4 未知との遭遇?
「よし、今日も行くか!」
走りやすい格好に着替えアパートを出る。 6月後半だというのに今日は結構涼しい。
不純な動機でランニングしてるけど体力もつきそうだし。 なんて言ってるが公園の女の子が居なかったらランニングなんてすぐにやめてしまうだろう。
「はッはッ……」
だけど今日の俺は少しペースが速い。 多分あの時あの女の子を見掛けたからだろう。 公園以外で見掛けるのは初めてだった。
あの子は普段何をしてどこの学校に通ってるんだろう? そういえば制服じゃなかったよな……
そしておかしい事に気付く。 そう、今更だ。 いつも彼女を見て満足していたし、夜という事もあった。
薄暗い外灯で月明かりがなければまともに見えないであろうベンチで彼女自身だけはハッキリ見えていた。 着ている衣服と彼女の肌のコントラストがおかしい事に何故か今の今まで気付かなかった。 肌の方が服より強く見えていた、何を言っているかわからないと思うが見え方がおかしいんだ……
そして見え難いながらも彼女はいつも同じ服装だという事も今更ながら気付く。 そしてよく公園で猫と遊んでいるようだけど触るわけでもなくベンチからニコニコと見ているだけだ。 なんで今まで不思議に思わなかったんだ?
疑問ばかりが沸いてくる。 少し怖くなってきた。 だけどあの子のこの世のものとは思えない美しさに俺は魅了されていて怖くなってきたはずなのに進むペースは更に速くなる。
公園に差し掛かる。
居た! やっぱり今日も居て猫と遊んでる。 いつもは一目見て通り過ぎるだけだが今日は走るのを止め歩きに変わっていた。
長い栗色の髪にパッチリした目だけどどこか気の強そうな感じもする、スッとした鼻筋から艶っぽい唇、それから肌色に近いニットワンピースを着ている事が彼女の色白な肌を逆に強調しているように見えた。 だから肌だけ光って見えたのかな?
いや、違う…… やはり微妙に光っているように見える。 そもそも存在自体がおかしく感じた。 そこに居るようで居ない、フワフワした感じだ。 一体この子は何者なんだ?
疑問が沸き始めたせいかいつもと違う行動を取っていた。 その子にそっと近付く。 猫が先に俺の気配を感じ取ったのかこちらを見てサッと逃げていった。
それに遅れて彼女がこちらを振り向く。 彼女の大きな瞳が俺を捉える、碧い瞳だ…… ゾクリとした。 それは彼女が余りにも美し過ぎたから。 日本人…… ? 言葉わかるか?
彼女は俺をジッと見つめる。 そんな彼女に俺も目が離せない、だけど何か言わないとと思った。
「あのさ……」
そう喋った瞬間彼女の目は更に大きく開かれる。 驚いている……
俺まだ驚くような事言ってないよな? いや、話し掛けられたのがびっくりしたのか? でも何か様子がおかしい。
驚いたように見えた彼女は今度は泣きそうな顔になる。 ヤバいと思い再度話し掛けようとすると彼女の口が動いた。
そして更におかしい事が…… 彼女は何か喋ってる、それはわかる。
だが声が一向に聞こえてこない、口パクとかそんなんじゃない。 本当に喋っているんだと思う、でも声が聞こえてこないんだ。
彼女もそれに気付いたのか喋るのをやめた。 今度こそ彼女はその大きな目から涙を流した、泣いている声も聞こえない。 どうなっているんだと思い俺が一歩彼女に近付いた瞬間だった。
彼女の身体全体が目も絡むほどの光を放った。
「な、なんだよ!?」
手で光を遮り彼女を見るとフッと光が消えた。
は? なんだ今のは? 幻覚? 気のせいか?
「あ……」
彼女が微かに声を漏らした。 それだけじゃなく先程まで彼女の肌は微妙に光っているような感じだったが今はそんな事なくフワッとしていて存在しているのかよくわからなかった彼女の存在感がハッキリと感じるようになった。
そんな彼女だが今は自分の手を見て開いたり握ったり自分の身体を触ったり何かを確かめているようだった。
「幽…… 霊じゃないよな?」
そう言った瞬間彼女はキッと強い眼差しでこちらを見た。
「……た」
「え?」
「見てた? わかった?」
「はあ?」
何を言ってるんだ? ていうか見てはいた。 この子を見る為に俺は夜走ってたからな、気持ち悪く思うだろうか?
「見てた。 目」
たどたどしく彼女は言った。
やっぱり毎日見てたの気付いてたのか……
「ええとさ、夜走ってたからな、毎日通るんだ。 いつも女の子1人でベンチに座って何してるのかな? って思って」
「座って何してるのかな?」
ん? リピート?
「失礼な事聞くけど…… 君って生きてるよな?」
またも彼女は俺を睨んだ。
「生きてる! 手!」
彼女は俺に詰め寄り俺の手を掴んだ。 咄嗟の事に俺は驚く。 仮にも見惚れていた彼女にそんな事をされたわけだが俺は……
「離せよッ!」
女の子は苦手なんだが彼女だけは違うと思った。 こんなにも俺が女の子に積極的に関わろうとしていたし…… しかし違う意味で苦手なんだと気付いた、それは彼女に俺が心奪われていた事。 それがいつも俺の素っ気ない態度をより冷たい対応に変えてしまう。
乱暴に彼女の手を払った。
ヤバい、やってしまった。 こんな事この子にはしたくないのに俺の恋心はどうやらこんなマイナスな方に動いてしまうんだなとわかった。
「…………」
振り払われた手を押さえて彼女はギュッと唇を噛み悲しそうな顔をしていた。
「あッ…… わ、悪い! ビックリしてさ」
「…………」
嫌われてしまっただろうか? 急いで違う話題を考える。
「あ、えっと…… 南直也」
「?」
彼女は不思議そうな顔をして俺を見上げる。
「俺の名前。 そちらは? なんて名前?」
「名前、南………」
「いや、名前は直也」
「なお……や」
天然なのか? と思ったけど違うっぽい。 こっちの言ってる事わかるよな?
やっぱ見た目外人っぽいし。 いや、ハーフとかだよな? 今時珍しくもないし。 でも覚束ない日本語、よくわからん……
「名前…… 私…… 名前…… 」
「そう、名前は?」
「私…… エレナ」
エレナ? 外人風な名前…… なのか? ううむ……
いろいろ考えてる俺をエレナは不思議そうに見ていた。