2.祖父からの贈り物
とぼとぼと夜の街を歩く。
ここルナベストは別名冒険者の街と呼ばれていて、王国で一番冒険者たちが集まっている。
昼間はクエストに出払っていた冒険者たちが一斉に帰還するため、夜は至るところで宴会が開かれていた。
クエスト達成、生還できたことを喜び合い、明日からのクエストの励みにする。
パーティーは苦楽を共にすることで絆を深め、より強い敵と戦えるようになる。
「はぁ……」
どこもかしこも楽しそうだ。
昨日までは俺もあっち側にいたはずなのに。
「どうしてこうなったんだろ……」
と口では言いながら理由は明らかだった。
彼らにとって、俺は仲間ではなくお荷物でしかなかったからだ。
確かに俺は戦えない。
みんなのような才能がない俺に与えられた唯一の力が、他人と繋がれるスキル『コネクト』だった。
魔法を主とするパーティーにとって、枯渇しない魔力タンクは重宝される。
俺も、パーティーに入った頃はそうだった。
だけど徐々に扱いが雑になっていって、雑務をやらされるようになって……。
思えばずっと前から予兆はあったんだ。
「気づかないフリを……していただけなんだな……」
認めたくなかった。
自分だけパーティーの一員と思われていない事実に。
薄々気付きながら無視していた。
その結果が、これだ。
俺はパーティーを追放され、一人になってしまった。
「……明日からどうするか」
考えないといけない。
冒険者を続けるにしても、一人じゃ何もできない。
俺にできることは、他人の魔力タンクになることだけだ。
どこか別のパーティーに入れてもらうのが一番だけど、一度でもパーティーを追われた人間は、どこへ行っても厄介者扱いされる。
人の目も耳も多いこの街では、噂はあっという間に広がるだろう。
特に評判があがってきた彼らのパーティーだ。
早ければ明日にも、俺が追放された事実は広まってしまう。
もし明日そうなっていたら、この街を出ていくしかなくなるだろう。
「……帰ったら荷造りでもするか」
俺は半ば諦めて宿屋に帰った。
宿に戻ると受付の気のいいおばちゃんと目が合う。
「おやラスト君、今日は早いんだね?」
「ええ、まぁ、いろいろありまして……」
「なんだい元気ないじゃないか。悪いことでもあったのかい?」
「まぁそんなところです」
おばさんにはお世話になっている。
冒険者になるためこの街へ来て、お金がなかった俺を出世払いだと言って宿泊させてくれた。
とてもいい人だから、心配をかけたくない。
俺は誤魔化すように笑みを作る。
「何かあるなら相談にのるよ。いつでもいいな」
「ありがとうございます」
「うん。あーそうだ。ちょうどあんた宛の荷物を預かってたんだよ。ちょっと待ってな」
「はい」
俺宛の荷物?
そんなのが届くのは初めてだ。
俺がこの街で暮らしていることを知っているのは、元パーティーメンバーを含む一部だけ。
同じ街に住んでいるし、わざわざ荷物を運搬する必要もない。
ここで暮らした三年間、一度も荷物が来たことはない。
「誰からだろう」
疑問を抱きながら待っていると、おばさんが受付の横の扉を豪快に蹴りあけて出てくる。
乱暴な開け方の理由は、両手が塞がっていたからだった。
おばさんは両腕で抱えてきれないほど大きく長細い木箱を床に置く。
「よいっしょっと! これだよ」
「な、なんですかこれ……」
「あたしが知るわけないだろ? 他人の荷物を覗く趣味はないし、とっとと自分の部屋に持って行っておくれ」
「は、はい」
俺は慌てて箱を抱えようとした。
腕に力を籠め、腰を入れて持ち上げようとする。
「ふん!」
持ち上がらない。
物凄く重い。
大人一人分の重さを越えているんじゃないか。
これを俺の部屋がある二階に持っていくのは……。
「なんだい情けないね。部屋まで私が持って行ってあげるよ」
「す、すみません」
おばさんは木箱を軽々と持ち上げて階段を昇っていく。
女性とは思えない怪力……。
噂じゃ元冒険者だったらしいけど、きっと実力者だったに違いない。
殴られたら遥か彼方に跳んでいきそうだ。
そうしておばさんに荷物を部屋まで運搬してもらった。
床に置かれた木箱は、改めてみるとベッドの長さと同じくらいはある。
「何が入ってるんだ? というか一体誰から……」
ちょっと怖いな。
知らない人からの荷物を開けるのは……。
と、躊躇っていた時、木箱の横に小さなサインを見つける。
木をナイフか何かで掘った跡だ。
そこに書かれていたのは……。
「ルガーフ……? 爺ちゃん!?」
よく知る祖父の名前だった。
ルガーフ爺ちゃんは俺の祖父で俺の憧れた人。
元冒険者だったあの人に憧れて、俺も冒険者の道を進んだ。
六十歳を超えても現役で活躍していた爺ちゃんだけど、ある日突然いなくなってしまったんだ。
冒険の途中で力尽きたとも、今もどこかで彷徨っているとも言われていて。
俺はずっと、どこかで生きていると思っていた。
冒険者になったのは憧れだけど、もしかしたら爺ちゃんに会えるかもという期待もあってだった。
「爺ちゃん……やっぱり生きてたんだ」
心からの喜びが込み上げてくる。
追放された辛さも、爺ちゃんの生存を知って消えるほどに。
「これ、爺ちゃんからの贈り物? だったら信用できる」
不安が消え、ワクワクが込み上げる。
何が入っているのだろう。
期待に胸を膨らませ、俺は木箱を開けて――
「……」
思わず目を疑った。
なぜなら木箱の中に入っていたのは……。
「女の子?」