18 魔法学院 秘密の花園
森に入ると更に香りは強くなり、それと同時に魔法の気配がする。
「これは―――――――――隠蔽魔法」
しかも、かなり広範囲だ。
目をつぶり、サーチ魔法で隠蔽魔法を分析していく。
薔薇の香りはシールドの中から。そのシールド全体に隠蔽魔法がかけらている。
何処かに出入り口があるはず。
たぶん、その出入り口から僅かに香りが漏れているのかも。
「あった」
ほんのちょっとの好奇心だったのに。我慢できなかった自分が恨めしい。
後悔するとも知らず、私はシールドの中に入った。
そこは想像以上に、薔薇が咲き乱れ、夢のような空間だった。
「綺麗――――――――」
こんなに多くの薔薇が咲いているのを見るのは初めてで、好奇心が止められず、ゆっくりと奥へと進んでいく。
「こんな素敵な薔薇園を隠しているなんて、もったいない。アリシアに見せたら喜ぶだろうな」
フッと、足を止める。
何だろう、この違和感。
もう一度意識を集中しサーチ魔法を試みる。
時の流れがおかしい。
完全に止まってはいないが、通常よりかなりゆっくりだ。
これほど大きな空間にシールドを張り、そこに隠蔽魔法をかけるだけでなく、時の流れも操るなんて、相当上級な魔法使いだ。
もしかしてソルト?
「誰?」
目の前には、金髪碧眼の少年がたっていた。
不振そうにこちらを見つめる瞳は宝石のように輝いている。
サーチ魔法でも、気付かなかった!!
一気に警戒を強め、逃げ道を探すが、入り口から入り過ぎてしまった。
戦うか?
入学式初日に騒ぎを起こしたら、絶対アランに怒られる。
どうしたらいいか思案していると、ゆっくりと美少年が歩いてくる。
どうやら攻撃はしてこないらしい。
「すごいね君、この隠蔽魔法に気付くだけでも珍しいのに、シールドの中に入れるなんて、いったい何者?」
何者? と聞かれると一番困る。
なんだか確信を訪ねられたようで悔しい。
「アリス。新入生のアリスです。ここには偶然、薔薇の匂いを追って来ただけです」
偶然を装うには無理があるが、目の前の人物からは、悪意は感じられない。
彼がソルトなのだろうか?
「私はレオン テオドール イスラ。同じく新入生だ」
にっこり微笑んだ少年はキラキラしていた。髪が金髪だからとか言うのではなく、身体全体からキラキラオーラが出ている。
イスラ。
レオン テオドール イスラ。
「第二王子……………殿下!?」
私はその場で頭を抱え込まなかったのを誉めてほしいくらい愕然とした。
もっと自然に接触するはずだったのに……………。
「アリスか、私と庭師以外にこの庭に入るれる人間を初めて見たよ。今まで魔法は誰に習っていたの?」
「独学です。今回は魔法の基礎からきちんと学ぶため入学しました」
ガリレから習ったことは内緒にした。ガリレはあれでも有名人なのだ。
「ふーん、あらかじめ用意していた答えみたいだね」
鋭い。
「あの、私急いでこれを届けないといけないので失礼します」
私はスクールリボンを見せて、その場を去ろうとした。
「大丈夫だよ、気づいているよね。ここは時間がほぼ止まっているから、急がなくても入学式には間に合うよ。ここには珍しい薔薇があるんだ」
見たいよね。と返事も聞かずに薔薇園の奥に歩いていく。
王子様の誘いを断る選択肢はないようだ。
仕方なくついていくと、そこには見たこともないガラスでできた薔薇が咲いていた。
「凄いですね」
「そうだろ、これは僕の先祖が魔法使いからもらったものらしいよ。もう300年も咲いているそうだ」
「ガラスの薔薇―――――――」
何処かで聞いたような。
「あっ!!」
思わず叫んでしまって口を覆うがもう遅い。
「知ってた? そう、これは伝説の薔薇だよ。枯れたらこの国が滅びるらしい」
口角をちょっと上げ、悪戯っ子のように微笑む。
自分が取り返しのつかない事に足を突っ込んでしまったことに、後悔してももう遅い。
5人目のヒロインに会ったときに、スルーしないでもっとよく考えておくべきだった。
彼女は『ガラスの薔薇と魔法使い』のヒロインだったのだ。
『キラキラ乙女の聖女伝説』の第二ステージで、攻略対象になるはずだったレオンとヒロインだが、あまりのクソゲーと悪評だったため『キラキラ乙女の聖女伝説』は打ち切りとなった。
たぶん、作者は、予定されていた第二ステージを『ガラスの薔薇と魔法使い』と名前を変え、別ゲームとして発売したのだろう。
時間をおいて発売されたため、気付かなかった。
もしかしなくてもヒロインのイベント奪っちゃた?
「この薔薇を見つけたのは偶然だったんだけど、アリスは本当に薔薇が枯れたら、この国は滅びると思う?」
ヒロインでもない私に聞かないで欲しい。
そもそもこんな大事な薔薇を何で私なんかに見せたの?
「私にはわかりません」
だって、このゲームが発売される前に、こっちに落ちちゃったもの。
「もっと近づいて、サーチ魔法で見てもらえる?この薔薇園を見つけたほどだから何かわかるかも」
ゴクン、と息をのみそっと薔薇に近づくと甘い香りがした。
「いい匂い」
「へー。」
何がへーなの? おかしいこと言った?
駄目だ、雑念を払わないと!
私は目をつぶり、薔薇のことをサーチした。
パチっと閉じていた目を開けると、側に第二王子の顔がアップである。
うわぁ!!
一歩後ろに下がると、バランスを崩して転びそうになる。
「おっと危ない。大丈夫?」
私は王子に両手でしっかりと抱き留められてしまう。
近いです!!
と言いたいのに言葉にならない。
「あのあの、あの…………」
美形のアップはやめてほしい。
「落ち着いて、薔薇は大丈夫だよ。それより何かわかった?」
「いいえ、これといって特別なものは、この薔薇自体に時の魔法がかかっていることと、愛する思いが閉じ込めてある事くらいしかわかりませんでした」
「そうか。参考になったよ」
第二王子はそっと私を支えていた手を離すと、薔薇に手を伸ばし、一枚花びらをちぎった。
「ちょっと、何を!!」
ビックリして声を上げる私に、キラキラ光る花びらを一枚差し出す。
「お礼」
「そ、そんなことして枯れないんですか? 枯れたら国が滅びるって!」
くすり―――――。
「そんなのただのおとぎ話さ、君も言ったじゃない、薔薇には時の魔法と愛だけって。魔法使いはこれを渡すとき『永遠の愛を君に』と言ったそうだよ」
確かに言ったけど、今ここでこの花びらをもらうのは、とても重要なイベントを、またヒロインから横取りするような気がする。
でも、すでにちぎられた貴重な花びらを、要らないとは絶対にいえない。
私は覚悟を決めて、それを受け取った。
「ありがとうございます」
すると、手のひらにのせられた花びらが光を放った。眩しくて瞬きすると、花びらは宝石に変わっていた。
勘弁してよ! と思った私は悪くない。
「ダイヤモンドだね。話には聞いてたけど初めて見たよ。本当に宝石に変わるんだ」




