31 レオン視点
ここから先数話、時間が前後したり回想入ったりと、読むのは大変だと思います。
ただ、頑張って書いたので、読んでもらえると嬉しいです。
「アリス!」
延ばした手は空を切った。
その日は朝からアリスは授業を欠席していた。
アリシアに聞くと、昼過ぎには来ると言っていたのだが、午後の授業が始まってもアリスは来なかった。
何となく気になり、午後の最後の授業をさぼることにした。
学校祭の準備で、放課後は忙しく、薔薇園に行く暇はなさそうだったのだ。
薔薇園でアリスはガラスの薔薇の前に座り、考え事をしていたようだった。
「レオン様」
アリスは俺が近づくと声をかける前に気づいていたようで、ちょっと引きつった笑顔を向けた。
歓迎されていないのは分かっているが、もう少し自然に笑ってほしい。
見張りをうまく巻かれていたので、どこへ行っていたか聞いたがやはり、はぐらかされてしまう。
相当警戒されているのかもな。
「ところで、僕があげたリストは役に立った?」
味方であることをアピールしようといったのだが、逆に突っ込まれる。
「どうしてご自分で国王に報告しないのです?」
うーん、痛いところを突くな。
アリスには弱い自分を見透かされているように感じる。
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ここ数年、第一王子の悪行は目に余るようになってきた。
女にだらしなく、金に執着し、酒に溺れた。
それでも、使い込みなどは辛うじてせず、法律ぎりぎりで金もうけをしているようだった。
しかし、最近では一線を越えることもしばしばあり、留学先で、影にいろいろと報告を受けるたびに、何とかしなければと思うのだが、それでも自滅してくれないかと期待し、証拠を集めるだけで、行動は起こさなかった。
アリスに会うまでは―――――――。
情けないが、今はまだ表立って動くには準備不足は否めない。
俺はずっと王位継承権なんていらないと思っていた。
王になっても誰も幸せにできないと知っていたからだ。
この国は伝説の王女を毒殺した時から呪われている。
王女が毒を飲まされた後の記録は、すぐに始まった戦争で失われたとされている。しかし、女系にのみ口伝されてきたと母は言う。
それは何一つ証拠のない、おとぎ話の域を出ていない戯言だった。
俺の母は王妃だ。
伝説の王女が毒殺されてから、長い間この国は女系の王しか長続きしない。若くして亡くなったり、飢饉にみまわれたりと短命に終わる。母も当然王位を継ぐはずだったのだが、体が弱く父が王位を継いだのだ。ちなみに母には兄が二人いるが、どちらも王位を継ぐ前に亡くなっている。
結局王位を継いだ父は体を壊し、長い間お飾りの王をしている。実質身体が弱いとされていた母が、裏で政治を仕切っている状態だ。
母は俺に、王位を継いだら早死にすると、事あるごとに諭された。
そして早くから側妃の子である第一王子を皇太子とすることを希望していた。
それはそれでどうなんだ? と思ったが本人はやる気なので口出しはしていない。
ただし言い伝えには続きがある、『王女を国が愛する限り薔薇は枯れない。薔薇がある限り、魔を遠ざけ繁栄をもたらす。許されたものは、その花びらを宝石に変えるーーーーーーーガラスの薔薇の宝石を手に入れたものは、許されたものとして王位を継ぎこの国を救える』のだそうだ。
実はこの薔薇園を見つけたとき、言い伝えは嘘だったのかとがっかりした。
シールド魔法に隠蔽魔法までかかっているのに、中は普通の薔薇園でここが言い伝えの薔薇園だとは気づかなかったくらいだ。
魔法学院の中というのも、シールドがかかった薔薇園くらいあってもおかしくないかなとも思えた。
しかも、中央にガラスの薔薇を見つけ、あまりのパッとしなさに愕然とした。
入学式の日。
アリスがシールドの中に入ったとき、世界は一変する。
何百年も停滞した空気は浄化され、薔薇は光輝いた。中にいるだけで心が安らいでいく。
漆黒のキラキラした瞳は生命力と魔力で溢れている。
アリスは出て行きたそうだったが、強引にガラスの薔薇に案内する。
予感がしたのだ。
彼女が運命を変えるかもしれない。
アリスはガラスの薔薇を見て、驚いていたが何かを思い出したようだった。
「知ってた? そう、これは伝説の薔薇だよ。枯れたらこの国が滅びるらしい」
彼女がここに表れたのは偶然なのか、それとも王家に口伝されたこと以外に何か知っているのか。
俺は昔からあるおとぎ話の真偽について尋ねてみた。
「この薔薇を見つけたのは偶然だったんだけど、アリスは本当に薔薇が枯れたら、この国は滅びると思う?」
アリスは困ったように、俺を見た。
「私にはわかりません」
嘘をついているようには見えない。
「もっと近づいて、サーチ魔法で見てもらえる?この薔薇園を見つけたほどだから何かわかるかも」
ガラスの薔薇は、ついさっき見たときにはただの透明な薔薇だった。よく見なければそのまま通り過ぎてしまうくらい、存在感がなく。背景に埋もれていた。
しかし、今はガラスの花びらは一枚一枚が虹色にキラキラ光り、周りを照らすくらい輝いている。
これなら、本当に宝石に変わるかも。
いや、この花びら自体が宝石なのか?
「いい匂い」
匂い?
確かに、まったく香ることのなかった薔薇たちが、うっとりするほど甘い匂いをまき散らしている。
「へー。」
アリスは気づいていないようだが、七色の光はアリスの気に同調しているようだった。
期待で思わずアリスににじり寄る。
アリスに何かわかったか聞くと、薔薇自体に時の魔法がかかっていることと、愛する思いが閉じ込めてあった事を教えてくれる。
「そうか。参考になったよ」
どうしたら花びらが宝石になるかわからなかったが、ひとつ確かなのは、宝石に変えられる人間がいるとするなら、それはアリスしかいないということだ。
俺はそっと薔薇に手を伸ばし、一枚花びらをちぎった。
「ちょっと、何を!!」
ビックリして声を上げるアリスに、キラキラ光る花びらを一枚差し出す。
「お礼」
内心ドキドキしたが、表情に出さないように。にっこりとほほ笑んだ。
「そ、そんなことして枯れないんですか? 枯れたら国が滅びるって!」
アリスは本気で、言っているようだった。
あまりにかわいい表情にクスリと笑いが漏れる。
「そんなのただのおとぎ話さ、君も言ったじゃない、薔薇には時の魔法と愛だけって。魔法使いはこれを渡すとき『永遠の愛を君に』と言ったそうだよ」
ちょっと考えて、おずおずと遠慮がちに手を出す姿もかわいい。
「ありがとうございます」
すると、手のひらにのせられた花びらが光を放った。眩しくて瞬きすると、花びらは宝石に変わっていた。
あまりの出来事に、アリスはでそのままの状態で固まっている。
「ダイヤモンドだね。話には聞いてたけど初めて見たよ。本当に宝石に変わるんだ」
この時俺は運命が動き出した気がした。




