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13 アラン視点 アリスに伝えられないこと

 ドンドンと乱暴にノックされるのと同時にドアが開く。


「まだ、返事してないが」

 ずかずかと部屋に入ってくると、ガリレはまだ部屋の入り口で突っ立っている少年振り返り、手招きした。

 大きな目に整った顔をしている。13にしてはチビだな。


「勇者の光だ。アリスはいるか?」

 少年は「こんにちは」と恥ずかしそうに言って、お辞儀をした。


「残念ですが、今は本を仕入れに行っていますよ。それほど遅くにはならないと思いますが待ちますか?」

 俺はちらりと少年を見た。

 アリスが異世界間転移出来ることは数人しか知らない。


「いや、ギルドに行って冒険者登録でもしてくるかな。しけた顔した奴の顔見てても面白くないしな」

「失礼ですね。冒険者登録するという事は、もうあなたの所で修業は終わりですか?」

 帰りたいなんて泣き言を言っていたので、途中で諦めるかと思ったが、ちゃんと終わるか心配していたのだ。


「お前が出て来るより倍かかったがな。まあ、お前よりずる賢くないし、ひねくれてないし、屈折してないからな」

 ガリレは可笑しそうに言うと、例の趣味の悪いソファーを出して座った。


 なるほど、見た目通り素直な少年のようだな。


「じゃあ、もうこちらでお預かりしてもいいんですね」

 思ったより出来の良い勇者のようなので、何かと使えるだろう。

 これは手元に置いて、こき使うのもいいかもしれないな。


 俺はアリスと同じ漆黒の髪と瞳の少年を見て、どうやって丸め込むか考えた。


「まあ、好きにしろ。そんなことよりお前はここで何をしているんだ?」

 意地の悪い顔をしてガリレが聞いてきた。


「仕事ですよ」

「アリスの部屋でか? 事務所に寄ったが忙しそうだったぞ。いい加減こんな所で女々しく待ってるのはやめて、はっきり必ず戻って来てくれって言ったらどうなんだ」


 それが言えたらどんなに楽か。

 アリスが日本に行くたびに、今度こそ帰って来ないかもしれないと思うと、つい引き止めたくなる。

 それを必死に我慢して、ここで待つしかないのに。

 そんなに簡単に言えれば苦労しない。


「何を勘違いしているのか知りませんが、別にアリスを待っているわけじゃないです」

 俺にはアリスをこの世界に繋ぎとめて置く力もないし。そんなことを言えば、いつかアリスが帰りたいと思った時に、邪魔になってしまう。


 アリスの邪魔にだけはなりたくない。


「ふーん、素直じゃないのも大変だな」

 ぎろり、と睨むとガリレの横に座っていた、少年が目を見開いて驚いている。

 ビビってるな。


「光、こいつには気をつけろ。見た目は綺麗で清廉潔白のような顔をしているがこいつは魔王だ。油断していると骨の髄までしゃぶられて、利用価値がなくなったらポイだ」

 何言ってんだ、こいつは。


「まあ、辛かったら戻ってこい」

 え!?

 今、戻って来いって言ったか?

 へー。

 あの、孤独が好きで。人間嫌いのガリレがね。

 いったいどうしちゃったんだ?


「なるほど、戻って来て欲しいのはあなたですか。珍しい事もあるもんですね」

「別に、助手がいると便利だからな」

 ムッとした顔だったが、言葉には優しさがにじんでいた。


「よし光、ギルドに行くぞ」

 ガリレは立ち上がり、ソファーをしまうと、光を連れて出て行った。




 *****



 ガリレたちが出て行き、しばらくするとアリスが転移して戻って来た。

「おかえりなさい。大丈夫ですか?」

 俺は、ほっとしたのを悟られないように、さりげなくアリスの様子をうかがった。

 日本から帰ると、たいてい落ち込んでいるが最近は昔ほど気持ちが乱れないよで、魔力が安定している。


「うん、全然大丈夫。みんな元気だったよ」

 みんなとはアリスの血のつながった本当の家族だ。

 ズキンと心が痛んだが、俺はアリスの頭をポンポンと軽くたたいた。

 今、いつも側にいるのは俺たちだ。

 うらやむ必要なんかない。


 俺はどんどん暗くなっていく思考を止めて、アリスが持ち帰った本に手を伸ばす。

 いつも思うが、アリスの持ち帰る本は面白い。選ぶセンスがいいのか、わかりやすい。

 もう少し大量に持って来て欲しいのだが、なにぶん日本円を稼ぐ手段がない。

 こちらの宝石など持っていき売ることも考えたが、未成年ではそれも難しい。

 何とか、日本円を稼ぐ方法を考えたいな。



 ガリレは戻ってくると、アリスが持って帰ってきた本を持ちすぐに姿を消してしまう。

 極力この部屋にはアリスが日本から持ち帰ったものは置かないようにしている、もちろん本も最小限だ。

 出所を聞かれたら答えられないからだ。



 その後すぐに、少年が両手いっぱいの食べ物を持って現れる。

 餌付けされてるな。


 アリスの顔を見てほっとしているようだったが、俺を見て顔を引きつらせている。

 そんなに怖い顔をしているだろうか?


 まあ、こんな色の髪、日本じゃ見ることもないだろうしな。

 それに契約書を書かせるまでは、怖がってもらう方が都合がいい。


「では、勇者様、今後の方針を決めるために、こちらに記入を」

 案の定、光は契約書の内容をよく読みもしないでサインした。

 アリスは心配そうに光を見ていたが、あえて注意を促すことはしなかった。


 ちょっと稼がせてもらうが、別に奴隷のように扱うわけじゃない。

 馬車馬のように働いてもらうだけだ。


 こんな無知な少年を野放しにしたら、すぐ転落人生まっしぐらだろうから、俺は良心的だな。


「これで光くんはうちの正式な社員です。社宅がありますから、今日から住めますよ。訓練は明日から始めましょう」

 にっこりと笑うと、光はポーっとしていた。


「社員?」

「そうですよ、怪しいただの小僧から、この道では一目置かれる商会の社員になったのです。よかったですね。感謝しなさい」

 どうやら、俺の口調が変わったのに驚いているのか、前をシバシバさせている。


「ああ、そうそう。たまに親切を仇で返す子がいるんですが、そういう子はたいてい悪い奴に捕まって、死んだ方が楽だという目に遭うらしいですよ」

 釘を刺しておくことも忘れないで言うと、アリスはやれやれという顔をした。


 楽しくなりそうだなと思い、俺は意外にこの勇者が気に入っている事に気づく。

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