8 それ猫の餌ですけど……
「食べ物美味しかった」
「メロンパンな…… まぁそりゃ良かったって事にしといて頭ボサボサだけどどうした?」
「ボサボサ?」
エレナは両手で頭を触っていた。 こんなエレナは初めてだ。 いつも綺麗な出で立ちだっただけに。
「あ…… 動物さん」
エレナが俺の後ろを見て少し嬉しそうに呟いた。 なんか表情の変化が少ないからそんな所にもドキッとする。 って乙女か俺は!
と虚しい1人ツッコミを心の中で演じてた俺は、動物ってなんだよ? と思い振り返ると猫だった。 動物は動物だけど猫だよな? そこは。
「こっち、こっち!」
エレナは手を出して指を擦ると猫が近付いていく。 今までほぼ見てただけなのに今日は触りに行こうとするんだな。
そぉいやキャットフードも買ってきてたんだった、ちょうどいいや。 袋から取り出しエレナに気を取られていた猫の隣にそっと置いた。
その瞬間猫は離れる。 少し離れた所で止まり警戒しながらキャットフードを見ていた。
「それ……」
「これも食べ物」
「食べ物……」
なんとエレナはキャットフードをひと摘みして自分の口に入れた。
え!? どう見てもこの流れは猫の餌だろう……
「美味しい」
「エレナ…… それ猫の餌だ」
「猫? 動物さん?」
エレナが食べて警戒心が解けたのか猫はこちらに近付いて来た。 そして餌を食べ始める。
「美味しい食べ物、いいなぁ」
エレナは猫が食べている隙間から指を入れもうひと摘みキャットフードを取ろうとすると猫にパンチをされた。
「酷い」
「食っても大丈夫かもしれないけど一応人間の食べ物食べた方がいいぞ? メロンパンひとつじゃ足りなかったか? だったらもう少し何か買ってこようか?」
「食べ物。 くれるの?」
「ああ。 だからここで少し待ってろ」
「少し待ってろ」
「…………」
エレナは少し待ってろをリピートした。 本当にわかってんだろな? 今接してみてエレナがつくづく何者なのかわかんなくなってきた。
「猫と遊んでろな」
「動物さん、名前猫、猫さん美味しそう」
正確にはキャットフードが美味しそうと言いたいようだ。
餌を食べてる猫をジーッと見つめるエレナを尻目にもう少し何か買ってくる為に再度コンビニへと向かう。
あの調子じゃ好みとか聞いてもわからないしなんか適当なものでも美味しいって言ってくれそうだ。 なら選ぶのは簡単だ。
コンビニへ着くとスナック類を数点入れる、全部自分好みのチョイスだ。
エレナは少し…… いや、相当おかしな奴だったけどやっぱ放って置けないよな。 おかしな奴とわかっても嫌いになるどころかもっとエレナの事を知りたいって思ってるわけだし。
レジに向かおうとすると声を掛けられた。
「直也さんじゃないっすか!」
「え? 誰お前」
「ほら、1年の時に直也さんにボコられた…… 覚えてないっすか?」
「いや、タメなら普通に喋れよ? 前から同い年にさんとか敬語使われると恥ずかしいんだわ、周りの目とか寒いし」
ダメだ、こいつ思い出せねぇわ。 クラスも違うんだろうな。
「いやいや、恐れ多いっす! 直也さん怒らせると怖いっすから」
「そんな怒らせるような事お前したっけ? よく覚えてねーわ」
「ははは…… ところでそんなに買って打ち上げでもするんすか?」
「あ? まぁそんなとこだ。 じゃあな」
エレナが待っているので無駄話は極力避け会計を済ませる。
ところがコンビニを出るとそこには公園で待っていたはずのエレナの姿が……
「なんでここに?」
「直也、いつもどこ行く?」
「ん? それでついてきたのか?」
「? うん」
よくわからないけど…… 俺の行く所が気になってついてきたって事か? まぁいいか…… と思っているとコンビニの袋を見たエレナは俺の腕を掴んだ。
ま、またいきなり触った!? 今度はなんだ!
だが今度はこの前みたいに乱暴に振り払わないようにジッと我慢する。 気になるエレナの手が俺の腕を掴んでいる事に心臓が高鳴る。
「ど、どうした?」
「食べ物?」
「ん? あ、ああそうだ。 戻って食べよう」
「食べる」
エレナはまたお腹が鳴り俺の腕を引っ張り足早に公園に戻る。 俺はそんなエレナの後ろ姿を見て真っ赤になっていたと思う。