24.ついて来る気?
エリーシュ皇女のお願いを聞いた俺たちは――
「大きいですね」
「でっけーなー」
「首疲れる」
「……まさか、俺がここへ来ることになるなんて」
王城の敷地に足を踏み入れていた。
目の前にそびえたつ純白の城はまさに圧巻。
冒険者ギルドの建物も十分に大きいけど、お城は規模が桁違いだ。
「何をぼーっと立っているの? こっちよ」
「あ、はい」
俺たちはエリーシュ皇女の案内で王城にやってきた。
冒険者になって城に招かれる。
こんな奇跡……一体誰が信じるだろうか。
正直自分でも夢じゃないかと思ってるくらいだ。
「いてっ!」
皇女様にほっぺをつねられた。
「な、なにするんですか!」
「ふふっ、ちゃんと痛かったみたいね」
「当たり前じゃないですか!」
俺はつねられたほほを押さえて叫ぶ。
すると彼女は楽しそうに笑って。
「じゃあ夢じゃないわね」
「……そうですね」
この人は他人の心を読み解くことができる。
俺が考えていることはお見通しだ。
頭の中で変なことを考えないように注意しないといけない。
「変なことって? もしかしてエッチなことかしら?」
「ち、違いますよ! 失礼なことを考えないようにと」
「気にしなくていいわ。慣れているもの」
他人の声が聞こえる彼女は、相手の悪感情も包み隠さず知ることができる。
それは……時間とともに慣れるものなのだろうか。
俺なら耐えられない気がして、想像するとぞっとする。
「案外なれるわよ。他人が私でエッチな妄想をするのも……ね」
彼女は耳元でそうささやいた。
「ちょっ、からかわないでくださいよ」
「ふふっ、あなたの反応が面白いからついね。けどそろそろやめてあげるわ。後ろの子たちが怖いから」
「え……?」
俺たちの後ろに三姉妹がついてきている。
アルファはむすっとしているし、デルタもなんだか不機嫌そうだ。
シータは……歩くのが疲れたのかな?
「距離が近いわ……」
「なーんか釈然としねーな」
「お兄ちゃんおんぶしてぇ~」
「ふふっ、大人気ね」
楽し気?な会話をしながら王城の建物内に入る。
敷地内だけでも緊張したのに、場内はもっと緊張する。
通り過ぎる騎士たちが彼女に挨拶する中、俺たちにも視線を向ける。
明らかに訝しんでいるみたいだけど、誰も指摘しない。
「心配いらないわ。私と一緒にいる限り安全よ」
「あ、安全……ですか」
「ええ。城の中では私のそばを離れないことをお勧めするわ」
俺はごくりと息をのむ。
オークション会場の一件もあって正直不安だ。
この中に、あの時会場にいた騎士が混ざっていないか……。
「それも心配いらないわ。あそこにいた騎士たちは全員クビになったから」
「く、クビ?」
「当然でしょう? あんなことが公になったら大変だもの。口封じよ」
「そ、その言い方だとクビよりひどいことになってるんじゃ……」
まさか殺してないよね?
皇女様はにこりと微笑んでごまかす。
逆に怖い。
「さぁ、こっちよ」
案内された一室に入る。
長細いテーブルの左右にソファーがある。
俺たちは皇女様と対面する位置に腰をおろした。
「ここなら誰にも聞かれないわ。安心してお仕事の話ができるわね」
「今さらですけど、うちじゃ駄目だったんですか?」
「駄目よ。あそこじゃ誰に聞かれてるかわからないわ。これから話すことには機密情報も含まれているの。それに……」
彼女は俺の顔をじっと見つめる。
「なんですか?」
「いいえ、なんでもないわ。とにかくここで話したかったの」
「は、はぁ……」
「長居するつもりはないわ。さっそく話を始めましょう」
そう言って彼女はテーブルに五枚の用紙を並べた。
「これは?」
「あなたに受けてほしいお願いよ」
それは依頼書だった。
形式はギルドのクエストに似ている。
ちゃんと報酬も設定されていた。
俺たちは自分の手前にある用紙を一枚ずつ取る。
「大量発生したアンデットの討伐」
「これはアイスドラゴンの撃退ですね」
「こっちはダンジョンだな」
「マートレ湖の調査……調査?」
「そしてこれが――」
最後の一枚は皇女様が手にして、俺たちに見せる。
「国を荒らす盗賊の一団、幻灯団の討伐よ」
「全部バラバラなんだなー、場所も違うしさ」
「ここの騎士たちに頼めないんですか?」
アルファが皇女様に質問した。
俺も同じことを尋ねようとしたからタイミングがよかった。
皇女様は答える。
「それができたら頼んでいないわ。今、この国の兵力は別のところで使っていて空きがないの」
「あんなオークションに警備出してたじゃん」
「普段に比べれば少数だったわ。無駄だって話なら私もそう思ってるわよ」
「他って、何に使ってるの?」
デルタとシータは皇女様相手に物おじしないな……。
さすがに敬語は使ってほしいんだが。
「自然体でいいのよ。あなたもいい加減、私のことはエリーシュと呼んで」
「わかりました。エリーシュ様」
「様もいらないのに。まぁいいわ。シータの質問に答えるなら、お父様が知っているわ」
エリーシュは遠回しな言い方をする。
シータは首を傾げた。
「わからない?」
「そうよ。わからないの。お父様は何かを探している。それが何なのかは……お父様以外知らないわ」
「探し物をするために兵力を? 一体何を探しているんですか?」
「さぁね? 私にもわからないわ。噂じゃ、国の進退に関わる古代の遺産……らしいわよ」
古代、という単語が引っかかる。
俺の隣には、千年前に作られたドールが三人。
まさか……な。
「そういうわけだから、こっちの問題は私たちがやるしかないの。特に急を要するのは、あなたが持っているそれね」
「アンデッド?」
「ええ。すでに大きな被害がでているわ。早急に対処するべき案件よ」
「じゃあ決まりですね」
最初の案件は、アンデッド退治だ。
「判断が早くて助かるわ。それじゃ私も準備するわね」
「え? エリーシュ様もついて来る気ですか?」
「当然よ」
何を今さら、みたいな顔をされた。
大丈夫なのか?




