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ずっと君を離さない(夫side)

「ただ……


 今回は離縁もありかな?」




薄暗い部屋のベッドの上で、妻が呟いた。


確かに『離縁』と聞こえた。


今朝も出掛ける前の()()()()()をした。

言葉にせずとも、お互いが愛してると確認するための行為だったはずだ。ずっと続けている。


何故、急に離縁なんて言葉が出てくるんだ?

私の出掛けている間に何があった!?



***



原因は、アルトが教えてくれた。


「アルト、父さんのこと分かる?」

「うん、お父様は『父さん』だよね」

「うん。そう……」

「両親の誕生日が同じ日。もうね、父さんの執念を感じてる」


息子に気付かれている。

妻より先に亡くなってしまった年上の私は、妻が亡くなり転生するタイミングを待ち、同じ世界へ転生した。しかも、今回は同級生として学生時代を過ごすために、同じ日に、だ。

まあ、両親が二人揃って異世界からの転生者で、前回と同じ魂が結ばれたのだから、息子の魂も引っ張られて、転生してきたのかな。


「母さんは、自分が転生者だって気づいてる?」

「うん、僕と同じタイミングで気付いたみたい」

「私達のことは?」

「多分、気付いてない」


成る程、だから『今回は』と言ったのか。


まさか、また似たような家庭環境になるとは思わなかった。




良くも悪くも、何もしない姉。

でも、今回の姉は、前世の姉より(タチ)が悪い。


姉ジョセフィーヌは、基本的に屋敷から出ず、娘の世話も教育も人任せ。家庭教師は、上位貴族向けの高額な給金が発生する教師を呼んでいた。更に、夫人唯一の仕事である社交をしておらず、時々訪問する実母に会うだけだった。


姪ヴィオラについては、子供の教育を他人に任せる昔ながらの貴族の習慣も裏目に出た。家族からの愛情を受けること無く育った影響もあるのか、8歳の現時点で、狡賢く、贅沢を好む傲慢な貴族令嬢として完成していた。


家族への愛ゆえに、それを許し続けていたフロント様だが、子爵家の領地経営を手伝っていたフロント様が亡くなれば、姉達は『働かない金食い虫』となる。


追い出した後、必ず実家の男爵家が迎え入れると分かっていれば、邪魔者を追い出そうとするのは当然の流れだ。




「ねぇ、ヴィオラ達を追い出す?」

「いや……」

「でも、金食い虫だよ?」


息子の性格が悪くなっている。

いや、()()()そうなんだろう。親の前では、都合が良いから猫を被っていただけってところか。

まあ、息子の性格がどうであれ、可愛い我が子だ。


「とりあえず様子をみる。が、サラとアルトに危害を加えるようなら排除する。なんなら、新しい男爵家でも興そうか」

()()()決断が早いね」

「うん。今回は、親子・姉弟の情が薄いからね」


問題があるとはいえ、ヴィオラはまだ子供だ。やり直す機会は与えても良いだろう。更生するか否かは別として。

最悪、両親は辺境に、姉ジョセフィーヌと姪ヴィオラは修道院へ送る。そして、全員に最底辺の質素な生活をしてもらう。


「まずは、スフェーン侯爵家のお茶会のことだけど。先日、スフェーン侯爵領を通った時のことを覚えてる?」

「……あぁ、山の森林伐採!あれは大雨が降れば崩れる」

「そう。だから、今後の対策について手紙に認めておいた。アルトが侯爵まで届けられる?」

「大丈夫!」


さて、これでスフェーン侯爵家とは仲良くなれそうだ。



***



「ミリー様専用の春色口紅、完成!」


今日もサラが嬉しそうにしている。

サラは時々、お菓子や手作りコスメ、子供用の玩具を作る。完成した瞬間の満足げな顔は、何度見ても可愛い。あの、どや顔が堪らなく可愛い。


「私、無駄遣いしていないかしら?」


サラに不安そうな顔で尋ねられた。


「うん、大丈夫。サラの欲しいものは、私が全部買ってあげる。他に欲しいものはある?」

「欲しいものは無いわ。無駄遣いしてないのなら良かったわ」


ふふっ、大丈夫だよ。


君が化粧品のプレゼント用に使っている容器。それは密閉性が高く、見る人が見れば気付くような技術が詰まっている。

君のために、私が時間を掛けて技術と職人を育てたんだ。今では、それなりに有名なブランドとして、そこそこの収入になっている。


そうそう、今朝スフェーン侯爵家のルミナス様から、男爵家に珈琲豆とドレス数着が届けられた。遅れて侯爵直々の手紙も届くとのことだったが、まだ手紙は届かない。


サラに、珈琲を一緒に飲むことを提案した。


「ミルクをたっぷり入れてね!」

「やっぱり、カフェオレが好きなんだね」


生まれ変わっても、好きな味は変わらないんだねと、微笑ましい気持ちになった。あ……でも、サラも私も、互いが転生者であると隠しているんだった。


「ところで、サラは珈琲を飲んだことがあったの?」


つい出てしまった自分の言葉は無かったことにして、サラに何処で飲んだのかと聞いてみる。

瞬きを繰り返し、視線をさ迷わせて焦る様子も可愛い。


「ふふっ。どこのお茶会で出されたか思い出せないの?」


涙目のサラが、どう誤魔化すかを考えていたようだったから、何処かのお茶会で飲んだ、ということにしてあげた。


「そ、そう、なんだぁ……ははは……」


誤魔化せたことに安心してるサラも可愛い。






でも、幸せな時間は長く続かなかった。

騒がしい母と姪だ。何やら興奮している。



「侯爵家が、末端貴族でしかない私を気にかけてくださるなんて!私がクリスティアン様の婚約者に選ばれるのも、時間の問題ではなくって!?」


「はははっ!まさか、本気でおっしゃってますか?」


昨夜アルトから聞いた話と、今朝ルミナス様から届いた手紙には、全くそんな事実はなかった。勘違いも此処まで酷いと滑稽だ。


その後は、アルトが手紙を届けてくれたので、昨日のアルトの結果を褒め、ヴィオラはオマケだと説明をした。


明日は侯爵の訪問がある。


ヴィオラが令嬢として問題ないかを試す良い機会だ。屋敷内には祖母と母親がいるが、どうなるかな?姉は、娘を助けるのか、それとも見捨てるのか。結果がどうであれ、姉にとっては最後のチャンスと決めている。


明日も、サラがどんな行動をするのか楽しみだ。

まだ名前も出てきていない夫が、妻への愛が重すぎるのと、黒くてヤバイ感じに……。

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