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連載候補短編

僕のデバフでステータス99%カットしてたんですよ? ~立っているだけで何もしてない役立たずは不要とSランクパーティーを追放されましたが、楽勝な理由は僕がデバフで弱体化させたお陰と気付いたってもう遅い~

作者: 日之影ソラ

「レント、お前は明日から来なくていいぞ」

「え……」


 見慣れた酒場に到着した直後、パーティーリーダーのダリルにそう言われ、僕は思わず変な声を出してしまった。


「こ、来なくていいって……クビってことですか?」

「そう言ったつもりだったが? 聞こえなかったのか?」


 もちろん聞こえていたし、言葉の意味だって理解できる。

 理解できないのは、どうして急にそんな話になったのかということだった。

 僕は恐る恐る尋ねる。


「理由を……」

「あ?」

「クビになる理由を、教えてもらえませんか?」

「あはっ、そんなこともわかんないの~」


 すぐに答えたのはダリルではなく、同じパーティーの魔法使いノノだった。

 彼女に視線を向けると、ニヤニヤと見下すような目つきをしている。


「戦闘中なーんにもせず棒立ちしてる奴なんて、パーティーにいてもお荷物なだけってわかんないのかしら?」

「そんな……別に僕は何もしてないわけじゃ」

「知ってる知ってる~ 一応? 何かしてるのよね~ デバフだっけ~」


 冒険者にはそれぞれ得意不得意がある。

 ダインは剣が得意だから前衛の剣士になったし、ノノさんは魔法が使えたから魔法使いになった。

 そんな風に各人の個性にあった役割につくのが普通で、僕の場合は相手の力を妨害するデバフが得意だったから、デバフ特化の支援職になった。

 戦闘での僕の役割は、モンスターの力を弱体化させ、パーティーのみんなが楽に勝利できるよう支援することだ。


「でも~ 私たちにはあんたのデバフなんて必要ないの」

「そんなことは」

「ノノの言う通りだ」

「ダイン……」


 ノノからダインに発言権が戻る。

 二人とも僕を見る目が同じだ。

 あきらかに見下して、ゴミを見ているような目をしている。


「最初こそ役に立った……のかもしれないが今はない。俺たちはSランクパーティーだ! ギルドでも屈指の実力者になった。今の俺たちにお前の支援なんて必要ない。ドラゴンすら赤子の手を捻るくらい簡単に倒せるんだからな」

