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お義母様とアベンチュリン

主人公不在、お義母様sideです。

途中、アルトが登場。

夫と共にアベンチュリンへ隠居して1週間。


とても、暇だわ……。


別に、夫と共に行けと言われれば何処へでも行くけれど、此方にはお友達もいないし、お店がなければお買い物も出来ないし、やることが無さすぎるわ。


夫の育てている花を眺めながら、散歩でもしようかしら。


「あら……?」


子供達が花に集まり何かしている。

花を摘んで、がくを外しては、口に含んでいる。


「子供らは何をしているの?」


後ろを歩く護衛の女性へ声を掛ける。

そうそう、一緒に移動してくれた4人の方々のうちの1人は女性だったのよ。怪我をしてしまって、以前のように1人で熊を倒すことが出来なくなってしまったと言っていたけれど、猪くらいなら今でも倒せると言っていたわ。え、十分よね?


「あれは、花の蜜を吸っています」

「なぜ?この辺では子供にお菓子を与えないの?」

「この辺りの大人は忙しすぎて、子供のおやつを用意する時間がありません」

「まぁ!……それならば、私が子供達のおやつを用意するわ!」


子供は大人と違って、多くのエネルギーを必要とするから、少し甘いものを与えて補ってあげる……と、聞いたわ。


「奥様、それは継続出来ますか?一時的な施しで覚えた贅沢は、後々子供らを苦しめますよ」

「…………」


そう……よね。

私が良かれと思ってやったことが、娘達──ジョセフィーヌとサラさんを苦しめてしまったのよね。

一番可哀想だと思ったヴィオラを甘やかすことに必死になりすぎて、エリオットに言われるまで気付かなかったのだもの。


深く考えず行動して、迷惑を掛けてはいけないわ。

どうすれば良いのか、自分で考えなくては!


「こちらには、教会のようなものはあるのかしら?」


ブラッドストーン男爵領の教会では、何人かの孤児を育てていた。孤児でなくても、貧しい家の子達に教育や食事を提供していた。

男爵家からの寄付で運営され、私も時々様子を見に行っていた。


「ありません。必要があれば、近くの教会へ通うか、神父様に頼んで足を運んでもらっています」

「まぁ……」


では、子供達を預かるための建物が無いのね。


「孤児……のような子供は?」

「いません。病気などで親がいなくなっても、親戚や近隣の住民が子供を引き取ります」


良かった……。路頭に迷って亡くなっていく子供はいないのね。


「でも、貧しくはあります」


教育と食事を提供できる場があれば、私のできる限りのものを与えるのだけど……でも……


「教育……字の読み書きや算術なら教えてもいいのかしら?」

「そうですね……」

「では、私がアベンチュリンの子供達に、読み書きと算術を教えるわ!」


屋敷に戻ると、すぐに必要なものを紙に書き出した。

男爵家を出るときに、息子のエリオットから、必要なものがあれば手紙を送るように言われていた。






待つこと2週間。

ブラッドストーン男爵領から、教材一式が届いた。

黒板にチョーク、紙にインク。

加工途中の木材。木材……?


そして、孫のアルト。


「あら、アルト!」


何故幼いアルト一人がアベンチュリンまで来たのか、多少の疑問はあったが、久々に会えたので嬉しいわ。


お祖母様(おばあさま)、お元気でしたか?」

「ええ、アルトも変わりはない?」

「はい」


久々に会うアルトは、今までにないくらいにニコニコしていた。


「少し休んでから、荷解きをなさい。あと、夕食は一緒に食べましょうね」

「そうですね!アベンチュリンでの夕食を楽しみにしていたんです!」


あらあら。殿下の側近候補になったというのに、やはり子供なのね。まだ六歳ですもの。子供らしい反応で良かったわ。


幼いアルトは三人の従者を連れて来ていたので、大きな荷物は任せるのかと思っていたら、一緒になって運び始めた。


「坊っちゃん、この一番大きいのは任せてくだせぇ!坊っちゃんは、あっちのを運んでくだせぇ!」

「わかったよ!」

「坊っちゃん、これは直ぐに組み立てますか?」

「いや、教室になる部屋で組み立てよう。とりあえず、屋敷の入り口にでも並べておいて!」

「了解です!」


大きな体をした男性達が、幼いアルトの指示でテキパキと動く。アルトも指示をしながら、荷物を運んでいく。


「あ……アルト?到着したばかりで、休まなくてもいいの?」

「ええ、お祖母様。普段の訓練に比べたら楽なので、休まなくても大丈夫です!むしろ、もっと動かないと体が鈍ってしまいます」

「そ、そう……」

「お祖母様、どの部屋を教室にする予定ですか?」


ほんの少し、三週間程、見なかっただけで、アルトは変わっていた。気軽に会えなくなってしまった孫の変化に、今さらながらに切なくなった。


「こちらの部屋よ」


これも自分の行動が招いた結果だもの。自分が他人へ与えられる物を、全力で与えていきましょう。その第一歩を孫が手伝ってくれる。孫の成長を喜ばなければ。


アベンチュリンの子供達と勉強をする予定の部屋へ、アルトを案内した。


「ありがとうございます、お祖母様。持ってきた荷物は、運び込んでおきますね」


そう言って、アルトは従者と四人で、教材や木材を運び込んでくれた。木材は部屋の中で組み立てていくらしいのだけれど、机や椅子になるのだろうかしら?アルトも慣れたように手際よく組み立てていく。


「あれ?坊っちゃん、組み立て方を知ってたんですかい?」

「ん?まぁね」

「坊っちゃんは、何でも知ってますねぇ」


一緒に来た従者も、アルトが組み立てる様子を見て、驚いている様子だった。しばらく見ていると、あっという間に机と椅子が完成した。大きめの黒板を一つ、机の正面の壁に設置し、机に乗るサイズの黒板は机の上に並べていく。


「お祖母様、完成しましたよ!」


アルトが無邪気に笑う。

父親を失ったばかりのヴィオラが可哀想でからと優先し、あまり不満を口にしないアルトを蔑ろにした自覚はある。


「ありがとう、アルト」

「どういたしまして!」

「まだ、夕食まで時間があるわ。少し休まなくてもいいの?」

「大丈夫です。お祖父様にも会ってきます!」






アルトは夕食前に、夫と一緒に屋敷へ戻ってきた。


「アベンチュリンでの夕食、楽しみだなぁ!」

「あぁ、アベンチュリンの郷土料理は美味しいんだよ。楽しみにしているといい」


二人は用意されていた席に着いた。そして、私達は無事に一日が終わったことに感謝する言葉を口にする。

そして、夫とアルトが食事を口に入れた時、私は、アルトの期待に満ちた表情が、落胆の表情に変わる瞬間を見た。

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