44 とある日にて
「せーんぱい!」
「なんだ大咲か」
休みの間暇潰しに映画でも借りてこようと思ったら大咲と会ってしまう。
「なんだはないじゃないですか! せっかく見掛けたから声掛けたのに」
「こんな所で何してるんだ?」
「んー、特に。 私はただ先輩を見掛けたからついてきただけですけど? 悪いですか?」
「はぁ、悪いとか言ってないだろ?」
俺がため息混じりにそう言った途端大咲はウルッとした目をする。
「うう…… 先輩冷たい、一度フッた女の子には冷たくなるんだ? 私、あれからどれだけ泣いた事か、ううぅ……」
げ!! まさかこんな所で泣く気か!? 前は大変だった、なんせ街のど真ん中で人が多い場所だったから大注目されたんだ……
「そんなはずないだろ!? 冷たいとかじゃなくて大咲に声掛けられたから嬉し恥ずかしいでどんな態度取ればいいかわからなかっただけだって!」
何故俺は必死に取り繕っているのだろうか?
「ププッ、あははッ! なぁんて! 冗談です。 先輩の焦った顔見たかったんでーす」
けろっとして大咲は間抜けな顔をしているであろう俺を笑った。 くそ…… 大咲に俺が女の子に触るのも触られるのも苦手ってバレた時から完全にこいつのペースだ。
でもあの後も変にギクシャクしないでこんな感じなのもこいつだからなのかもしれない。
「てな感じの回想をしている顔ですね、先輩!」
「勝手に人の心読むなよ。 それより特に用もないのにまだここに居る気か?」
「ふええッ……」
俺がそう言った途端また泣きそうになる…… 演技でも洒落になんねぇ。
「じょ、冗談だ。 好きにすればいいだろ?」
「はーいッ!」
はぁ…… エレナも次第にこうなったりして。
「先輩、どこ行く気ですか? そこはエッチな人が入る所ですよ?」
「うわぁ、いつの間にこんなとこに」
「先輩ってむっつりスケベさんですもんね!」
「あのなぁ……」
「でも私そんな先輩だから好きですよ? 今もですけど」
「今も?」
「はい」
「あれ? でも俺前にハッキリと」
断ったはずと言おうとすると大咲の人差し指が俺の唇に触れた。
「それは先輩の口からは聞きたくないなぁ。 なんちゃって! 顔赤いですよ先輩。 あははッ」
「お前のせいだろ!」
「まぁ先輩は学校でもう会えないかと思うと寂しいから思わず先輩をからかうのも気合いが入っちゃいますねぇ。 先輩はそんな私の気持ちも知らないでしょうけど」
「そうだよなぁ…… ってそれでもからかうのはやめろよ」
「でも先輩って好きな人居たわけでもないのになぁー。 結局誰ともそんな事なく寂しい高校生活だったじゃないですか? 私が少し色を添えたくらいで」
「なんかその言い方いろいろよくない」
まぁそんな事言ってて俺は今エレナの事が好きなんだけど……
「わぁー、あの人凄く可愛い。 外人さんですかねぇ?」
「え?」
大咲がいきなりそんな話題を繰り出すので見てみると…… エレナじゃねぇか! 端から見てもわかる。 エレナは身長も高いし目立つんだよな。 なんでお前もこんな所に居るんだよ!?
ここは大咲も居るしエレナと知り合いだとバレるとネタを提供してるようなもんだ。 消えよう…… エレナに見つかる前に、そして大咲に気付かれないように。 ここって確かトイレの出窓からちょうど人が通れるくらいのスペースあったよな?
「なんかすげぇ腹痛くなってきた…… 」
「え? 大丈夫ですか? 心なしか顔が青いような」
「朝食べた物悪くなってたのかな? ちょいトイレ!」
「あ! 先輩ッ!」
急いでトイレに向かう。 よし、エレナは気付いてない!
トイレに入ればやっぱりだ、ここから出れる! 俺はどこかの逃亡犯みたいな感じでトイレから店の外へと出る。 途中人に見られてとても怪訝な顔をされるも脱出成功……
エレナにもなんやかんや言われたし余計な火種は無くした方がいいしな。 さて帰ろうと思った時……
「なーおやッ!」
「え!? エレナ!」
「きゃッ! ビックリさせようとしたのに私がビックリしちゃった」
「なんでここに?」
「なんでって、どこか行くなら私も一緒に連れてって欲しいです! 見つけたと思ったらトイレに入ったきり出てこないしいつの間にか外に居るし…… 怪しい」
エレナの目が座る。 大咲と居た事はバレてないのか? てかよくこんなとこに俺が居るなんてわかったな?
「はは…… 深読みし過ぎだって」
「そうかな? だったらトイレの方へ行った時とっても可愛い子が私と同じくトイレの方を不思議そうに見てましたよ? あれはなんですか?」
「な、なんだろな?」
その後こってりとエレナに絞られるがなぜか大咲の事はあまりつっこまれなかった。