「そ、それこそ僕のデバフで弱体化させてるからで!」

「見栄張んないでよ~ ぼーっと立ってるだけのあんたがドラゴンを弱体化? 本当はまったく効いてないんでしょ?」

「ははっ、やめてやれよノノ。俺だって言うのを躊躇ったのに」


 二人がゲラゲラと笑いだす。

 どうやら本気で僕のデバフ効果を信じていないらしい。

 今までだって、今日だって、僕のデバフで楽に戦闘が終わったはずだ。

 ちゃんと役に立っているはずなのに、何もしていないと思われていたなんて……

 しかもそう見えるから「出て行け」なんて、あまりにひどい仕打ちだ。

 僕は悩む。

 やはり言うべきなのか。

 ドラゴンや強敵を倒したり、良い気分に浸っている彼らに悪いと思って、言い出せなかった真実を。


「じ、実は……」


 言うしかない。

 信じてもらえないかもしれないけど、このままじゃ僕は役立たずのまま。

 何より知らずに冒険へ出たらきっとみんなの身が危ない。


「実は僕のデバフは、相手のステータスを99%ダウンさせられるんだ!」

「「……」」

「だからドラゴンが楽勝だったのもそのお陰で! もしデバフなしで戦ったらみんな返り討ちにあっちゃうんだよ」


 言い方はストレート過ぎたかもしれない。

 でも動揺していた僕は、これ以上の言い方が思いつかなかった。

 紛れもない事実。

 彼らが楽勝に感じていたのは、相手が極限まで弱体化していたからに過ぎない。

 勘違いしたまま普段通りに戦えば、きっと酷い目に……


「ぷっ、ふはははははははははははははっはははっははは」

「何それ何それ~ うけるんですけど~」

「え、え?」


 二人とも大爆笑。

 僕はキョトンと首を傾げる。

 どうして笑っているのか、すぐには理解できなかった。

 怒られると思っていたから。

 真実を黙っていたことを責められる覚悟をしていた僕にとって、二人の反応は予想外だった。


「な、何で笑ってるの? 大変なことなのに」

「そりゃ笑うだろ! 99%って、つくならもう少しまともな嘘つけってんだ」

「う、嘘じゃないよ! 本当にそれだけ弱体化させられるんだ!」


 僕はデバフは自身を中心にした一定領域内にいる対象に効果を発揮する。

 対象は自分で選択できて、仲間を除外し敵だけにデバフがかけられる。

 一番効果が強いのはステータスダウンのデバフで、対象の数を絞るほど効果は強くなる。

 対象を三体にまで絞れば、その効果はステータス99%カット。

 凶悪なドラゴンがゴブリン一匹くらいの強さまで落ちる。


「みんなだって不自然に思わなかったの? ドラゴンがあんなに弱いわけないって!」

「あー思ったよ」

「だったら!」

「だがその答えは単純! 俺たちが強くなり過ぎてるだけってことだ!」


 どや顔でダリルは僕にハッキリと言い切った。

 この時点で僕は、彼らの誤解は何を言っても解けないのだと悟った。

 事実を黙っていた僕にも責任はある。

 あるのだけど……


「何で気づかないんだよ」

「本当にな。お前はさっさと自分の馬鹿さを気付いた方がいいぜ?」

「そうそう! この機会に冒険者なんて止めちゃえば? どうせどのパーティーも拾ってくれないでしょ」


 二人はまた大声で下品な笑い声をあげた。

 もはや僕の声は届いていないだろう。

 何を言っても、何を見せても、彼らは信じてくれない。

 自分たちが強くなったのだという幻想に囚われたままだ。

 

 もう良いや。


「わかりました。出て行きます。後から気付いて戻ってきてほしいとか言われても、絶対に戻りませんからね」

「あー出て行け出て行け~ お前が一緒だと酒がまずくなる」

「ばいばーい~ がんばってね~」

「ええ。みなさんも」


 精々頑張ってください。

 最後まで言い切ることなく、僕は酒場を後にした。

 暗い夜道を一人で歩く。

 

「何だよ」


 腹が立つ。


「何なんだよ」


 別に認められたくてやってきたわけじゃない。

 仲間だと思っていた瞬間もあった。

 信じてもらえないことが、理解してもらえないことが、こんなにもムカつくことだったなんて。


  ◇◇◇


 翌日。

 僕は普段より少し遅めに起床して、ゆっくりと冒険者組合の集会場に足を運んだ。

 昼に近い今の時間帯なら、ダリルたちもクエストを受け出発しているだろう。

 何を受けたのかは知らないが、きっと大変な苦労をするはずだ。

 まぁ今は、そんなことよりも…… 


「新しいパーティーを探さないと」

「そこのお兄さん!」


 パーティーメンバー募集の要項が出ていないかと思い、クエストボードを眺めていた僕に、見知らぬ女の子が声をかけてきた。

 赤いショートヘアで腰に剣を携えている。

 改めて顔を見ても、初めて話す人で間違いなさそうだ。


「えっと、僕ですか?」

「うんそう! お兄さんもしかして、新しいパーティーを探してたりする?」

「え、あ、はい」


 よく気付いたなと思ったけど、僕が立っている位置は丁度勧誘の張り紙がされている場所だった。

 僕以外に見ている人はいないし、目的は一目瞭然か。

 そんな僕に声をかけてきたってことは、もしかして?


