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イスラエルバスター!  作者: ローリング蕎麦ット
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第七話



 教会の鐘がけたたましく鳴り響いていました。


 アリエルが、二度目の野盗強襲を告げる音です。


 グレゴリウスはアリエルにみんなと一緒に村を脱出するように言い含めていました。


 二度目の襲撃を、グレゴリウスは凌げる自信がなかったからです。


 野盗たちは狙いを自分だと言いましたが、それをそのまま信じるわけにはいきませんでした。


 鐘の音を背に、村の入り口でグレゴリウスはスクワットによるバンプアップをしながら敵を待っていました。


 既に視界には野盗たちがこちらに向かってきていているのを捉えています。


 マサイ族よりも視力の良いグレゴリウスは、野盗たちの下卑た笑う顔がよく見えました。


 神父衣の上を脱いでムキムキの筋肉をさらしながら、ホーリーなバンプアップを済ませて一回り体を大きくした頃には、野盗たちがグレゴリウスを取り囲んでいました。


「げへへ、本当にひでぇ火傷をしてやがるぜ」


「これなら俺たちで仕留められるぜー!」


「……情報の伝達が早いですね」


 グレゴリウスが静かに野盗たちへと語りかけました。


「村のどなたが、あなたたちの仲間だったのでしょうか?」


「ひゃっはー! そんなことを今さら知ってどうするってんだー!」


「これから死ぬって言うのによー!」


「さっきはよくもぶんぶん振り回してくれたなー!」


 グレゴリウスが弱っていると見て、野盗たちはここぞとばかりに襲い掛かってきました。


「ぬおおおおおおおおおおェィメン!」


 棍棒や剣といった一斉攻撃に、グレゴリウスは両腕を盾に、要塞のごとき構えです。


 まさに肉のカーテン。


 三日三晩、暴徒の攻撃を耐え忍ぶ気概です。


 もしかすると万全のグレゴリウスならばそれができたかもしれません。


 しかし、


「ぐぅっ……」


 ひどい火傷で体力を消耗して、皮膚の下もまろびている今、耐えがたい苦痛にグレゴリウスが呻きます。


 火傷でぐずぐずになった皮膚が容赦ない攻撃に破れて流血します。


 肉を食い込む野盗の攻撃に、守っているだけでは負ける! 攻めろ! とばかりに防御を大きな挙動でほどきました。


 まさに攻撃に合わせたカウンターぎみの筋肉の弾力に、野盗たちがたじろぎます。


 そこにすかさずフライングボディプレス!


 三人を巻き込んで下敷きにすれば、ぐええと潰される悲鳴が漏れました。


 しかしその背を耕されるように棍棒が降り注ぎ、グレゴリウスも痛手をこうむります。


「セイントせいやーっ!」


 足と腕のバネを駆使して、聖なる掛け声とともにグレゴリウスが地を跳ね跳びました。


 そのままヒップアタックで棍棒で攻撃してきた男を跳ね飛ばし、両腕を翼のように広げてスピニング。


 まるで竜巻のようなダブルラリアットが野盗たちを次々と吹き飛ばします。


 しかしグレゴリウスのダメージもさるもの。


 ダブルラリアットはどうにも安定しません。


 ぐらつくダブルラリアットの懐に飛び込んだ野盗のひとりに剣で突かれて、グレゴリウスサイクロンは止まってしまいました。


「エェェェィメン! エェェェィメン! エェェェィメン!」


 負けじとグレゴリウスは、水平チョップ! 水平チョップ! 水平チョップ!


