41 聖女は誰2
「違います」
私は力いっぱい否定したが、レオン様は「そう?」と言っただけだった。
信じてないですね。
「まあ、聖女なんてただの呼び名だからね。でも、アリスが聖女だと誰かに思われているとしたら、身辺にはもっと気を付けたほうがいい」
いつになく真剣なまなざしで、レオン様が言う。
「これはどこにも記載はないから予想だけど、王女も聖女だったんじゃないかと思うんだ」
王女が聖女?
これは初耳。
「だって、考えたら不思議だろ。そもそも、魔術師だって王女には簡単に会えない。魔王だなんて接点がない」
「確かに」
「まあ、あんな目立つ容姿では出入りしていなかったろうから、当時はだれが知っていたかわからないけど」
ん? レオン様の口ぶりだと王女が聖女なら魔王と出会っても不思議じゃないということ? どこに接点があるの?
私の言いたいことが分かったのか、レオン様は当時の王国の様子を話してくれた。
「あの頃も、魔王の森での瘴気が濃くなっていてね。強い風が吹くと、イスラの国にまで流れてきていたそうだ。当然、浄化できるものを総動員して被害が出ないようにしていたが、それにも限界がある。そこで、国王は聖女を探し勇者を召喚した」
あの頃も、とレオンは言った。今も瘴気が増えていることに気づいているのだろうか?
それに、勇者も召喚していたんだ。
でも、魔王が生きているってことは、勇者は討たれたの?
魔王に勇者がかなわないってことは、絶対にライトを近づけないようにしなくちゃ。
「アリス、何を考えているのかは聞かないけど、聞いてる?」
「勇者はどうなったんですか?」
「勇者の記述はなかったな。勇者だけじゃなく聖女の記述もないんだ。たぶん、聖女が王女だったから王は隠蔽したんじゃないだろうか」
また、隠蔽ですか。
それにしてもなぜ、勇者の記述がないの? 召喚したなら記録があってもいいはず、記録すら残らないほど、呆気なく殺られらたの? 肝心のことがわからない。
「俺は瘴気は魔王が発生させているのではないと思うんだ」
「えっ!」
鋭い。
「二人は協力して国を救ったことになっている。恋人と呼ばれていた魔術師が魔王なら、まあ恋人に言われて瘴気を止めたということもあるだろうけど、今の現状を見ると魔王が瘴気を止めて欲しいと、女王に頼んだんじゃないかな」
鋭すぎ。
「今の現状って?」
「今はまだ瘴気は森の中だけだけど、このまま増え続ければ、いずれイスラにも流れてくるだろう。その前にいろいろ調査してみたんだけど、どうも魔獣は瘴気が苦手らしい。苦手というより、瘴気に触れると吸収されて消えてしまうものもいる」
「瘴気に触れると、魔獣は消えちゃうんですか………」
よかった城下で浄化できて。
「そもそも、瘴気の濃いダンジョンでは魔物すら姿を見せなくなる。これは公にはされていないが、多少でも浄化魔法が使えるものは、自分の浄化魔法が通じるところまでは簡単に入れる。君くらいの浄化能力があれば、ダンジョンの最奥にも簡単に行けるのでは………」
それは、ある意味素材の取り放題。
ぼろもうけでは?
今すぐダンジョンに飛んでいきたい誘惑と戦っているのが分かったのか、レオン様がくすくすといたずらっ子のような顔をする。
「魔王にとっても瘴気は厄介なものなはず、今となってはどうして二人が恋に落ちたかわからないけれど」
禁じられた恋って燃えるのよね。
「今のアリスにはものすごく価値がある。魔王にとっても、この国にとっても、第一王子にとっても、もちろん俺にとってもね。だから気を付けて欲しいんだ」
あまりにも真剣な瞳は吸い込まれてしまいそうなほど綺麗だった。
「えっと、もう知っていると思いますが、私も転移魔法が使えて、でも、心配してくれてありがとう。あ、それに本当に聖女じゃないです」
「ああ、転移魔法が使えるって聞いたときは、正直驚いたよ。俺の想像の上をいってた」
ほんと、アリスからは目を離せないよ。とレオンはウィンクする。
「ところで、魔王は薔薇をどうしたか知ってる?
「中庭に植えていました。あの、薔薇を取り返すつもりですか?」
「う~ん、まだ、決めてないけど。もし魔王があの薔薇の正当な持ち主なら、中庭とやらにあっても取り返したりはしないよ。俺にとって大切なのは、薔薇自体じゃない」
私は、本当に薔薇にこだわっていないようなレオン様を見て、ちょっと意外だった。
少なくともレオン様も私も力を持った宝石を手にした。
選ばれしものがどういった条件かはわからないが、花びらからまだまだ力を持った宝石を手に入れることは可能だろう。
レオン様にとっては、薔薇の宝石の力が大切なのではなく、花びらが宝石に変わったという事実が重要だったのかもしれない。




