21 ヒロインさんを応援できそうにありません
「アリスさん」
声をかけられ振り向くと、そこにはヒロインさんがいた。
「ララ様。これから実行委員会ですか? ご一緒しても?」
私はララ様の横にいる腰巾着をチラリと見て聞いた。
「それが、これから王子様に頼まれて、今話題のケーキを買いにいかなくちゃならないの、申し訳ないけど委員会には一人で出てもらえる?」
首をコテっと傾け、定番の瞳うるうるで、頼まれる。
「ええ、もちろん全然構いませんよ。気をつけて行ってきてください」
私はもう、何で王子が? とか、腰巾着まで行く必要あるのか? とか、なぜいつも委員会の日なのか? とか、沢山ある疑問は口にしなかった。
彼女はヒロインなのだ、邪魔すれば私までシナリオに巻き込まれてしまう。
今度こそ厄介事はきちんとスルーしなくてはならない。
入学してから2週間、私はララ様と学校祭のクラス実行委員になっていたが、彼女が委員会に出たのは、はじめの一度きりだった。
第二王子が出席しないと知ってからは、他を当たることにしたらしく、2週間の間に、ララ様は着実に攻略対象を落としていっているようだ。
本命の第二王子は、リリィ様やマリー様、そしてアリシアと生徒会の手伝いとして召集されている。
だからなのか、何かしら用事を作ってはララ様も生徒会室に出入りしている。
アリシアは最後まで抵抗していたが、入学試験で2位の成績では致し方無い。次期生徒会候補として手伝っている。
実行委員が終わると、私は4階にある、図書室に向かった。数日前から、放課後はここから正面に見える生徒会室、その横の王族のための執務室に出入りしている人間を観察しているのだ。
人の出入りが多くなる今は、第一王子にとっても何かと動きやすいだろう。
王子の所の来客は、ちくいちチェックし、ライトに報告している。
「こんなところで何しているの?」
またもやこんな近くにこられるまで気づけなかった。
「殿下――――――。」
振りかえると、第二王子がヒラヒラと手を振った。
「ここからだと、生徒会室がよく見えるね。あ、まさか覗き?」
クスクスと楽しそうに笑い、私のすぐ横から外を眺める。
「違います。図書室ですから本を読みに来ました」
いいわけとしては苦しいが、早くあっちへ行ってよオーラを出す。
「ふーん、じゃ私も休憩がてら本でも読もうかな」
何でここで!
「あ、ララ様がケーキ買って帰ってきたみたいですよ、頼んでたんですよね」
生徒会室に目をやると、ララ様がもう戻ってきている。
第二王子はララ様の攻略対象なんだから、こっちに近寄ってこないで欲しい。
「僕はケーキは頼んでないよ、僕が頼んだのは、アリスに薔薇園のシールドの強化と、庭師だけど、今日なんてどう?」
「殿下、シールドも隠蔽魔法も完璧に修復しておきました。しばらくは大丈夫です」
「レオンだよ」
「は?」
間抜けにも聞き返す私に第二王子は「レオンでいいから」と爽やかに笑った。
もう、呼び方なんてどうだっていいじゃん!
イラッとしたが、スルーだスルー………と自分に言い聞かせて、ひきつる口許を無理に上げ、笑い返す。
「では、レオン様と。申し訳ありませんが、今は学校祭の準備で忙しく庭師と一緒には行けません。学校祭が終わりましたら、お手伝いさせていただきます」
この際不敬だと言われても構わない。それに学校祭が終わる頃には、この学院ともおさらばだ!
「それは残念だね、学校祭の準備じゃ仕方ない。う―――――ん。だけど、完璧にシールドかけ直すなんて凄い魔力量だよね。私より魔力量多いかも。でも、それっておかしくない?」
レオン様は、人差し指の第二間接を唇の下に添え、少し斜めに首を傾けた。
「おかしくありません」
即答である。
「………………。魔力量の偽装は入学取り消しだよ」
背中に冷たい汗が流れた。
今、退学は不味い。
「わかりました。レオン様、根を詰めるのはよくありませんね。これから参りましょう。庭師の方はどちらです?」
「案内するよ、ついでにお茶しようか」
あなたが行くなら私いらないよね!
ねえ、バカなの?
バカでしょ!
心で悪態つくが、考えが伝わったのか、レオン様は嬉しそうに図書室を後にした。
あーあ、どうしてこうなった?
図書室を出ると、レオン様の従者がいた。凛々しく美しい顔に、背が高く鍛えあげられた身体に、綺麗な藍色の髪をしている。
間違いなくこの人も攻略対象かな。
近づいちゃ駄目な人だな。
私は少し離れて、レオン様達の後ろを歩く。
「何でそんなに離れてるの?」
「レオン様は目立つので」
「確かに、じゃあ、隠蔽魔法かけてくれる?」
何で私が!
自分でやれそれくらい!
「レオン様、ご自身でできますよね」
「もちろん、でも、昔から隠蔽魔法で逃げ回ってたら、みんな耐久できたみたいで、あれって意識して探されると、私みたいな高貴なオーラは隠せないんだよね」
こいつ殴っていいですか従者さん。
私は仕方なく、隠蔽魔法をかけて、薔薇園に向かった。
「ちょっと待って――――――」
レオン様が立ち止まって、指を差す。
中庭の向こうから、ララ様と取り巻き三人がイチャイチャしながらこちらに来る。
「ララ様の天使の様な笑顔と差し入れのおかげで、皆やる気が出て仕事がはかどります。殿下も見とれておりました」
「嫌だわ、天使だなんて。私なんかマリーさんの足元にも及ばないわ」
くねくねしながらララ様は横の青年にしなだれかかる。
「それにしても、レオン様ったらどちらに行かれたのかしら。きっと、リリィさんやアリシアさんに言い寄られてお疲れよね」
なにそれ!
いつ二人が言い寄ったのよ!
だいたいあんたは実行委員でしょ! 何で委員会も出ないのに、生徒会に顔を出している?
私は拳に力を込めた。
こいつシバク!
一歩前に出ようとしたとき、腕を掴まれ、口を塞がれる。
「静かに」
見耳とで囁かれ、ドキンと心臓が跳ねる。
そのまま、ララ様達が目の前を通り過ぎるまで、レオン様は動かなかった。
これって後ろから抱き締められているのと一緒じゃ………
イヤイヤ、抱き締められるとか違うし!
ドキドキするのは、隠蔽魔法がばれないか心配だからだ。
「凄いな。こんな近くなのにばれなかった! 流石だな」
レオン様は私から手を離すと、「こりゃ使えるな」と呟いた。
薔薇園につく頃には、私のドキドキも収まって、冷静になれた。
「庭師の方はいつ来ますか?」
「いるだろ」
王子が従者に視線を移す。
「カイ ダイナス 侯爵家 次男。薔薇を育てるのが趣味だ」
まじまじと、ダイナス様を見る。微かに頬が赤いのは照れているのだろうか。




