何もしなかった罰(ジョセフィーヌside)
書く程にキャラがおかしな方向に走って行きます。誤字等がございましたら、ご指摘お願いします。
不味い!
何処でもいいから、後妻に入ろう!
早く、この家から逃げなくては……。
あの弟は、サラさんのことが絡むと、とたんに危険な人物になる。
一刻も早く、男爵家から出なくては。
流石に、処分はされないだろう。
そんなことをしたら、サラさんが怖がるから。
でも、何を考えているのか分からないから、怖い……。
最近、退役したばかりの元軍人を多く囲い始めたらしい。
何を始めるつもりか知らないが、関わりたくない。
早く逃げなければ!
──コンコン
「ジョセフィーヌ、体調はどう?」
「お母様……」
「まだ顔色が良くないわねぇ」
「…………」
母を頼りにしてはいたけれど、娘のヴィオラと一緒になって、サラさんに暴言を吐いたと聞いた。使用人達の間で、嫁姑関係の悪化が囁かれている。あり得ない!
ヴィオラは令嬢として大切な物が欠けている。
歪んだ愛情しか知らない私には、我が子に上手く愛情を与えられなかった。夫のフロントも忙しくて、あまりヴィオラと会えなかった。
贅沢な暮らしがしたかったのではない。
普通の、愛し愛される夫婦で良かった。
「以前、ジョセフィーヌが気に入っていると言っていたお菓子とお茶を取り寄せたの。これで少しは気が紛れるかしら?」
「え、えぇ……ありがとう、お母様」
違うの!
子爵家では、夫が私の寂しさを紛らわせるようにと、高価なお菓子や茶葉を取り寄せてくれていたけれど、違うの!
なぜ、裕福でもない男爵家でこんな高価な物を取り寄せてしまったの!
「あとね、ジョセフィーヌが今まで使っていた化粧水が無くなると使用人から聞いたから、化粧品一式をすぐに取り寄せるように手配したわ」
「えっ!?あ、あり……がとう、お母様」
それも無駄遣いよ!
私は、化粧品なんて何でも良いの。普段は忙しかった夫が、私のためにとプレゼントしてくれたものだったから、使っていただけよ。
こだわりなんて無いの……。
ああ、どうしよう……。
私が、はっきり言えばいいのは分かっている。
でも、良かれと思ってやってくれるお母様に、何と言えば良いの?
全て手配が終わってから、言われたり渡されたりするから、止めることも出来ない。
どうしよう……
夫を愛しているから、やっぱり後妻は無理。
もう、修道院へ行きましょう。
ヴィオラも連れて修道院へ入れば、あの弟も見逃してくれるはず……。確信は無いけど、何とかサラさんの同情を買うことが出来れば、サラさんに甘い弟なら見逃してくれる……はず。
「……でね、ヴィオラのドレスを用意するわ」
「えぇ……」
「本当に、ジョセフィーヌは行かないの?」
「え、えぇ……」
何の話をしているのか知らないけれど、私はドレスが必要な場には行かないわ!絶対に、私からサラさんに迷惑が掛かるようなことはしないの。会わなければ、不快にさせることもないはずよ!
***
な、何で……
何でヴィオラは、サラさんとアルト君を不快にさせていることに気づかないの!?
貴女の行動の責任は、私が取ることになるのよ!
何をしたら、スフェーン侯爵家からドレスが届くのよ!
アルト君が側近候補になったことと、貴女とスフェーン侯爵家の嫡男の婚約は結び付かないわよ!
「ねぇ……お母様」
「どうしたの、ジョセフィーヌ?」
「わ……私、修道院へ……「ダメよ!!」
「修道院へなんて、何を言っているの!」
勇気を出して言葉にしたのに、お母様とヴィオラに否定される。
この二人は、アイツの怖さを知らないから、そんな呑気にしていられるのよ!