「突然何だけど、もしよかったら私たちのパーティーに入らない? 一応上がりたてだけどAランクだよ! あ、ちなみに私がリーダーのアイナ!」


 やっぱりメンバーの勧誘だった。

 しかもAランクパーティー。

 冒険者の中でも一割以下しかいないエリートだ。

 そのパーティーからいきなり勧誘を受けるなんて思わなかった。


「どうかな? まだ決まってないならうちに入ってほしいんだけど」

「そ、それは嬉しいですけど、良いんですか? 僕のこと何も知らないのに」

「大丈夫! 私の眼は特別製なんだ!」

「特別製?」


 彼女は自分の右目を指さして答える。


「私には他人のオーラが見えるの。オーラにはその人の能力が投影される。凄い人ほどオーラも凄いんだけど~」


 と言って、じーっと僕のことをマジマジと見つめる。

 女の子に見つめられるのは初めてで、何だか無性に恥ずかしい。


「あ、あの……」

「お兄さんのオーラ凄いよ。こんなの見たことない」

「え? そうなんですか?」

「うん! 間違いなく隠れた実力者だよ! だからぜひ入ってほしいんだ!」


 隠れた実力者……そんな風に言われたのは初めてだ。

 ちょうど昨日の夜、僕のやっていたことを理解してもらえなかったこともあって、彼女の言葉は胸に響いた。

 普通に嬉しいと思った。


「あ、でも他に行く当てがあるなら無理にとは言わないよ? お兄さんの実力ならSランクでもやっていけるだろうし」

「いえそんな。ぜひお願いします」

「本当!? 入ってくれるの?」

「はい」


 初対面で僕の力を見抜いて声をかけてくれた。

 彼女がリーダーを務めるパーティーなら、きっとあんなことにはならないだろう。

 そう思ったから、二つ返事で了承した。

 すると、彼女は子供みたいに目をキラキラさせて、勢いよく僕の手を握ってくる。


「ありがとうお兄さん! これからよろしくね!」

「は、はい。よろしくお願いします」


 こうして、僕の新しいパーティーが決まった。


  ◇◇◇

 

「じゃじゃーん! みんな注目! 新しい仲間を連れてきたよ!」

「初めまして! 今日からパーティーに加わったレントです! よろしくお願いします」


 アイナの後についていくと、パーティーメンバーの二人がテーブルを挟んで椅子に座っていた。

 彼女の合図で自己紹介をすると、二人の視線が僕に向けられる。

 

「え? 新しい仲間?」

「初耳」


 あ、あれ?

