11現実 秘密にしておきたいこと
目を開けると自分のベットの上だった。
アランとのお茶のあと、異世界(アンダルシ王国)から、転移魔法で現実(日本)に転移してきたのだ。
おそらくアンダルシ周辺の国でも、異世界間転移魔法を使えるものはいない。
ガリレでさえ使うことはできないのだ。
窓の外は雲が夕日色に染まっている。どちらの世界もこの時間は幻想的で美しい。
机におかれたコーヒーを手にするとじんわり温かい。
久々のコーヒーの匂いを肺いっぱい吸い込み、それから一口飲んだ。
忘れてたけど、アンダルシに行く前、帰ってきたときに直ぐに飲めるように、淹れておいたんだった。
気が利くね、私。
「美味しい。やっぱりコーヒーの栽培方法印刷して持っていこう」
2年ぶりの味は思いのほか心に染み込む。
コーヒーを堪能しながら、ゆっくりと自分の部屋を見渡した。
私の現実がここにある。
異世界で、ありすの時間は止まってしまう。爪も髪も延びず、年もとらない。今のアンダルシにはもう10年いるが姿はほとんど変わらない。
時間が進むのはこちらだけ、本当に生きているのはこちらの世界なのだ。
なのに何故かこちらの世界で生きている実感が持てない。
それが自分の錯覚なのか願望なのか分からない。
最期に異世界に落ち、商会の前で涙したあの日、私は異世界で生きる覚悟をした。もう大切な人たちを失わないために。
その為には出来るだけ、日本で過ごす時間を我慢しなければならなかった。必ず来る転移の時を迎えないために。
「さて、感傷に浸っている暇はないか」
コーヒーを飲み干し、スマホを手に一階に下りる。
「お母さん、ちょっと本屋まで行ってくるから」
声をかけると、母は夕食準備の手を止め、「いってらっしゃい」と微笑んだ。
玄関に向かう足を思わず止め、そっと後ろから抱きしめる。
「どうしたの?」
包丁を持つ手を止め、「危ないよ」と優しく言われる。
「今日のご飯はなに?」
「どうしたの?今日はハンバーグよ」
「そっか、じゃあ急いで行ってくる」
温かい母の背中は離れがたかった。
涙がにじむのを見られないように、急いで出かける。
私は手早く中古本屋で、アランとガリレに頼まれていた本を探す。
本当は新品を買ってあげたいが、こちらではただの高校生だ。ふたりの希望の専門書は古本といっても、なかなかの価格設定だった。
なんとかこちらでの収入を確保したいが、未成年ではやれることは限られている。
それから今回の本命、『キラキラ乙女の聖女伝説』のラノベと攻略本を探す。
「あった!!」
と言うかあり過ぎでしょ。
ラノベは勿論攻略本数種類、イラストブックなど、ファンなら手放したくないものまであった。
さすがクソゲー、ブームが去ったら手放されてしまったのか。
その中から一冊、攻略本を買った。
「ただいま」
「あ、ありすおかえり」
玄関を開けると、何故か弟が腕立て伏せをしていた。
「何で、こんな所で腕立て?」
「今日はハンバーグだから」
「ふーん、」
よく分からないが、あえて突っ込まない。小さいときは、鬱陶しいくらいくっついてきたのに、中学に入ってからは部活と塾で忙しそうでめったに合わない。
今日は会えてよかった。
「姉ちゃん――――――。なんか久しぶりだな」
ドキンとする。
「そうだね、部活楽しい?」
「まあな。姉ちゃんは、最近、元気ないな」
「そう? これでも結構忙しいからかな」
弟から見たら昨日の私と今日の私は同じだ、でも、本当は2年経っている。毎回気を付けているが、小さいときから一番側にいた弟には、違和感があるのかもしれない。
「なんかあったら言え、これでも腕には自信があるからな」
素っ気なく言って、リビングに入って行く。
「生意気!!」
頭を両手でくしゃくしゃにしてやる。
大声で笑う私と、嫌そうにする弟。それをやれやれと眺める父と母。
私は今幸せだ――――――。
ずっとここにいたい。
この人たちと笑っていたい。
この世界で、生きていたい。
でもそれは叶わない。
数年後、私はこの世界から異世界に落ちてしまうのだ。
それは何度やり直しても、魔力を持っても変えられなかった。
朝忙しくて投稿できませんでした。
次話は明日投稿予定です。




