20.因縁に決着を
「もうすぐ着くぞ~」
「……うん」
「シータ、いつまでそこにいるつもり?」
「あははは……」
馬車の中、シータは座席ではなく俺の膝の上に頭をごろんと寝転がっていた。
アルファはむすっとした顔で注意する。
「もう起きなさい。ラスト様に失礼でしょ」
「うーん……ここすごく落ち着く」
「そんなこと聞いてないわ。いいから起きなさい」
「嫌だよぉ~ めんどくさいもん」
どうやらシータは面倒くさがりみたいだ。
移動中ずっと気だるそうにしていたし、俺の膝でほとんど眠っていた。
魔力が足りなかったんじゃないかと心配になるくらい。
「姉上も諦めろって。シータに言っても無駄だ」
「そうそう。デルタお姉ちゃんはわかってるね~」
「駄目よ。しっかりしなさい! ラスト様の前でだらしない」
「お兄ちゃんは気にしないでしょ~」
ごろごろと膝の上で頭を転がし、俺のことを見上げる。
なんだこの可愛い生き物は。
「そうだな。到着するまでだぞ?」
「わーい……お兄ちゃん優しい~」
アルファには悪いが、この可愛さにあらがえない。
頭を撫でるとゴロゴロ喉をならすし、猫みたいだな。
「ラスト様!」
「まぁまぁ、もうすぐ着くんだし」
「……もう、優しすぎるんですよ」
そう言ってそっぽを向く。
拗ねられてしまったらしい。
と、そうこうしているうちに馬車は見慣れた街並みに入る。
「帰ってきたな」
俺たちの街に。
雪も降っていないし寒さも感じない。
ちょうどいい気候でホッとする。
街へ帰還した俺たちは馬車を返却した。
「歩くのー? お兄ちゃん、抱っこして~」
そう言ってシータが背中に引っ付いてくる。
アルファがそれを強引にはがす。
「駄目です。ちゃんと歩きなさい」
「うぅ……アルファお姉ちゃん……うるさい」
「うるっ! シータが甘えてばかりだからでしょ!」
「ちょっと姉上ここで喧嘩すんなよ。目立つじゃんか」
デルタが仲裁に入る。
アルファがここまで感情的になるのは初めてみる。
なんだか生き生きとしていて、これはこれで悪くない光景だ。
「三人……そろったんだな」
しみじみ感じる。
やり遂げたという達成感も。
そして、これから四人でたくさんの冒険をすることを夢想して、わくわくする。
最高の気分のまま帰宅できれば……。
本当によかったのに。
「ラスト」
「――!」
聞きたくなかった声が響く。
頭に、心に。
何度も聞いた……呼ばれたことを思い出す。
「ドイル……」
振り返ると彼らがいた。
俺を追放した元パーティーが。
「なんだこいつら?」
「知らない人ー」
「そりゃそうだろ」
「……もしかして、ラスト様の以前の……」
できれば会いたくなかった。
会わせたくなかった。
彼女たちには……。
今さら遅いけど。
「久しぶり、元気にしてた?」
「お前は随分と楽しそうじゃねーか。ラストの分際で」
「いきなりか」
まるで挨拶みたいに暴言を吐かれた。
慣れていたはずなのに、こうして改めて聞くと胸の奥がきゅっと締め付けられる。
苦しいな。
「ラスト、お前こっち戻ってこい」
「……は?」
「聞こえなったか? 戻れって言ってるんだよ」
「……聞き間違えだよね?」
戻れといったのか?
俺に、ドイルたちのパーティーに?
「何度も言わせんなよ。さっさと戻ってこい。また仲間にしてやるよ」
「……本当に」
勝手な人たちだ。
一度追放しておいて、今更戻れって?
どういう風の吹き回しだ。
何を考えている?
いや、そんなことどうでもいい。
理由なんて関係なく、俺の返答は一つしかないんだから。
「嫌だよ」
「なんだと?」
「当たり前じゃないか。どうして今さら、戻らなきゃいけないんだ? そっちが追放したくせにさ。俺なんていなくても平気だったんでしょ?」
「……っ、いいから戻れ、これは命令だ」
「そんな命令聞く気はないし、お前に命令される筋合いはない。行こう、みんな」
無視して立ち去ろうとする。
しかしドイルが道を塞ぐ。
「どいて」
「てめぇ、調子に乗りすぎだぜ。一人じゃ何もできない癖に」
「一人じゃ……そうか。そこまでは気づいたんだね」
「くっ、てめぇ!」
ドイルが胸倉をつかもうとする。
その手を叩き落とした……のは、俺ではなくアルファだった。
「ラスト様に触れないでください」
「なんだお前は……」
「お前こそなんだよ。うちのマスターの邪魔してんじゃねーよ」
今度はデルタが前に出た。
彼女は目つきで威嚇している。
二人とも、いつになく苛立っているように見えた。
「ありがとう二人とも。けど気にしないで。もう、関係ない人たちだから」
「……いい加減調子のんじゃねーよ!」
怒りに身を任せ、ドイルが魔剣を抜く。
仲間たちが止めようとしたがそれを無視して。
ドイルの性格だから、こう来ることは予想できた。
先に剣を抜いたのはあっちだ。
ならこれは、正当防衛だろう?
「燃えやがれ!」
魔剣から炎が放たれる。
たけだけしい炎だが、今の俺には可愛く見える。
片手で消してしまえるんだから。
「な……素手で?」
「ごめんね」
刀を抜く。
剣術の最速に、俺の肉体の最速を合わせて放つのは――
居合。
俺の刀は魔剣を斬り裂いた。
「ば、馬鹿な……こんな……」
「これで勝負ありだ。もう俺に関わらないで」
「っ、この野郎が!」
「――氷天」
折れた剣で襲い掛かろうとしたドイルを、氷の柱がつなぎとめる。
やったのはシータだ。
「もう終わったでしょ? 帰ろ、お兄ちゃん」
「そうだな。ありがとう」
俺は彼女の頭を撫でてあげた。
そして最後に、ドイルの顔を見る。
「お前の言う通りだよ。俺は一人じゃ何もできない。だから、彼女たちと一緒にいる。そうすれば、俺にもできることがあるから」
それが答えだとまっすぐ伝える。
俺はドイルたちじゃなく、三姉妹を選んだ。
選ばせてもらえた。
だからもう、これっきりだ。
「さよなら」
俺の古巣。
そして――
「ただいま」
俺たちの新しい我が家。
ここまでを第一章とします!
というわけで第一章は完結です。
少しでも楽しんでいただけたでしょうか?
この先どうするかまだ検討中ですが、反応見つつ考えたいと思います。
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