったんだろ? にしては外に出てく足跡もすくなくねーか?」


 デルタが気づく。

 確かに言われてみれば。

 入ってきた数もそうだが、出ていく数も明らかに少ない。


「街の人は本当に外に出たのか?」


 その疑問の答えかもしれない。

 あたりの気温が急激に下がり、寒気がする。


「――お兄ちゃん、足元気を付けて」

「え?」


 地中から手が伸びる。

 忠告のおかげで早く気づけて、さっと飛びよけた。

 気が付くと無数の手が地面から伸びていた。


「まさか……」


 一瞬にして囲まれる。

 静かだった街に、アンデッドたちが押し寄せる。

本日ラストの更新です!

明日から一話更新になります。


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悪役令嬢に転生した田舎娘がバッドエンド回避に挑む話
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