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【二章完結】世界でただ一人の自動人形『ドール』使い  作者: 日之影ソラ
第一章

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12.猫、それとも犬?

 鎧騎士は沈黙している。

 さっきの一撃で完全に破壊されてしまったからだろう。

 もう彼女の声は聞こえない。

 代わりに本物の彼女の姿を見ることができた。


「もう一つ部屋があったのか」

「そのようですね。ここからダンジョン内の物を操っていたのでしょう」


 最奥の部屋だと思っていたら、壁の裏側に隠し部屋を見つけた。

 部屋は宝物庫になっている。

 チラホラ見える宝箱から、キラキラ輝く黄金が見えるが、今はそっちよりもベッドで眠っている彼女だ。

 

「この子が……デルタ」

「はい」


 俺の下へ送られてきたアルファと同じ姿勢で眠っている。

 こうして見ると、やっぱり人形なんだなと再認識する。

 眠る姿は死んでいるようで……冷たく感じる。

 赤いウェーブがかった髪が特徴的で、身長はアルファよりも低い。

 肌の露出が多い服装は、彼女の腕白さの表れだろうか?


「触れればいいんだよね?」

「はい。そうすればコネクトが発動します」


 あの時と同じように、俺は眠っているデルタの手に触れた。

 途端、急激に魔力が消耗する。

 二人目だからか?

 それともアルファに魔力供給をしている最中だからか。

 初めての時よりも強い倦怠感が襲う。

 だがそれも一瞬で治まった。


「――魔力供給確認、起動に必要な一定量を越えました。これより対象をマスターとし起動します」


 アルファの時と同じ音声が流れる。

 この音は彼女たちの声じゃない。

 一体誰の声なのだろう。


「【自動人形(ドール)】、オン」

「……」

「……」

「……あれ?」


 起動音が鳴ったと思ったんだけど、一向に動かない。

 彼女は腕を組んだままじっとしている。

 目も閉じたままだ。


「どうして動かないんだ? 魔力が足りなかった?」

「……いいえ、もう起きています」

「え? 起きてるの?」

「……」


 返事はない。

 ただの人形のようだ。


「デルタ。いつまでも寝ているとお仕置きを三倍にしますよ」

「わ、わかった起きる! 今すぐ起きるから!」

「うおっ、本当だ。起きてた」


 アルファの脅しに反応して、彼女は勢いよく跳び起きた。

 あまりに突然動き出すから、びっくりして倒れそうになる。


「こらデルタ。ラスト様が驚いてしまったでしょう? 謝りなさい」

「う、うぅ……ごめんなさい」

「いや、いいよ。驚いただけだし」


 姉妹の力関係はハッキリしているな。

 妹は姉に敵わないらしい。

 シュンとしているデルタは、飼い主に叱られている小動物みたいで可愛いと思った。


「君がデルタなんだね?」

「おう! そうだぜ!」

「ちゃんと敬語を使いなさい」

「うぅ~」


 嫌そうな顔で唸り声をあげる。

 この子はどことなく猫とかその辺りの動物に似ている気がするな。


「いいよ。好きなように話してもらえば」

「ほ、ホントか?」

「よろしいのですか?」

「うん。俺も畏まられるのは得意じゃないし、それぞれ接しやすいようにしてくれたほうが嬉しいかな」

「やったー! あんたいいやつだなマスター!」


 デルタは満面の笑みを俺に向けてくれる。

 そこに敵意や害意は一切ない。

 無垢で無邪気な笑顔は、見ているだけで心が晴れるようだ。


「デルタは俺がマスターでよかった?」

「ん? そりゃオレが負けちゃったしな。オレに勝ったら認めるって言ったんだし、嘘はつかねーよ」

「それはよかった」


 ようやくホッとできる。

 俺は戦いが終わって数分後に肩の力を抜いた。


「にしても凄いな。あんな出鱈目な戦い方初めてみたぜ」

「そう? 褒めてくれてありがとう」

「なんつーか才能はねーんだけど、力と反応速度でごり押す感じ? 普通に圧倒されちゃったよ」

「褒められて……ない?」


 しれっと才能がないことを言われてしまった。

 自覚はしてるけど、誰かから言われるのは中々ショックだな。


「デルタァ」

「は、はい!」

「そろそろお仕置きの時間よ?」

「な、なんでだよ!」

「当然でしょ? ラスト様にたくさんご迷惑をかけたのよ? 姉として、先輩としてあなたを教育するわ」


 と言いながらアルファはデルタにじりじりと滲みよっていく。

 表情は笑顔だが明らかに怒っている。

 俺は怖い笑顔というものを初めて見た。

 デルタも完全にビビっている。


「お、お仕置きは嫌だ! マスター助けてくれ!」

「おっと」


 デルタは俺に助けを求めてきた。

 すっと後ろに回り、俺の右腕に縋るような姿勢で抱き着いている。


「こらデルタ!」

「うっ……」

「そんなに嫌なの?」

「当たり前だろ! 姉上のお尻ペンペンはやばいんだぞ! あれやられると一週間はお尻がひりひりするんだ!」

「一週間……」


 俺はトロールとの戦いを思い出す。

 あの打撃力でお尻を叩いたら……そうなるよな。

 ごくりと息を呑む。

 想像するだけでお尻が痛くなりそうだ。


「頼むよぉ~ マスター……なんでもいうこと聞くからぁ」


 デルタは俺の腕に絡みついて、上目遣いで懇願してくる。

 そんな目で見られたら……。


「許してあげよう、アルファ」


 助けてあげたくなるじゃないか。

 

「俺は怪我もしてないし、彼女のおかげで自分がどこまで戦えるかもわかった。確かにやりすぎだったかもしれないけど、反省……」


 一応確認のためにデルタに向ける。

 彼女はうんうんと勢いよく首を縦に振った。


「してるみたいだし、ね?」

「ラスト様がそうおっしゃるなら……」

「ほ、ホント? お尻ペンペンなし!?」

「ラスト様の優しさに感謝しなさい」

「や、やったー! ペンペン回避だー!」


 俺の腕から手を離し、デルタははしゃぎだす。

 そこまで喜ばれるとは思わなかった。

 

「そんなに嫌だったのか……」


 俺もアルファを怒らせないように注意しよう。

 たぶん俺のお尻は八っつくらいに割れる。


「ありがとうマスター!」

「うおっ、デルタ?」


 彼女はバッと正面から抱き着いてきた。


「マスターに一生ついてくぜ! 何かあったらオレを頼ってくれよな!」

「あ、ああ……」


 この主人に懐いてくる感じ……。

 あるはずのない尻尾がフリフリと動いているような。

 猫じゃなくて犬だったか。

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悪役令嬢に転生した田舎娘がバッドエンド回避に挑む話
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