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【二章完結】世界でただ一人の自動人形『ドール』使い  作者: 日之影ソラ
第二章

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22/45

22.早めの再会

 ここは冒険者の街。

 大都市の中でも極めて珍しく、帝国の息がかかっていない。

 彼らは独自の生活形態を獲得し、支援を受けずとも安全に暮らせる準備ができていた。

 故に帝国も関わろうとしない。

 関わるメリットがなく、デメリットが大きいからだ。

 

 そんな場所に――


「おい、あの馬車って」

「帝国の? なんであいつらがこの街にいるんだよ」

「知らねーよ。けど……」

「ああ、なんか起こりそうだぜ」


 この場所に似つかわしくないきらびやかな馬車が道を走る。

 誰もが目を向ける。

 馬車に、そしてそれに乗る一人の女性に。

 銀色の髪をなびかせ、馬車から窓の外を見つめる彼女は――


「皇女様、そろそろ到着いたします」

「ええ、ありがとう」


 バハルス帝国第三皇女エリーシュ・レバテインである。


  ◇◇◇


「おはようございます。ラスト様」

「はい。おはようございます」


 朝。

 いつも通りに冒険者ギルドへ足を運んだ。

 受付嬢が俺たちを見つけると、にっこり満面の笑顔で出迎えてくれる。


「何かいいクエストはありますか?」

「そうですね。討伐クエストですと、ラスト様たちに見合ったクエストは……簡単なものならいくつかあるのですが」

「えぇーまたー? 最近手ごたえねー相手ばっかりだからつまんねーよ」

「デルタ、わがまま言わないの」

「ふぁ~ なんでもいいよ~」


 一瞬で受付カウンターがにぎやかになる。

 そんな彼女たちの様子を、受付嬢もほほえましそうな顔で見守っていた。

 イージスから帰還して一か月半。

 この間にも俺たちは、毎日欠かさずクエストを受けていた。

 そのおかげか、ギルドでの俺たちの評判はかなり高くなっている。

 受付嬢と親しく会話できているのもその一つだ。


「ラスト様。たまにはお休みになられてはいかがですか? このひと月以上毎日クエストを受けていただいておりますよね? あまり無理をされるとお体に触ります」

「心配していただいてありがとうございます。でも大丈夫です。体力には自信がありますから。それに、今は楽しいんです。やれることが増えていくことが」


 こんな感覚も初めてだ。

 何かしていないと落ち着かないとか。

 成長を実感できる喜びとか。

 すべてが新鮮で、心地いい。


「私たちも疲れはそうそう感じませんからね」

「むしろじっとしてるほうが疲れるぜ」

「えぇ~ お姉ちゃんたち変だよ~」

「お前がだらけすぎなんだよ」

「そうよシータ。人前なんだからしっかりしなさい」


 この三人も変わらず仲良くしている。

 デルタの言う通り、最近のクエストは少し物足りない。

 街の周囲に出現する魔物はだいたい戦ったし、もう慣れてしまった。

 よほど油断しない限り負けることはないだろう。

 同じことの繰り返しは退屈になる。

 何か新しい刺激がほしいとは、思うようになってきた。


 ギルドの扉があく。

 カランカランとベルの音がなり、受付嬢が先に反応する。


「お邪魔するわ」

「いらっしゃいま――せ?」


 彼女の表情が変わった。

 にこやかだったのに、一瞬にして訝しむように。

 俺たちは遅れて振り返る。

 その時にはもう、ギルド中の人たちが入り口に注目していた。


「おいおい、どういうことだよ」

「なんで……」

「どうして……皇女様がここに?」

「え?」


 皇女?

 皇女って、あの王族の?

 それ以外に何があるんだってツッコミされそうだが。

 俺は自分の目を疑ってしまった。

 だって、そこに立っていたのは、俺もよく知っている女性だったから。


「また会えたわね。ラスト」

「エリーシュ……皇女……様?」


 まったく、冗談だろ?


  ◇◇◇


 デルタがお茶をいれ、コトンとテーブルに置く。


「ほらよ」

「ありがとう」


 エリーシュ皇女がそれを飲む。


「美味しいわ。あなたお茶をいれるのが上手なのね」

「まぁな。これで手先は器用なんだぜ」

「へぇ、見えないわね」

「おいデルタ。あまり馴れ馴れしくするんじゃない」


 俺はひそひそ声でデルタに注意する。

 テーブルを一つ挟んだ距離で座っているんだ。

 もちろん彼女にも聞こえている。


「ふふっ、今さら畏まらなくていいわ。私のことは皇女じゃなくて、友人として接してくれると嬉しいわね」

「い、いや……」


 無茶言わないでほしい。

 皇女様と馴れ馴れしく接していたら、外にいる騎士たちに何をされるか……。


「大丈夫よ。あれはただの護衛、私の命令に従っているだけよ」

「それでも緊張するんですよ……」


 あれ?

 今、何かおかしかったような……。

 気のせいか。


「それで、皇女様がどうしてこの街に? ここは冒険者の街と、呼ばれているのは知っていますよね?」

「あら? 友人を訪ねにきた、というのじゃ不服かしら?」

「不服ではありませんが、不自然です」

「ふふっ、そうね。ただ会いにきたというのは冗談よ。けど、個人的に会いたかったのは本当」


 彼女は微笑む。

 どうにも読めない。

 この人の考えていることがまるでわからない。

 本当に不思議な人だ。


「あの後のこと、気にならない?」

「オークションですか?」

「ええ」

「それは……気にはなりますね」


 正直かなり気になっている。

 俺はシータを救出するため、結構な大立ち回りを演じた。

 結果的に救出はできたけど、あの場にいた人には俺の顔を覚えられただろう。

 何かしらお咎めがあるんじゃないかと、不安に感じる夜もあった。


「心配しなくても、あなたが捕まるようなことはないわ」


 俺の不安を見透かしたように彼女は言う。


「あそこは元々よくない噂が多いオークションだったの。盗品を出品したり、偽物を売り出したり……私があそこにいたのは、真実を確かめるためよ」

「ああ、だから……」


 商品を見に来たわけじゃない。

 オークションを見に来た。

 彼女はそう言っていた。

 意味がやっと理解できたよ。


「安心できたかしら?」

「はい。おかげさまで」

「それはよかったわ」

「……まさか、それだけを伝えるために来たわけじゃ……ないですよね?」


 俺の問いに、彼女は笑みを浮かべる。


「ええ、今日はあなたにお願いがあって来たの」

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連載版始めました!
悪役令嬢に転生した田舎娘がバッドエンド回避に挑む話
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