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筋肉ダンス①(ヴィオラside)

注)好き嫌いが分かれる内容かもしれません。

個人的には、暗い気持ちを吹き飛ばしたくて好意的な意味で書いていますが、書き方を不快に思われる方は、早めに画面を閉じてください。

※ヴィオラside終了後、サラ視点で簡単にまとめます。

な、何なのよ!


お祖母様がアベンチュリンへ発ってから4日。

私の生活は一転していた。




まずは朝。起きる時間が早くなった。

日の出前に起こされ、令嬢が普段着るようなドレスではなく、男の子が着るような服を着るように指示される。勿論、靴だって可愛いものではなく、可愛げのないショートブーツだ。


そして、水を飲むように渡され、外へ出される。一応は令嬢ということもあり、日焼けしないように、帽子とタオルを渡される。

初日にこの姿を見たアルトは『夏場の虫取少年かよ!』と、私を指差して笑った。この時は、まだ何をさせられるのかも分からなかったし、自分の服装にも、バカにされていることにも、腹が立ったので、私もキーキーと喚いた。


しかし、日が経つにつれて、私達は互いに何も言わなくなった。




「おい、ヴィオラ!ペースが落ちてきているぞ!」


──はっ、はっ、はっ、はっ、はっ


「アルト、休むな!早く次の訓練に移れ!」


──はっ、はっ、はっ、はっ


「ヴィオラ、下を見るな!前を向け!」


──はっ、はっ、はっ


「残りは、全力で走れ!」


──はっ、はっ


「ヴィオラ、座り込むな!歩いて、あと一周してこい」




な、何なのよ!

何で毎朝、顔に傷のある大剣を担いだ男に追いかけられなきゃいけないのよ!平民の癖に、私を呼び捨てにして!


「ヴィオラ殿、取り敢えず体を解そう」

「え、えぇ……」


そして、走り終わった後に声を掛けてくる女。

初日にマッサージでもしてくれるのかと思っていたら、痛い目を見た。物理的に、だ。


「しっかり、柔軟体操をするんだ。明日も走るんだからな」


流石に、初日に怒鳴った。が、この女は鼻を鳴らして、バカにしたような視線を寄越しただけだった。私が何もしないでいると、また大剣を担いだ男がやって来た。そして、大剣を地面に突き刺し、私を睨んだ。こ、怖い……


何なの!何なの!何なのよ!


最初は、私をバカにしていたアルトも、朝の強制訓練が終わる頃にはボロボロになり、何も言わなくなった。


私を一瞥し、自室へ戻っていく。

私達は何も話さない。早く部屋に戻りたい。


こんな筋肉の塊()が、汗を流し、鬼気迫る顔で訓練をする空間()には、一秒でも長く居たくない。


『うおおおぉぉぉぉぉっ!』

『ぐるわぁぁぁあ!』

『そぉらぁっ!』


初日に数えたら、十人もいた。女性が三人混ざっている。


叔父様は、こんな野蛮人達を集めて、何を始めるつもり?

サラ叔母様とお母様も協力しているようだ。


とにかく、早く部屋に戻って着替えましょう!




やっと……日常に戻れる、と思っていたが、数日前から自由な朝食をとることも出来なくなっている。


着替えた後は部屋から出て、叔父様達家族やお母様と、食堂で朝食をとる。そして、好き嫌いなく食べるように言われる。

食後にお茶を飲むのだが、何故かお母様だけ出されるタイミングが遅い。注がれるお茶の色は、私達が飲んでいるものより少し薄い気がする。


「あぁ、姉上。お気づきかと思いますが、姉上のお茶も我々と同じ茶葉にしました。ただし……」

「分かっているわ」


お母様と叔父様の間に何があったのだろう?


