ブクマ0でも分かる!アニメ化作家の倒し方!
俺は新米ネット小説作家、右小説海太郎だ!
読者のみんな、(ブックマークを)よろしくな!
俺っちの名前、なんだかイデオロギーのかかった小説書くみたいだけど、そんなことないぜ。
老若男女、万国の諸国民が楽しめる小説を書くんだぜ!
俺っちが目指すのは、誰も傷つかない、楽しい、楽しい、わくわくライトノベルさ!
俺っちは先日、始めてネット小説サイトに投稿してみたんだ。
これまた、簡単に、世界の人たちに俺っちの作品を紹介できるわけ。
なんて、楽しいんだ!
たとえ、同じクラスの友達に、けちょんけちょんに言われた作品でも、タデ食う虫も好き好き、ブックマークしてくれる人もいるんだ!
俺っちの、初投稿記念日はそんな興奮とともにあったんだ。
でも、ネット小説サイトに初投稿した日、俺っちに不思議なことが起こった。
俺っちは、初投稿でブックマーク0、評価0でも、なんちゃらぴー。
世界に、俺っちの証を残してやった。死後評価しても遅いんだぞ、なぁんて悔し涙を浮かべながら眠りに入ったんだ。
それは15回目のレム睡眠の時だった。
「ら〜の〜べぇ〜」
いきなり俺っちの部屋に、ラノベの文庫本を投げ込んでくるやつがいたんだ。
窓ガラスも割れて、翌朝、ママンにさんざ怒られたよ。
俺っちは、その文庫本を手に取ると、それはライトノベル妖精界への招待状だったんだ!
俺っちが、文庫本を開くと、不思議なドブネズミが現れた。
「ぽぴー、妾はラノベ妖精、ネズミー8世だにゃん。あなたは、ライトノベル妖精界に選ばれたのにゃん」
この害獣、天敵のアイデンティティに堂々と不法侵入しとる。
そんなふてぶてしい害獣は、俺っちに説明を続ける。
「ライトノベル妖精界は、ブックマークもろくにもらえない、貧弱ラノベ作家たちの楽園だにゃん!ここでは、みんなポイントを食べて暮らし、ブックマークを抱いて眠るにゃん!」
そんな楽園に俺っちは、選ばれたらしい。
これは行くっきゃない。
着いたぜ、ライトノベル妖精界。
でも、なんだか様子がおかしい。みんな、殺伐として、ブックマークを奪い合っている。
「海太郎!大変だにゃん!突然、ある貧弱ラノベ作家の作品が大当たりして、みんなのポイントとブックマークを吸い取ってしまったにゃん!」
なんだって!?
そんな!平和なこのライトノベル妖精界を、めちゃくちゃにしてしまうなんて、許せない!
そんな悪い奴は、俺っちが倒してやるんだ!
「ここが、日刊ランキング1位城か……」
俺っちが向かったのは、ライトノベル妖精界をめちゃくちゃにしている、悪の魔王の居城だ。
だが、ラノベ力ゼロの俺っちには、その迫力に近づくことすらできない。
「うおおおおお!なんて、強い瞬間風速だぜ!」
「海太郎!この風に乗るにゃん!それとなく似た雰囲気の作品を書くにゃん」
「うおおおおお!<勇者パーティーを追放された俺は、魔王城手前セーブポイントの温水洗浄便座に生まれ変わって、勇者の肛門を破壊するのを狙ってます>を投稿するぜ」
俺っちが、慌ててタイトル詐欺の短編を書くと、勘違いしたブックマークの魂が、俺っちを運んでくれる。
「風に運ばれて、なんとか魔王城には侵入できたか」
「ふん、海太郎。貴様の命は、ここで尽きる」
城内に侵入した俺っちの前に一人の男が、立ち塞がる。
けれど、この男からは、ラノベ力を感じない。ただの読者か?
「気をつけるにゃん、海太郎。あれは、ブックマーク外山!!大量の複垢を持ち、新米投稿者のブックマークをつけたり、外したりすることで有名にゃ!」
「なっ、なんて外道だ……」
「くくっ、今更気付いても、もう遅い。貴様の作品のブックマークを外したりつけたりしてやるぜえええええ!!!貴様は、ブックマークの変動に一喜一憂して、執筆作業に集中できなあぃ!」
「ぐあああああ!!!」
このままでは、俺っちの、集中力とモチベーションが爆散してしまう!