 喉元に強烈な三連撃を受けた男は、たちまち崩れ落ちてしまいました。


「こんの化け物がぁ!」


「さっさとくたばりやがれ!」


 野盗たちと火傷で負傷したグレゴリウスのぶつかりあいは、ぎりぎりのところで均衡していました。


 しかしどんどんグレゴリウスは弱り続け、決して殺されない野盗は少し倒れた後にも再びグレゴリウスに襲い掛かります。


 既に教会の鐘の音は止んでいました。


 みんなは無事に村から遠ざかっているだろうか。


 善良な者たちばかりなのです。


 主よ、彼らを見守りたまえ。


 心を祈りで満たしながら、グレゴリウスは両腕を盾に耐えるしかできませんでした。


 既に攻撃に回せる力が残っていません。


 もはやこれまで。


 このままじわじわと削り殺されるしか道はありませんでした。


「主よ……どうかこの者たちを憐れみたまえ」


 しかしグレゴリウスに浮かぶのは、目の前で自らに武器を振るう野盗たちへの祈りでした。


 その言葉を拾った野盗たちからの嘲笑が聞こえます。


 それもかすんでいく意識の向こう、遠く聞こえました。


 しかしそんな声に耳慣れたあの声が混ざっている気がしました。


「神゛父゛さ゛ま゛~~~!!!」


 実際聞こえました。


「馬鹿な!? シスターアリエル!?」


 残っていた力が収斂するように、グレゴリウスの意識を覚醒させます。


 グレゴリウスのゴリラみたいな体の前に、小娘の修道女が飛び込んできたのです。


「神゛父゛さ゛ま゛を゛い゛じ゛め゛る゛な゛!!」


 鼻水ぐずぐずで、恐怖で涙ぼろぼろのアリエルが、脚がくがくにしながら両手を広げます。


 まさかのシスターの出現に、野盗たちもきょとんとなりました。


「なんだぁ、こいつは?」


「ああ、教会にいるってシスターの」


「げへへ、神父を殺せとしか言われてねぇが……」


「こんなところにのこのこ現れたんだ、神父をやっちまったら、えっちなことをたっぷりしてやるぜ」


「ひぃっ!?」


 ぬぅと手を伸ばす野盗に、アリエルがおしっこちびりそうになりました。


 しかしその手は、グレゴリウスに捕まれて止まってしまいました。


「ぐっ、この野郎、まだこんな馬鹿力を……!?」


「シスターにえっちなことなんて、」


 掴んで腕をたぐって、グレゴリウスは野盗を引っこ抜きました。


「許しませんよ!!!」


 そのままその体をひっくり返して、パワーボム!!!


 四人ほど固まっていた所に炸裂して野盗たちを散らしました。


「シスター! どうしてこんな所に!?」


「わた、わたた、わた、わたしだって……!」


 ろれつぐちゃぐちゃですが、アリエルの心意気をグレゴリウスはしっかりと受け取りました。


「分かりました!!! 一緒に戦いましょう!!!」


「ひぃっ!?」


 威勢よく出てきましたが、アリエルには戦いのビジョンとか全然なかったのでびびり散らしました。


 しかしそんなアリエルをかばうようにグレゴリウスは前に立つのです。


「回復をお願いします。絶対にあなたには手を出させませんから! 一緒に、戦うのです!!」


「ひゃい!」


 アリエルが背中でヒーリングをかけ始めます。


 グレゴリウスの空っぽだったパワーが、それでぐんぐん満ちていきます。


「まずいぞ!」


「回復などさせるな!」


 野盗たちが焦りながら殺到します。


 しかしグレゴリウスの鉄壁の防御を崩せません。


 グレゴリウスは防御しながら回復するというマッスルタクティクスの合間、余裕ができればこまめに野盗たちのジョーを狙って気絶させます。


 こうして徐々に野盗たちは数を減らしていきました。


 回復役のアリエルを狙おうともしますが、グレゴリウスの巨躯をどうしても抜けません。


 どんどん野盗がダウンしていき、いよいよ数人になった時、


「こ、こりゃ駄目だ!」


「逃げるぞ!」 


「どうしようもねぇ!」


 腰が引けた野盗たちが撤退し始めました。


 それをグレゴリウスは、見逃すつもりでした。


 ひょっこりと顔を出すアリエルも、終わった? 終わったの? と不安げな顔です。


 しかし、


「どこへゆくというのですか?」


 野盗たちの逃げ道を防ぐ者がいました。


 シスターシュゼットです。


「あ、あんたか!?」


「神父は殺せそうだったんだ! し、しかしあのシスターが来て……」


「言い訳は聞かん!!!」


 シュゼットが野盗のひとりをビンタしました。


 その威力はすさまじく、大の男が一発でぶっ飛ばされて地を四回五回転がりようやく止まりました。


「……シスターシュゼット、今回のことはやはりあなたが」


 グレゴリウスの静かな言葉に、アリエルがえっ!? という顔をします。


 当のシュゼットは冷然と鼻を鳴らしました。


「しぶとい男だな、ファーザーグレゴリウス。さっさとやられてしまえばよかったものを」


「えっ……シスターシュゼット……なんで……」


「なんで? ふっ……ふふふ、シスターアリエル、あなたの足りない脳みそでは思考が追いつきませんか? 本当に、人をイライラさせる間抜けだなァ……!! てめぇはよぉ!!!! 決まってんだろうがァ!!! それはこのあたしが!!!!!!」


 ばっと、シュゼットが修道衣を脱ぎ放ちました。


 するとどうでしょう、その下は、革でぴっちりした感じのちょっとえっちな敵の女幹部的装束でした。


 鞭を持つととても女王様だなぁという格好ですが、しかしシュゼットが持っているのは、身の丈も越えるほどの戦斧でした。


「サタンの使徒だからだよぉ!!!」


 なんということでしょう、シスターシュゼットは教会と敵対する悪魔の使徒だったのです!


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