6 好きな子には優しく
昼休み、昨日は意中の女の子をゲットしてご機嫌な羅衣が俺の所へやって来た。
「よぉ直也、昨日はマジサンキューな! 今日昼飯奢ってやるから売店行こうぜ? つってもお前最初から売店だろうけどよ」
「まぁ、良かったよなお前は」
「んん? なんだその変な反応。 嫌味ひとつくらい飛んでくると思ったのに」
「ん、ああ。 マジで昨日は疲れたわ」
「今日お前変だな? さては俺が羨ましいか? だったらお前も誰かと付き合えよ」
羅衣はニヤリと笑い俺をおちょくってきたので軽く頭をポカッと殴る。
「でもまぁまずは女に触られても平気にならないとな!」
「余計なお世話だ…… ていうかさ、もし手握られたりして乱暴に振り払ったらショック受けるか?」
「なんだよ急に? …… んー、まぁそりゃ酷いよな」
「やっぱりか」
「なんかあったのかよ? まぁお前と想定すりゃそんな事されても直也だしなって思うんじゃねぇな? お前に寄ってくる女子は寧ろ喜んでんじゃん?」
確かにそういう奴もいるけどそれは俺ってそういう奴だってもう知ってるからだろ?
「じゃあ赤の他人にやったら?」
「そりゃただの酷い奴だなって思うだけだろ」
「だよなぁ」
「マジでなんかあったのかよ?」
「うーん、ちょっとな」
売店に着き羅衣は好きなの選べよと言ったのでラーメンを注文する。
「じゃあ俺もラーメンにするわ」
羅衣も同じく注文しテーブルに座ろうとしたが全部埋まっていた。 そこでちょうど良く昔絡んで来た奴らが座っていたのでひと睨みするとそそくさと逃げて行った。
「おい、強引じゃね?」
「あいつら食べ終わって座ったまま無駄に話してただけだから退かしただけだって」
「まぁそれならいいか……」
席に座るとそういえばと羅衣が昨日のボコられたら2人の事を話してきた。
「昨日は俺達2人で問題なかったからいいけどよ」
「いや、全然よくねぇわ。 そのせいで俺3人相手だったんだぞ? 苦手なのに」
「ははッ、悪い悪い。 それでさ、その真央ちゃんとやら後でシメてやろうぜ?」
「マジで言ってんのか? 確かに昨日はムカついたけど他所の奴らとやりあうとキリねぇよ」
「まぁそう言うなよ。 あいつらだって俺らに絡んで来たけどさ、誘った時マジで喜んでたからあいつらの自業自得でも一応な、あそこまでボコる事ないしな」
「まぁ考えとくわ」
考えとくと言ったけどそんな事する気はねぇけどな。 それよりエレナの事が頭から離れないし。 今日も居るかな?
「おーい、遠い目してんぞ?」
「え? そうか?」
「やっぱ変だな今日のお前」
ラーメンが来た。 食べている最中ずっと今日エレナが公園に居たら何を話そう? そう考えていた。 昨日はいきなりで緊張したしエレナの日本語が微妙だったお陰でいろいろと聞きそびれた事もあるし。 ていうか来るよな?
歳は? 学校とかどこ行ってる? 普段何してる? など思い浮かんでくるが実際エレナの前に立つとうまく出てくるか?
「無心で食ってるなぁ直也。 そんなにがっつかれると奢り甲斐があったわ」
そんな羅衣の言葉を聞き流しエレナの事を考えながらあっという間に食べ終わる。
「あ、羅衣ご馳走さん」
「いいっていいって! じゃあそのうち真央ちゃんやっつけに行こうな!」
「まだ言ってんのかそれ……」
そして教室に戻ろうと売店を出た時、友達と一緒に居る大咲の姿が見えた。
大咲…… 何か忘れてるような。
大咲もこちらに気付いたようで俺を見た。 ほっぺを膨らませ怒っているような顔をした大咲を見てようやく思い出した。 昨日掛け直すって言ったのに電話してねぇ……
友達から離れ俺達の方は向かって来た。
「なんか花ちゃん怒ってね?」
「だろうな……」
ツカツカと俺の前に来て立ち止まり更に頬を膨らませる。
「あー、悪かったな昨日は。 探し物してたらいつの間にか寝ちゃってさ」
「本当ですかぁ?」
大咲は俺の肩に両手で掴まり爪先立ちで俺の顔に自分の顔を近付けた。
な、なな何やってんだこいつ!? キスしそうな距離じゃねぇかよ! くそ、掛け直すなんて言わなきゃよかった。
大咲は俺の目をジッと見つめる。
「なーんか嘘言ってる目をしてます。 あやしーい!」
「うおッ、花ちゃんなかなかやるなぁ。 昨日なんかあったのか?」
「加藤先輩、昨日は合同演習会楽しかったですか?」
俺から離れ今度は羅衣をジトッと睨む。
「え!? あ、ああ…… な? 直也」
無駄だ、もうバレてるぞ?
「じゃあ今度は私も参加してよろしいでしょうか?」
「ええと…… ただやっぱり俺には合わなくて昨日だけで後はやめとこうっていう事になったんだ」
羅衣は知らないがバレているのがわかってるので羅衣の言う事は滑稽に聞こえる。
「そのぐらいにしてやれよ大咲」
「じゃあ直也先輩、後で私ともお昼一緒しちゃっていいですか?」
「まぁそれでいいなら」
「はーい! じゃあ約束ですよ」
ニヒッと笑い大咲は友達の方へと戻って行った。
「バレてるぞ、お前が合コン行ったの」
「だよなぁ、そんな感じしてたし。 いやぁ悪い事したなぁ、花ちゃんには。 ちゃんとお昼一緒してやれよ?」
「わぁーってるよ」
そもそも合コン行かせたのが悪いんじゃねぇかよ……