「海太郎、しっかりするにゃ!」
「けけっ、仕上げだぁ、うひぃ!最後にブックマークを全部抜いてやる!ほら、外してやったぜええええ!!!」
「ぐああああああああああ!!!!!」
俺っちの全身から、血の涙が吹き出す。
「ふふっ……へっ?なぜ、貴様、いまだに俺の攻撃を食らって、立っていやがる!」
「あんた、俺っちがブックマークだけに頼っていると思ったかい?」
「まっ、まさか!?」
「そう、そのまさかだあああ。俺っちは、PV数も見てるんだよお!」
「ばっ、バカなっ?それでは俺のした、貴様の小説にアクセスするという行為は……」
「俺っちを応援しただけだったな」
「ぐばあああああ!!!!!!」
ブックマーク外山は、全身から血を吹き出し、吹き飛んだ。
「ネズミー8世!このまま城を登っていくぞ!魔王を倒すんだ!」
「了解にゃん!平和な妖精界を取り戻すにゃん!」
俺っちが、階段を上がるとそこには、一人の女性が待ち構えていた。
「ふふっ、ブックマーク外山を倒したくらいでいい気にならないことね。彼は所詮、ブックマークをつけたり外したりしかできない男。私は違う」
「海太郎!相手は同じ投稿者だにゃん!作品をぶつけてやるにゃん」
「やっぱり、勝負はそうこなくっちゃな!くらえ、俺の<勇者パーティーを追放された俺は、魔王城手前セーブポイントの温水洗浄便座に生まれ変わって、勇者の肛門を破壊するのを狙ってます>を!」
だが、俺の投じた作品は、あっさり押し返され、PVをゼロにされてしまう。
「ふん、はやりに乗って少しウケた作品で、私に勝とうなど100年はやいわよ。私は、未完のアリス!私の代表作<ゴリラに恋した悪役令嬢>は、ブックマーク4桁、瞬間最大風速日刊ランキング89位よ」
アリスの体からラノベ力が滲み出てきた。
「なんというラノベ力、現時点での俺っちのブックマークは1桁、単純計算で、数百倍、いや数千倍のラノベ力!」
「見栄を張るのはやめるにゃん、海太郎!君のブックマークは1桁というよりも、1にゃん。それも友達がお情けでくれたっ」
「害獣ぅぅ、それを言うなああ!ぐばああああああああ!!!!!!!」
俺っちの、体が裂けていく。
未完のアリスの圧倒的なラノベ力を前に、俺っちに勝つ方法はないのか?
考えろ、考えるんだ俺っち!
どんな作家にだって、弱点はあるはず。
見えた!一筋の光がっ!
「未完のアリス、お前の作品は完結したことがないが、俺は完結させたことがある!」
「なっ、なぜそれを知っている!」
「お前の代表作、<ゴリラに恋した悪役令嬢>も書きづらい場面で、数ヶ月更新が止まっている」
「くっ、なんのこれしき。私が、その程度の文句でやられると思って?」
「そして、お前は新連載<魚雷ですけど、地雷に恋するのはダメですか?>を始めてしまった。それにもう一度言うぞ、俺っちは、作品を完結させたことがある!」
「きゃあああああ!!!!!!私のPVが、私のブックマークが、みんな溶けていく、みんな、完結しないからって、読んでくれなくなっている!」
俺っちの、指摘したのは未完のアリスにとっては、即死呪文だったようだ。
彼女はあっという間に、溶けて、泡になってしまった。
「ふっははは、おもしろい。俺の腹心である未完のアリスを倒してしまうとはな」
俺っちの戦いをどこからか見ていたのか、拍手をしながら、一人の男が現れる。
離れていても、感じるラノベ力。
間違いない、こいつが魔王だ。
「吾輩のブックマークは、5桁だ。その上、作品を完結させたことがある!」
「ぶべえええええええええ!!!!」
俺っちは、きりもみ回転しながら、壁に叩きつけられる。なんてラノベ力だ。今回ばかりは、俺っちも勝てないかもしれない。
「その上、お手製のイラストまで挿入している。ふふ……完璧だろう?」
魔王は、ささっとイラストを描いて見せる。
普通に上手だ。
だがっ、これならば、まだ俺っちにも勝機が!