 思っていた反応と違うな。

 二人とも僕を見てキョトンとしている。

 というか二人とも女の子だ。

 一人は銀髪のポニーテールで、槍をテーブルに立てかけている。

 もう一人はフード付きのローブを来た藍色の髪で、何となく不思議な雰囲気がある。

 杖を持っているし、おそらく魔法使いだ。


「おいアイナ、新メンバーなんていつの間に募集してたんだよ」

「募集してないよ! さっき偶然見つけたから捕まえてきたんだ!」

「捕まえてきたって、モンスターかよ」


 銀髪の女の子が呆れてため息をつく。

 続けてフードの女の子が、僕の顔をチラッと見てからアイナに言う。


「拉致?」

「ちっがうよ! ちゃんと勧誘して合意の上だから! ねっ、お兄さん!」

「あ、うん。ちょうど僕もパーティーを探してて勧誘してもらったんです」

「へぇ~」


 銀髪の女の子がじーっと僕のことを眺める。

 何だか品定めをされている気分だ。


「ねぇアイナ、この人の職業は何?」

「知らない!」

「えぇ……」

「そういえばまだ聞いてなかったよ!」


 呆れる銀髪の女の子と、底抜けに明るい笑顔を見せるアイナ。

 アイナはどうも抜けている性格のようだ。

 銀髪の子のほうがしっかししているのかな。


「お兄さん何が得意なの?」

「えっと、支援職です。一番得意なのはデバフがです」

「デバフっていうと、相手を邪魔したりするあれ?」

「そうですね。ステータスを大幅に下げたりできます」


 一応まだ最大値については言わないでおこう。

 いきなり99%なんて数字を出したら、きっと嘘だと思われるに違いない。


「お兄さんの実力は私が保証するよ!」

「……まっ、アイナの眼がそう言ってるなら確かなんだよな。あたしは良いけど」

「ボクも良い」

「じゃあ決まりだね!」


 拍子抜けするくらいあっさりと受け入れられた。

 さっきまでメンバー募集のことすら聞き渡っていなかったのに。

 彼女が連れてきたというだけで、他の二人が納得したらしい。

 すごい信頼関係だ。


「あたしはキルエ。よろしく」

「ボクはユイ。よろしくレント君」

「敬語はなしで良いよ。あたしも苦手だから」

「あ、じゃあ、わかった。よろしく二人とも」


 不自然なほどすんなりと話が進む。

 ともあれ三人とも良い人そうだし、一先ずは新しいパーティーに入れて良かった。

 心の奥でホッとする。


「よーし! それじゃさっそくクエストに行こう!」


  ◇◇◇


 ギルド会館のクエストボードには、街の内外から集められたクエストが掲示されている。

 クエストはそれぞれ難易度があり、AランクにはAランクにあったクエストがある。

 今回僕たちが選んだのは、ギガントバジリスクの討伐クエストだ。

 