朝食の後は、令嬢教育の時間だ。

貴族の令嬢として恥ずかしくないように、この国の歴史やマナー、ダンスを学ぶ。しかし、この時間も変わってしまった。




「では、今日も始めましょうか」


サラ叔母様の言葉で姿勢を正す。アルトも一緒だ。

お祖母様が居なくなってから、この屋敷は変わった。

変わってしまったのだ。


私が以前からお世話になっていた家庭教師の先生達は解雇された。

代わりに、お母様とサラ叔母様が、令嬢として必要なことを教えてくれるようになった。お母様が部屋から出るようになり、一緒に過ごせるようになったことは、素直に嬉しい。


でも、この状況は予想していなかった。


「サラ殿、ここはどう計算する?」

「サラさん、問題の意味が分からない」

「ジョセフィーヌ殿。これは、全財産を渡すということか?」

「サラ殿。これは、結婚式の資金として全財産を渡す、で問題ないのではないか?」


教育を受ける部屋は広い部屋に変わった。

そして、共に学ぶ人間が増えた。()()()だ。


アルトは黙々と本を読み、時々ノートへ何かを写している。


私は今、何を学んでいるのだろう……。

頭の中は筋肉で一杯だ。目を閉じると、大剣を抱えた筋肉しか思い浮かばない。筋肉が太い血管を浮かべ、ピクピクと脈打っている。


──はっ!

いけない。私は貴族令嬢。

立派な淑女になるのよ!




終わった……。

筋肉達と過ごす、ちょっと汗臭い時間が。


私は、やっとの思いで食堂へ向かう。


午後は、食後の運動として、軽くダンスをすることになっている。だから、昼食は軽めのものだ。


少しの休憩が終わると、また筋肉タイムだ。

まぁ……ダンスの時間までに水浴びをしているのか、汗臭さのない筋肉達だ。時々、いい匂いのする筋肉もいる。


いやいや!筋肉にうっとりなんてしていない!

私は、亡くなったお父様のように、ほっそりとした優しげな男性が良いのだ。筋肉モリモリの、力強い男性に惹かれてなんか……ないんだから!




「いっち、にっ、さん、し──」

──はっ、はっ、はっ、はっ


サラ叔母様が、ダンスのステップを踏むためのカウントをする。それに合わせて、ダンスの相手のいない筋肉達が腕立て伏せ、またはスクワットをする。

しかし、目線はダンスを練習するグループだ。


「ダンスの動きをしっかり覚えろ!そして、体に刻め!」

『オッス!』


「いっち、にっ、さん、し──」

──はっ、はっ、はっ、はっ


女性の割合が少ないので、私は踊り続けている。

共に、ダンスの相手をしているお母様から注意を受けた。


「ヴィオラ。筋肉ではなく、ダンスの相手を見て!」


お母様の口から、筋肉という単語を聞く日が来るなんて……。


「皆様、ダンスのステップを踏むときに、武術の型のように素早く動かないでくださいね。優雅さがなくなりますよ!」


初日は遠慮気味だったサラ叔母様も、既に遠慮がない。


サラ叔母様がダンスの相手をすることについては、叔父様が許さなかったので、現在、叔母様は指導のみだ。初日は、見本として叔父様と叔母様が、筋肉達の前で踊ってみせた。


『サラに触れていいのは私だけだ。ダンスの練習でも、サラには踊らせない。女性パートは、姉上とヴィオラが中心に踊りなさい。筋肉ども、理解したか?』

『オッス!』


叔父様は、目の前の筋肉達を牽制して去っていった。

叔父様の口から、()()()()という単語を聞く日が来るとは思わなかった。あの時は、アルトも口が半開きのまま茫然としていたので、珍しい光景だったのだろう。


そして──


私は、次々と筋肉を相手にダンスを踊っている。


何でも、この筋肉達を将来、護衛もダンスも出来る家庭教師に仕立て上げるつもりなんだそうだ。

……無理だろう。この人達に、子供を教える役は。


私を実験台にするのも、やめて欲しい。

私はムキムキの男が嫌いなのだ。筋肉なんて……


「健康的だよね」

「え……」

「適度に筋肉がついている人は、健康的に見えるよね。っていうか、この人達を見ていると、健康の具現みたい。話を聞いたら、風邪を引くことも殆どないみたい」


途中、パートナーになったアルトに話し掛けられた。


そっか……筋肉は健康の具現なのか……






健康……

長くなったので一度切ります。

続きは、明日更新予定です。

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