51 第二王子はくせ者です
「アリスがいない………」
講堂の中をきょろきょろと見まわした。
アリスとは朝別れたきり、お昼休みも会うことができなかったのだ。
今は格技場で最終練習の前に、もう一度クラスで魔法を合わせておこうという話になり、講堂に集まった。
実行委員、忙しいのかな?
そう思ったが、講堂の入り口でララ様が第二王子にまとわりついている。
「ララ様、アリスは実行委員で来られないのですか?」
ララ様はその大きな胸を第二王子に押し付けたままこてんっと首をかしげた。
何故、王子に向かって首をかしげる?
かわいいアピールなの?
「アリスを知りませんか?」
イライラしてもう一度聞くと、ララ様は顔だけこちらに向けた。
「うーん、わかりません。どこかで休憩でもしているんじゃないですか?」
暗にさぼっているとでも言いたいのだろうか。
「ララ嬢、委員会は一緒じゃなかったの?」
第二王子がララ様に聞く。
「えっとぉ。私は生徒会のお仕事が忙しくて、実行委員は欠席させていただきました」
さぼってたのお前じゃないか! だいたいあなた生徒会関係ないでしょ。と突っ込みたいのを我慢し、額に手を当てた。
駄目だ、これ以上話していたら暴言を吐きそうだ。手が出る前に離れよう。
第二王子は心配そうにこちらを見ていたが、ララ様がいるからか、聞いては来なかった。
ちょっと心配になった私は、自分の耳のピアスに手を触れた。アリスに限って何かあるはずはないが、通話石で居場所を聞いてみよう。
しかし、講堂の中は結界が張ってあるらしく、通話石が使えず、ザーッという音しかしない。
外に出るしかないか。
そう思い出口に向かうと、腕をぐっとつかまれる。
「どこへ行くんですか? もう練習始めますよ」
第二王子と離れたようで、ララ様はさっきまでの笑顔が嘘のように、眉間にしわを寄せている。
「アリスを探しによ」
「探さなくても、後で格技場に来ますよ。それよりもあなた、私と同じ水魔法担当なんだから、練習抜けないでください。せっかくレオン様にいいとこ見せるのに、あなたの魔力が抜けると水魔法がしょぼくなっちゃうでしょ」
自分勝手な言い分に呆れたが、クラスメイトはすでに輪になり、きちんと並んでいる。
確かに、私が抜けると水魔法担当の魔力量は減るだろう。
仕方ない。まずは練習をしてからアリスを探そう。
練習は思いのほか時間がかかった。1組であるという自負が邪魔するのか、協調性が全くない。
特に、第二王子がいるせいか魔力量を調整せずに自己アピールするものが多い。
これではララ様一人を笑ってはいられない。
「皆様、ここは狭いので、力を加減お願いします」
そう何度も叫んだが、まったく聞き耳を持ってもらえない。
「今年は魔力量が多いものが多いと聞いていたが、やはり入学したばかりでは、力の調節は難しいようだな。残念だが、力の調節ができないものには、簡単な基礎魔法のみで参加してもらおうか」
第二王子がいかにも残念ですというように、ナイスフォローを入れる。
自分の魔力量を殿下にアピールしようと思っていた者たちは、あわてたように魔力量の調節をしていく。
そりゃそうだろう。魔力量をアピールするはずがそれのせいで、基礎魔法に回されたのでは本末転倒ある。
現金なもので、今度はみな魔力量の調節に全力を注ぎ、いかに自分が魔力量の微調整が得意か主張しだし、あっという間にきっちりと息がそろう。
やればできるんじゃない。
「では、後は本番同様、格技場の最終練習で大丈夫そうだな。皆優秀で私も安心だ」
第二王子はにこやかに笑うと講堂を後にした。
私も急いで講堂から出て、魔法石に手をかざす。
「アリスどこ?」
しばらく待つが返事がない。
「アリス無事よね?」
声を潜めてもう一度聞いてみる。
もしかしたら、側に誰かいて話せないだけかもしれない。
「アリスと連絡取れないのか?」
後ろから急に話しかけられて、思わず声の主を振り返る。
そこには第二王子と従者が立っていた。先に講堂を出て行ったはずなのに、待ち伏せされていたらしい。
「ええ、忙しいようですね。お昼も会えなかったし、ちょっと心配になっただけですから。学院内ですから早々危険なことなどありませんね」
私の言葉に、第二王子は少し考えて答えた。
「今日昼頃、生徒会室でソルトを見かけた。今は高等部での授業はないし、最近城にも出入りしているようだ」
ソルト先生か。
まだ、数回しか授業は受けたことがないが、人を見下した男だ。
「リリィ嬢は、今どこに? 練習に出ていなかったな」
まあ、気づきますよね。
リリィ様は、今アランの焼きもちのせいで、アリスの代わりに魔王の所で瘴気を浄化しているはず。
「今日は朝から、魔王の森で瘴気が濃くなっていると報告を受けている。アリスを見かけないのは魔王に頼まれて、浄化をしに行ったのかと思ったが、アリシア嬢が知らないのではそれも違うな」
アリスからは何も聞いてないはずなのに、あなどれないわね。
「さすがだね。フェイント掛けたつもりだったけど、表情が読めないよ。でも、否定しないってことは、あながちリリィ嬢が浄化しに行ったのかな?」
駄目だ、ごまかし通せる気がしない。
「殿下、私からは何も申せません。お聞きになりたいことはアリスに直接聞いてください」
「わかったよ。私は私で調べてみるけど、何かあれば手伝うから………アリスが見つかったら教えて欲しい」
「かしこまりました」
私は、礼をしてその場を立ち去ろうと思ったが、一つ引っかかったことを聞いてみた。
「殿下は瘴気の原因が何かご存じなんですか?」
「難しい質問をするね。正確にはわからないよ。でも、魔の森にある古いダンジョンの中からだという事は調査で分かっている。アリスから聞いているかもしれないが、以前にも森が瘴気に覆われて、それが風に乗り国に流れてきたことがある」
ああ、確かアリスがそんなことを言っていたっけ。
「あの時のようなことが、いつ起こるとも限らないから。教会も宮廷魔術師も聖女を探しているし、浄化できるものをできるだけ多く育てているのだけれど、ソルトは第一王子派だからね、もうしばらく私としては時間が欲しいが」
意味ありげに、ほほ笑んだ。
王になると宣言するくらいの男だ、すでに手をまわしているのだろう。
アリスも変なのに気に入られたものだ。
もたもたしていては、アランに勝ち目はないな。ちょっとアランに同情するかも。
「じゃ、僕の方でもアリスを探してみるよ」
さわやかに、第二王子派さって言った。
そうだ、アリスを探さなきゃ。
土曜まで遅めのお盆休みいただきます。
最新は、日曜の予定です。元気を補充しまた頑張ります❗




