43 裏切り者
嫌な予感というのはどうしてあたるのだろう?
「第一王子殿下…………」
警護もつけず、一人第一王子が入ってきた。
慌てて礼をする。
「やあ、そんなに固くならなくていいですよ。ここは学院ですからね。ええと、君はアリシア嬢の友人でアリス嬢だね」
見た目だけはさわやかで、普通の令嬢ならこんな偶然はラッキーでしかないのだが、普段、実行委員会に出たことのない第一王子が偶然アリスしかいない教室に来るわけがない。
絶対にララ様を使って呼び出された?
正体がばれてる?
いや、私にばれる正体なんてないし。
「今日は私も実行委員に参加しようと思ったんだけど、まだ君しか来ていないようですね」
にっこりと笑い、近づいてくる。
白々しい。
逃げた方が良い?
「ちょっと手を見せてもらってもいいですか?」
手?
突然そう言われ、私は自分の手を見る。
ガチャリ。
えっ!!
えーーーーーーーー!!
「何これ?」
「魔力封じの腕輪ですよ。王家の秘宝。やっと持ち出しの許可が出てね」
なっ! 魔力封じの腕輪って!
どういうこと?
「はずしてください!」
私はキラキラ光る金の腕輪を王子の前にかざした。
この際不敬などどうでもいい。
「残念だけど私には無理です。それに外したら、どこかに転移してしまうでしょ?」
なんで第一王子が転移のことを知っているの?
平静を装うとしたが、顔が引きつる。
「君のことは聞きましたよ、まったくノーマークだったから驚きました」
にやり、と虫の好かない笑顔を浮かべる。
ガラリと戸が開き、もう一人誰かが入ってくる。
助かった。と思ったのもつかの間、私は更に追い込まれたようだ。
「ソルト先生」
全く実行委員と関係ないソルトが入ってきたということは、やはり委員会というのは初めから嘘だったのだろう。
「やっと来たね。さて、アリス嬢。いくつか聞きたいことがあるんだけど、あなたは女勇者なの? 君が勇者なら、いくら探してもわからないのはソルトのせいじゃないかもね。まさか女とは」
馬鹿にしたような言い方がムカつく。
「彼女からは、私の召喚魔法の軌跡が全く感じません。よほど完璧な隠蔽魔法をかけていれば別ですが、とてもそうは見えません」
ソルトは自信なさげに、第一王子に言った。
「魔力量はどう? 入学時の判定ではそこそこってとこだったみたいだけど」
ソルトは渋い顔で私を見まわした。
「魔力量もそこそこ程度です」
嫌な感じ。
「殿下、私には全く心当たりがありません。ご存じの通り、魔法もやっと1組に入れたほどで、隠蔽魔法などまだまだとても使えません」
何故、第一王子がこんなことを言い出したのかわからないが、ソルト同様、確証があるわけではなさそうだ。
ここは白を切り通すしかない。
「まさか聖女じゃないですよね。聖女はリリィのはずだもの」
妙にこちらは確信があるらしい。
やっぱり第一王子は転生者なのかな。
「もちろんです。聖女様だなんて、全く身に覚えもありません」
これは正真正銘本当だ。
「ふーん、まあ、その見た目じゃ聖女じゃないですよね」
全く遠慮もせずに、第一王子は言い切った。
こいつ。殴っていいのか?
「教会に行けば、聖女かはすぐに判断できますが」
ソルトが余計なことを言う。
「教会には知られたくないから、べつに聖女だろうと勇者だろうとどちらでもいい」
一人で魔王討伐に行かせる気なの?
それはそれで好都合だけど。
何故、教会には知らせたくないの?
確かあなた、教会とずぶずぶでしょ。
まさか、利益は独り占めですか?
「じゃそろそろ、君には明日まで眠っていてもらおうかな。はい、これ飲んで」
第一王子は懐から小さな小瓶を出して、私に差し出した。
怪しすぎる。
「あの、本当に私、聖女でも勇者でもないです。魔王討伐とか絶対無理ですから」
じりじりとにじり寄ってくる第一王子を避け、後ろに下がるがついに壁に押しあたる。
第一王子は「壁ドンだね」とにっこりと囁く。
いやぁーーーーーーー!
こんなところで壁ドン経験したくない。
フルフルと首を振るも、どうしても逃げられそうにない。
「あ、安心して、君に魔王討伐をしてもらおうとは思ってないですから」
「え? じゃあ何を?」
「教えたら、素直に飲む?」
私はさっきよりも思いっきり首を横に振った。
「君はただこのまましばらく眠っていてくれればいいですから」
それって、永遠にってこと?
「私を殺すんですか?」
「え、違いますよ。私が美味しく頂いてもいないのに殺すわけないでしょ。ほんとに眠るだけですよ」
さあ、早く飲んで、と第一王子は私の顎を掴み無理やり飲ませようと瓶を口に押し当てる。
その時、ガラリとまた戸が開く。
一瞬。アラン?
と思ったが、その人物は本当に予想もつかない人物で、思わず第一王子の腕をガバッとつかみ覗き込んでしまう。
ガッシャンと瓶が落ちて割れ、チッ、っと第一王子が舌打ちした。
「どうしてあなたが―――――」
不機嫌そうな第一王子を無視し、私は思わずその人物に駆け寄りそうになり、ソルトに止められる。
「申し訳ありません、アリス様」
そういって、その人物は思いっきり私のみぞおちを殴った。
うっ。
どさりと倒れそうになるも、誰かに支えられる。
「アリス嬢は赤いルビーを持っていませんでしたか?」
「さあ、知らんな」
「早急にどこにあるか探らなくては」
そんな会話が聞こえたのを最後に、意識が遠のいた。
ごめんね、アラン。