「俺っちの知り合いは、プロのイラストレーターだ!」
「なんだとぉ!!!!!」
「俺っちは、イラストレーターの知り合いに、イラストを依頼してみるぜ!」
俺っちは、携帯を取り出し、電話をかける。
「無茶は、やめるんだにゃん、海太郎!知り合いといっても、友達の友達くらいの距離感で、そのうえ、イベントで一度会話しただけだにゃん!イラストの依頼なんて、引き受けてくれるわけが……」
「やってみなきゃ、分からんぜ、ネズミー8世。『あっ、もしもし?右小説です?えっ、知らない。やだなあ、以前イベントでお会いしたじゃないですか。覚えてない?ともかくちょっと、イラストのお仕事をお願いしたいんですけど、1カット20万でどうです?……あっ、ありがとうございます』」
俺っちは、電話を切ると、魔王へ向き直る。
「というわけだ。俺っちの小説には、これで神絵師のイラストがついた。これが何を意味するかは、分かるな?」
神絵師のSNSが更新される。
某神絵師@sugokuyumei
この度、右小説海太郎さんの小説にイラストを描かせていただきました。
イラストは、リンク先の右小説さんの作中に挿入してあります。
「神絵師のファンが流入し、貴様のラノベ力が上昇している!?」
「魔王、確かにお前のイラストは上手だ。けれども、普通に上手いレベル。それに対して、俺っちの小説には、神絵師のイラストが挿入されている!!!!!」
「ぐぎゃああああああ!!!!!だが、まだ作品全体としての質は、吾輩の方が……」
「俺は、貯金を全部降ろして、各エピソードに要約漫画を描いてもらった!実質、原作俺っち、作画神絵師の漫画と化している!」
「うぎゃあああああ!!!!!」
魔王は壁にジェットで壁にめり込み、全身から血を吹き出して、最後には壁を突き抜けてどこかに飛んで行った。
「やっと、ライトノベル妖精界に平和が訪れたのか……?」
「まだにゃっ!海太郎!まだ、商業主義の匂いがするにゃ!」
すると、ものすごく魔王っぽい、なんかトゲトゲした肩パッドをつけて、ティラノサウルスの尻尾みたいなマントを纏った邪悪な男が現れる。
「余は、邪神エイゾッカー。魔王の執筆にアドバイスしていた者である。所詮、奴は余の指示に従っていたに過ぎぬ。絵師のイラストが挿入された程度で、やられるとは、魔王も所詮、その程度の物書きだったということよ」
「俺っちの作品のイラストは、そんじょそこらとは違うぜ!全財産をはたいたんだ。絵師は絵師でも、神絵師だああああ!くらえええええ」
「ふんっ、効かぬ。なぜなら、余の作品は、神絵師のイラストで書籍化されているからな。ボイスドラマにもなったし、来期にはアニメ化も予定されている」
「逃げるにゃん、海太郎!こいつは無敵にゃ!神と言われる書籍化作家すら瞬殺するという、ラノベ作家の頂点に位置する、アニメ化作家にゃん!」
ネズミー8世が、俺っちのことを本気で心配してくれる。
最初は、薄汚い害獣だと思ったが、意外といい奴じゃねえか。
俺っちは、ネズミー8世のもふもふをなでる。思ったよりも、触り心地は悪かった。たわしみたいだ。触るんじゃなかった。やっぱり、害獣は害獣だ。
「ネズミー8世、心配するな。俺っちは、最強無敵のラノベ作家だろ?おい、邪神!お前は、筋トレをしているか?」
「いや、余はインドア派の運動嫌いだからな。筋トレなどはしていない」
「俺っちは、小説を書く前と、寝る前に腕立てをしている!」
「それがどうしたというのだ!」
「こういうわけだああああああ!!!!!くらえ、俺っちの右ストレート!!!!」
「ぐぎゃああああああああああ」
邪神は、俺っちのパンチに耐えきれず、爆散した。
「アニメ化作家といえど、物理攻撃には無力!つまり、ライトノベルを極めるには、筋トレがものを言うんだな」
「すごい発見だにゃん、海太郎!これで、ライトノベル妖精界に平和が戻ったににゃん!」
ありがとう、右小説海太郎!
君のおかげで、ライトノベル妖精界に平和が取り戻された。
再びライトノベル妖精界では、ラノベ作家たちが、ポイントと踊り、ブックマークと歌う、桃源郷が続いていくだろう。
みんなも、肉体を鍛えて、世界最強のラノベ作家になろう!