「ジョセフィーヌ、貴女はまだ心の傷が癒えていないのよ。フロント様のことが整理できるまで、ゆっくりと過ごしなさい」
「嫌よ!もう嫌!早く!早く修道院へ行くの!ヴィオラ、貴女もよ!すぐにでも出ていくわ!」
既に纏めていた荷物を抱え、ヴィオラの腕を引く。
呑気に挨拶をして出ていくなんて出来ない。今すぐに決めなければ、弟が何をするか分からない。
元軍人を囲い込んでいるのは、ヴィオラと私を国境の最前線へ送る予定だからかも知れない。まだ慰みものになるなら生き残る可能性はあるけれど、弟はサラさんを悲しませた者に甘くない。
「だ、誰か来てっ!ジョセフィーヌが落ち着くまで部屋から出さないでちょうだい!」
「お母様、落ち着いて?明日、私がクリスティアン様と仲良くなったら、みんな褒めてくれるわ!」
お母様とヴィオラは、夫を亡くした私が失意の末におかしくなったように言っているけど、違うのよ!
確かに、夫を亡くして絶望してはいるけど、それとこれとは別問題よ!貴女達に危機感が無さすぎるのよ!
「そ、それならば、ヴィオラも部屋から出さないで!」
「ジョセフィーヌは何を言っているの?ヴィオラは、明日、スフェーン侯爵家の方々へ挨拶をさせるわ」
「ダメよ!ヴィオラは私と一緒にいなさい!」
「……くれぐれも、ジョセフィーヌを部屋から出さないようにお願いね。ジョセフィーヌ、ゆっくり休みなさい」
お母様は、優しく私の頬を撫でると、ヴィオラを連れて部屋から出ていった。
そして、この日から私を監視するための使用人の人数が増やされた。
***
──コンコン
「姉上、入るよ」
あぁ、遂に来てしまった。
弟に会わずに逃げる方法を考えていたのに。
いや……既に、サラさんに不快な思いをさせた時点で、逃げられなかったのかも知れない。でも、諦めない!
「姉上。来週から──「わ、私、修道院へ行きます!勿論、ヴィオラも連れて行きます!」
「いえ。姉上とヴィオラには、令嬢としての再教育を行うことに決めました。教師については、噂話を集めることが得意な姉上なら、気付くのでは?」
いやっ……!怖い!
既に、恐怖で声が出ない。
私は必死に首を振った。
「あのぉ、ジョセフィーヌさま?」
「サラさん!?あぁ……」
サラさんの声に、存在に、恐怖から解放された。
大丈夫だ。サラさんがいれば、弟は本性を隠す。
何とか……何とか……
「ひっぐ……ひっぐ……」
私は恐怖から、涙と嗚咽が止まらなくなった。
「ご、ごべん……なざい……」
「えっ……?」
サラさんを何とか味方に付けたい。
「おがあざま……と、ヴィ……オラ、を、とめ、れ……なくて」
サラさんが困惑している。
そうよね……。
使用人達の話す噂では、私は、お母様を味方に贅沢な暮らしをする男爵家のお荷物だものね。
ヴィオラが傲慢な令嬢に育ってしまった責任も取らず、好き勝手させて、迷惑を掛けて……。
今さら何を言っても遅いかも知れないけど、それでも……
「サラさんに、だけ……は、迷惑を掛けない、ように……えぐっ……」
「ジョセフィーヌ様、落ち着いてからで大丈夫ですよ」
「あり……が、どう……えぐっ……」
「姉上」
私の恐怖が口を開く。何を言われるのだろう?
「とりあえず、座りましょうか」
あぁ……弟が、私に優しさを見せるなんて……。
私は、今夜『暗殺』されるのね。
そう思った瞬間、私の意識はフッと消えた──
数話前まで、他人に興味がない自分勝手な女性という設定を考えていたんですが、ジョセフィーヌはヤンデレの弟が怖くて引きこもっていただけの、口数が少なく噂話を集めることが得意な女性になっていました。