「ギガントバジリスクか~ 私あれ嫌いなんだよね~」

「あたしも好きじゃない。毒で武器と防具が溶かされるし、鱗も固いし」

「魔法も通りにくい。面倒な相手」


 指定されたエリアの砂漠に向う僕たち。

 三人ともギガントバジリスクは苦手らしく、愚痴愚痴と文句を口にしていた。

 確かに言いたいことはわかる。

 ギガントバジリスクは砂漠に生息する巨大トカゲのモンスターで、強靭な鱗は鋼鉄を弾き、口から吐き出す猛毒は一瞬で鉄を溶かす。

 前衛陣には特に嫌われる相手だ。


「大丈夫だよ。僕の領域内に入ってくれたら弱体化出来るから」

「頼もしい!」

「お手並み拝見だな」

「期待」


 パーティー加入直後の初陣だ。

 せっかく実力を見抜いてもらった以上、ちゃんと成果を出さないといけない。

 僕はいつも以上に気合いをいれた。

 そして、該当エリアに到着する。


「いたよ! バジリスクだ!」


 アイナが最初にバジリスクを発見。

 彼女の大きな声に反応して、バジリスクがこちらに向けて動き出す。

 数は一匹、特に問題はない。


「待って! 左右からも来てるぞ!」

「え? あ、ホントだ!」


 と思っていたら、正面だけでなく左右にもバジリスクが潜んでいたようだ。

 僕たちはいきなり囲まれてしまう。

 アイナが剣を、キルエが槍を、ユイが杖を構える。


「チッ、やるしかないな!」

「大丈夫! もう少し待って」


 戦闘を開始しようとしたキルエを制止する。

 まだ効果量域内に入っていない。

 あと少し、少し待てば入る。


「三匹なら丁度良い」


 僕のデバフも無制限じゃない。

 強力なデバフをかける場合、対象を絞る必要がある。

 だから普段の戦闘では、どのモンスターのデバフを強くするか選んだり、ピンチの人も周りをピンポイントでデバフしたり。

 緻密なコントロールが必要になる。

 集中しないといけなくて、発動中はほとんど身動きがとれない。

 確かに端から見れば何もしていないように見えるけど。


「三、二、一……今!」


 最大出力のデバフを発動。

 ギガントバジリスクのステータスが99%ダウンする。


「な、何?」

「急に動きが遅くなったぞ?」

「見てみる」


 バジリスクの移動速度の変化に驚く三人。

 ユイが瞳の前に魔法陣を展開した。

 おそらく相手のステータスを除く魔法だろう。

 そしてステータスを確認したユイが、驚きで両目をぐわっと見開く。


「ど、どうしたの?」

「す、すごい……バジリスクの力が……百分の一まで抑えられてる」

「なっ……本当か!?」


 キルエが聞き返すと、ユイはこくりと頷いた。

 信じられないという表情の三人は、そのまま僕へと視線を向ける。


「これが僕の全力だよ。さぁ、後は倒すだけだ!」

「う、うん!」

「そうだな。やるぞ二人とも!」

「わかった」


 超低速になったバジリスクを、三人はそれぞれ一体ずつ攻撃する。

 バジリスクも対抗して毒を吐こうとするが、本来の量は出せず、飛距離も出ない。

 加えて毒はもはや毒ではなく、ちょっと濁った水程度に弱まっている。

 三人とも難なく撃破し、僕の元に戻ってきた。


「お疲れ様。どうでした?」

「どうって言われても……弱すぎてびっくりだよ」

「本当にな。その辺の石ころを蹴飛ばしたくらいの感覚だった」

「ボクは爽快」


 三人とも驚きすぎて、若干オドオドしている。

 いきなり全力はやり過ぎたかと反省したが、これくらいしないとまたサボっていると思われる。 

 というより、これが普通の反応なんだ。

 彼女たちは自身の力でAランクになった。

 実力は確かなはず。

 だからこそ、僕のデバフがどれほど強力か理解できる。


「すごいねお兄さん! やっぱり私の眼に狂いはなかったね!」

「いや予想以上だよ。こんなの無敵だ」

「レント君は天才」

「僕が天才……か」


 それも言われたことがなかった。

 今日は本当に初めてのことばかりだ。

 

 ふと思う。

 きっと今頃、彼女たちとは真逆の感覚を、彼らは味わっていることだろう、と。


  ◇◇◇


 レントを追放した面々は、いつものようにクエストへ出発していた。

 ダリルとノノ、それに他の仲間たち三人を連れ、山岳地帯に足を運んでいる。

 

「いや~ お荷物がいないと気分がいいな」

「本当よね。あいつの分の報酬が減らないって思うと嬉しいわ」


 二人を中心に、他の面々も同調する。

 彼らは未だに気付いていない。

 レントがパーティに与えていた恩恵を。

 しかし気付くのも時間の問題だった。

 なぜなら今回のクエストは、ドラゴン討伐なのだから。


「山頂に巣食うレッドドラゴンを討伐せよ。受注資格はSランク以上であること。俺たちにピッタリなクエストだな」

「ええ。私の魔法があればドラゴンなんて一撃よ」

 

 慢心、勘違い。

 その極みに達している彼らは、もはや自分たちを客観視できない。

 痛い目を見るまで、彼らは気づけない。


 そして――


 山頂に到着した彼らは出会う。

 本来の実力をいかんなく発揮する本物のモンスターに。


「いたわね。レッドドラゴン」

「ああ。さっさと……」


 何だ?

 この感じ……


 違和感。

 対峙した直後に、ダリルは感じ取る。

 今まで感じたことのなかった寒気を。

 背筋が凍るような悪寒を。

 それが恐怖だと気づくのに、少しだけ遅かった。


「お前ら戦闘――」


 突風が吹き抜ける。

 すでにレッドドラゴンは両翼を羽ばたかせ、宙に浮かんでいた。

 彼はその動きに気付けなかった。

 いつ飛んだのか、見えなかった。

 そして彼の隣にいた仲間たちは、一人残らず吹き飛ばされていた。


「なっ、お、お前ら何して……」


 ドラゴンが雄叫びを上げる。

 身体だけでなく、魂まで震え上がる恐怖がダリルを襲う。

 

「う、うあああああああああああああああああああああああ」


 彼は逃げ出した。

 一目散に逃げだした。

 仲間など見捨てて、自分だけ助かろうと惨めに駆ける。

 

