46 リリィ様浄化する
魔王と一緒に転移するも、やはり自分で転移魔法を使う時とは違い、頭がくらくらする。
「大丈夫か?」
横を見ると、リリィ様がしゃがみ込み、魔王が腕を取り支えている。
「リリィ様!」
駆け寄ると、リリィ様の顔は真っ青なのがわかる。
「大丈夫、ちょっと休めば大丈夫だから」
「僕が代わりに浄化するから、リリィ様はここにいて」
魔王を見て同意を求めたが、魔王は僕を馬鹿にしたように首を振った。
「お前ひとりでは無理だな。聖女がいるんだ彼女には頑張ってもらう」
「リリィ様は聖女じゃない」
僕は、リリィ様を魔王から引き離すように、肩に手を添えて抱きかかえた。
かなり身長差があって、傍から見たら姉にまとわりつく弟見たくなっているが、そんなの構っていられない。
「俺は代替わりだが、以前の記憶はある。そいつの持っている力は以前の聖女と同じだ」
「たとえそうだとしても、今は聖女じゃないから」
キッっと睨んで、アランよりさらに背の高い魔王を見上げる。
「ライト君大丈夫よ。魔王様、私は聖女の力を持っていても聖女として行動するつもりはありません。私がここに来たのは、商会の仕事だからです」
「俺はどちらでも構わん」
「魔王様」
濃紺の騎士服に身を包んだ男たちが、続き部屋の向こうから入ってきた。
「西の市場の瘴気が急激に増えてきています。このままでは結界だけでは持ちそうにありません」
「わかった、お前たちは城下で他に瘴気が発生していないか確認しろ」
「ですが、魔王様が瘴気を転移させる森の魔獣達を避難させなくては」
「それは大丈夫そうだ。こいつらで浄化できそうだ」
こいつらって………。
「馬を用意しろ、市場の近くまで行く」
魔王に連れられて俺たちが西の市場につくと、魔族が結界を張っていた。
その奥には黒い霧が渦を巻いてうごめいている。
あれは、朝アランと一緒に森で見た霧と同じ。
アランの言う通り、地下でダンジョンと繋がっているのかも。
「行けそうか?」
魔王がリリィ様に聞くと
「はい、これくらいなら何とかなりそうです。ですが、なにぶん実戦経験があまりなく、いっぺんに全部は無理だった場合を考えて、結界は一部だけ解除してもらえるでしょうか」
たしかに、かなりの広範囲に結界が張られている、この量を一気に浄化することができなければ、瘴気が拡散してしまうだろう。
魔王が魔族に指示を出すと、リリィ様が立つスペースが、開けられる。
リリィ様は結界の前まで進み出ると、両手を前にかざし、詠唱を始める。
その手はどんどん光輝き、リリィ様まで飲み込んでしまうくらい大きく膨らんだ。
「結界を解いてください」
その言葉に従い数人の魔族が結界を解く。
「浄化」
リリィ様が叫ぶと光が一気に結界の中にあふれ出し、黒い瘴気と押し合っていく。
目の前の瘴気がどんどん浄化されていき、それに合わせて、リリィ様も結界の中へと歩いて行く。
「さすが聖女だな」
魔王のつぶやきを無視し、僕はリリィ様の近くまで行く。
魔王も、魔族も結界の中には入ってこないようだが、何があるかわからない。僕がリリィ様を守らなくては。
なおも詠唱し続けるリリィ様は女神のように輝いている。
どれくらいたっただろうか?
僕たちは市場から広場のような、ちょっと広い空間に出た。
その中心から瘴気が湧き出しているようだった。
さらに近づくと、ぽっかりと開いた穴から、火山噴火のように黙々と瘴気が出ている。
リリィ様が一段と詠唱する声に力を籠めると、光も一層強くなり、穴から噴き出す瘴気とせめぎ合う。
「ライト君、あの穴ふさげる?」
「やってみる」
僕は瘴気が一瞬消えたすきをついて、固くシールドを張る。
穴から湧き出てくる瘴気がなくなり、あとは地上に残っている瘴気のみとなる。
「ありがとう、ライト君」
リリィ様は、ほっと溜息をつくと残りの瘴気を浄化した。
「全部浄化できたみたい」
その言葉と同時に光も消え、リリィ様は膝から崩れ落ちた。
「リリィ様」
僕はリリィ様を抱きかかえながら、叫んだが額に汗をかき、真っ青な顔をしている。
「魔王!」
呼ぶと、魔王はすぐに俺たちのそばに表れた。
「浄化は終わったようだな。聖女の浄化は随分と派手だな、アリスとは大違いだ」
呑気な声で言うと魔王はリリィ様を見る。
「魔力切れだな」
魔力切れ!
ガリレの修業の時、何度か魔力切れを起こしたが、その時はガリレの魔力を分けてもらっていた。
魔力切れを起こすと死んでしまうかもしれないから、注意するようにしつこく言われたのだ。
リリィ様もこのまま魔力が切れたら死んでしまうかもしれない。
「魔力を分けるってどうすれば」
僕のつぶやきに、魔王が「ふつうは無理だな」と冷たく返事する。
思わずにらみつけると、魔王はニヤリと笑う。
「心配するな城に戻れば、魔力石がある。だが、今転移は無理そうだな。馬車で運ばせる」
そう言って、魔王はやってきた騎士に指示を与える。
「そういえば、このシールドはお前がやったのか?」
瘴気が噴出していた入り口に張ったシールドを見て魔王が聞いてくる。
頷くと、「そうか、なかなかだな」と言いながら、さらに上からシールドを強化した。
なんか、傷付くんですけど。
力の差を見て、僕が拗ねているのが分かったのか、魔王は機嫌よさそうだ。
「それにしてもアリスの所には面白い人間がそろっているな。お前は勇者か?」
え!?
僕の正体ばれてる?
何で?




