24 奇跡と不思議
「…… カレン?」
グタッと力なく横たわるカレン。 エレナは手を広げカレンをそっと抱き上げる。 だがカレンはエレナの腕の中で微かに息をしているだけだ。
今にも事切れそうなカレンをエレナは俺の目の前に連れて来た。
「直也、カレンが…… カレンが」
「エレナ……」
カレンのお腹へそっと触れる。 雨のせいか冷たい。
1番なって欲しくない事が起きてしまった。 どうにかしてやりたい、だけどこれじゃ病院まで保たない。
「エレナ、カレンはもう……」
「違う! カレンはまだ生きてる!」
「でも……」
言葉が見つからない。 何を言ってもエレナは認めないだろうという事がわかってるから。
「そ、そうだ! ご飯…… ご飯食べたら良くなるよ?」
エレナはキャットフードを開けてカレンの口へと近付ける。だが当然食べれるわけもなく……
「カレン、ほら、食べて? 私が食べちゃう」
エレナはカレンの目の前でキャットフードを食べて見せるが反応はない。
「うう…… カレン」
そしてエレナは何か思い付いたのか俺にまた駆け寄る。
「病院…… 直也! 病院!」
混乱していて今になって病院とエレナは思い付いたようだ。 でも無理だ、それは俺が最初に思い付いていた。
しかしここから近くの病院まで30分は掛かる。 そして仮に間に合ったとしても助からないというのは見ればわかる。
それほど重症なのだ。
だけどエレナの必死の思いを無下には出来ない。 無理とわかっていても行ってダメならエレナも流石に諦めがつくかもしれない。
「わかった、行こう。 走るぞ?」
「うん!」
公園を出て走り出す。
なんだよ、もう学校も終わってるのにこういう時に限って雨のせいか知らないけど誰も通ってない……
「きゃッ!」
河川敷に出た所でエレナが躓いて転びカレンが放り出される。 それを見たエレナが急いでカレンの元へ駆け付ける。
「カレン……」
小さく息をしていたカレンはもう息さえしていなかった。 もうカレンは死んでいた。
「エレナ、こんな事言いたくないけどもう……」
カレンをすくい上げエレナはその場で動かなくなった。 カレンをギュッと抱きしめて。
「うわぁああんッ、一緒に暮らせると思ったのにッ! ごめん、ごめんなさい!」
「エレナ……」
そこで俺はある事に気付く。 いや、さっきからおかしいと思ってた、誰とも会わないなんて事あるか?
まるでエレナと俺しか居ないような…… そして気付けば泣きじゃくりながらエレナは誰かと話している? いや、独り言?
「お願い、カレンを助けて……」
「うん…… だから、だから……」
「エレナ? 一体どうしたんだ?」
「カレンを…… カレンを助ける事にした」
「はぁ?」
エレナは付けていた腕輪を弄りだすとパカっと腕輪が外れて隙間から針のような物が出てきた。 三又の矛のようなそれをカレンの首筋に刺す。
するとカレンがピクリと動いた。 カレンを腕から離すとゆっくりとカレンは立ち上がりエレナに寄って行った。
「カレン! 良かった…… 良かったぁ」
「………… 」
なんだこれ? 一体何がどうしたっていうんだ? ゾンビ? ではなさそうだけど……
「直也! カレンが治ったよ!」
「へ? あ、ああ……」
ゾクリと寒気が走る。 エレナでもカレンにでもなく何か得体の知れないこの空間に。
「エレナ、カレンが治ったのは俺も嬉しいけど早く家に帰るぞ」
「え? うん!」
足早にその場を去る。 そして河川敷から戻り公園の近くまで行くと急に車が通ったかと思えば人がチラホラ。 違和感がなくなり少し落ち着く。
「エレナ、さっき腕輪から出した針みたいな物は?」
「あ…… 置いて来ちゃった」
「その腕輪後で見せて貰っていいか?」
「? いいよ」
「てかさっきのでなんでカレンは治ったんだ?」
「特効薬? だって」
「さっき誰かと話してたみたいだったけど誰と話してた?」
「ううん、誰とも」
エレナとこれまで一緒に居てなんとなくわかる。 エレナは嘘をついていないと。 それじゃあ覚えてない? それに特効薬と言ってたけどカレンは確かに死んでいたように思えた。 死んでしまえば特効薬も何もない……
家に帰りカレンが来て喜ぶエレナの傍で腕輪を外して見せて貰った。 だがどこにもさっきの針が入るような細工は施されてないように見える。 というよりあの針が出て来るなんて物理的に無理だ。10センチはあったのだから。
「ね、直也もカレン抱いて? 凄く元気になったよ!」
「え? ああ」
カレンを撫でると気持ち良さそうにゴロゴロと鳴いていた。