 彼は、彼らはこの時初めて知った。

 今まで戦っていた相手が、百分の一の力しか発揮していなかったことを。

 自分たちは強者ではなく、相手が弱者に堕とされていたことを。

 所詮、彼らは道を這うアリに過ぎない。

 地を這うアリでは到底、空を飛ぶドラゴンには敵わない。

 

「ありえない、ありえないありえない!」


 彼の言葉が全て正しかった。

 それに気づいた所でもう手遅れ。

 絶望の中に呑まれて、彼らは落ちていくだけだ。

 順当に。

 本来いるべき立ち位置まで。

 転落にかかる時間など、瞬きほどの速さだろう。


  ◇◇◇

 

 初陣を難なく終えた僕たちは、早々に冒険者ギルドに帰還した。

 時間がたっぷり余っているし、親交を深めるために今夜は一緒に食事をとることに。

 彼女たちがよくいく酒場に案内され、テーブルの上には豪華な食事が並ぶ。


「かんぱーい!」


 アイナの音頭でグラスを交わし合う。


「飯だ飯ー」

「ボクは甘いものがほしい」

「お兄さんもたくさん食べてね!」

「うん」


 女の子三人の中に男が一人。

 さすがに意識してまって少し緊張するけど、こうして楽しく食事をするのは久しぶりだ。

 思えば前のパーティーじゃ、まともに話す相手もいなかったな。


「お兄さんも飲んで!」

「飲むより食べたほうがいいよ。レントって結構細いし」

「何が好き?」


 こうして気草に話しかけてもらえるだけで、僕は嬉しかった。

 誰かと一緒にいると思えるから。

 そうして賑やかに、楽しい時間はあっという間に過ぎて行っき、食事も飲み物もなくなってきた頃。

 ふいにアイナが僕に尋ねてくる。


「ねぇお兄さん、私たちのパーティーで良かったの?」

「え? それって……僕がここに合ってないとか」

「違う違う! そういうことじゃなくて! いやでも、うーん……お兄さんの強さなら、もっといい所でもやっていけると思うから」


 そう言って寂しそうな顔をするアイナ。

 彼女に続いてキルエとユイが順番に言う。


「レントが力が強すぎるんだよ。あたしたちには勿体ないくらいにさ」

「迷惑、かけるかも」


 ああ、何だ。

 そんなことか。


「そんなことない。みんなと一緒にいるのは楽しい。たった一日だけなのに、もうこんなに居心地が良いのなんて初めてだよ。だからその、みんなが迷惑じゃなければ、明日からも一緒に」

「迷惑なんかじゃないよ! むしろいてくれたら心強いもん!」

「ああ。まぁあんなに敵が弱くなると拍子抜けだし、次からちょっと微調整してほしいけどな」

「レント君がいれば安心。ボクたちも負けないように頑張る」


 三人の真っすぐな視線が僕に向けられる。

 発した言葉には誠意が感じられて、僕も彼女たちの期待に応えたいと思えた。

 彼女たちはちゃんと、僕のことを見てくれている。

 だからこそ、僕も彼女たちと一緒にいてみたい。

 そんな風に思える。


「こんな僕でよければ、喜んで」


 僕の新しい居場所。

 心地よくて、賑やかな仲間たち。


テンプレのハイファン短編です。

一応連載候補です。


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ブクマもありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] バフデバフ不遇もので毎回思うのはなんで味方に気づかせる努力を主人公が全くしないのかってところ、バフチートならバフ無しでしばらく戦わせてみるとか、デバフチートならパーティメンバーにデバフかけて…
[一言] 段階を踏んでのデバフなら、もっともっと大活躍すると思うな。 あ、でも、最初のパーティは、全部全力だったみたいだし・・・。 ステータスを「最大」99%低下させる事が出来る、の方が、より楽し…
[一言] AGLも1%までダウンするなら即見た目で分かるもんだしさすがにバカでも気付く。コレ気付かないのは全員が日常生活すら困難な脳障害を抱えてないと無理だよ。
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