15 動揺してる場合じゃないぞ!?
風呂場からシャワーの音が聴こえてくる。 だが俺はそんな音が聴こえなくなるほど動揺していた。
さっきの衝撃的な光景も動揺の原因でもあるがエレナから服を受け取った時に下着までも受け取ったのだ。 こ、これを俺に洗えと……!?
手の平にはまだ温かいエレナの下着が。 ワナワナと震える。 落ち着け……
エレナには変な意図はまるっきりない、なのに俺が変に意識したら俺は変態だ、エレナを見習え。 そう、これはエレナにとってはなんでもない事であって俺がなんでもなくない事にしてどうする?
そもそもなんでもない事をなんでもないって思う事自体がなんでもなくないのか? いや、それだったらなんでもないなんて言葉自体が嘘になるからなんでもないなんて事はなんでもなくなくなって、それだったらなんでもなくなくなったら……
ダメだ、完全に混乱している…… 取り敢えずエレナが風呂から上がらないと洗えないのでこれはここに置いておこう。
そしてまた新たな問題に直面する。
あいつ、これ以外に服持ってねぇーッ!
多分エレナの事だから上がったらスッポンポンで出て来るのは間違いない。
俺は急いで服を探す。
俺の服でまずはそれでいいよな? てか女の下着なんて持ってねぇ、どうする? どうしたらいい? あ、そうだ! ニットワンピだった、俺は幸い結構身長あるし大きめのカットソーあったはずだ、それなら何も変わらない。 そうだよな?
自分にそう言い聞かせて服を漁る。 下着がないなんて事は一旦忘れて。 まったく冷静じゃなかった。 ズボン忘れてるぞ……
服を選び終わり風呂場のドアをコンコンとノックする。
「エレナ」
「なに?」
ノックして名前を呼んだらドアを開けてエレナがまたも一糸纏わぬ状態で出てくる。 不意打ちされた。 俺はまた壁に頭を叩き付けた。
「ふ、服…… ここに置いとくから上がったらこれに着替えろよ?」
「わかった」
ドアを閉めずにそのまま戻るエレナ…… 閉めろよそこは。
「マジであいつこれまでどうやって生きてきたんだ?」
思考を真面目モードに戻さねば…… これでも真面目だし真剣だったのだがこんな事であたふたしているようではこの先確実にやっていけない。
エレナの日用品も買わなきゃいけないしいろいろとお金が掛かる。 ここは何も知らないうちの親にどうにか誤魔化してお金を貰うしかない。 後ろ髪を引かれる思いはするが……
多分すぐに本当の事話したら途端にこの状態はオジャンだ。 いや、その方がエレナにとっても俺にとっても良いのかもしれないけどまずエレナに確認してからにしないと。
そうこう考え事をしているとエレナが風呂から上がってきた。 ちゃんと服を着ているな、そこは良し。
「気持ちいい」
「良かったな、じゃあ髪乾かそうな?」
ドライヤーを用意してエレナに使い方を教える。
「わッ!!」
急に風が出たのでエレナは驚く。 こいつにとってはこんな事も驚きなのか、ますます大変そうだ。
覚束ない感じで髪を乾かしているエレナが急にドライヤーを置いた。
「どうした?」
「疲れた」
「………… 」
乾かしてくれと言っているのだろうか? 髪が長いから大変だろうが俺女の髪なんて乾かした事ないぞ? な事言っても濡れたまんまじゃあれだもんな。
エレナは猫だ、猫だと思おう。 猫を風呂に入れて乾かしてる、ほうら、猫に見えてきた……
自分に自己暗示を掛けてエレナの髪を乾かしていく。 無心で無心で……
ようやく髪を乾かし終えた。 俺も疲れた。 髪を乾かし風呂にも入って綺麗になったエレナを改めて見るとドキッとした。
あの公園の女の子が今俺と同じ部屋に居るんだよな…… しかもこの俺が自分から招き入れて。
「直也?」
「ん? ああ、いや。 俺も風呂に入ってくるからエレナはここでゆっくりしてろよ」
「うん」
これからエレナの服と下着を洗わなきゃいけないと思うとなんとも言えない気持ちになるが目を瞑って違う事でも考えながら洗おう。
そうしてなんとかエレナの服を手洗いして洗濯機に入れ俺も落ち着いて風呂に入る。
風呂から上がるとエレナはテーブルに顔を乗せ寝ていた。 慣れない事ばっかで疲れたよな、でもせっかく家に来たのにこのまま寝かすのもな……
「エレナ」
「んん…… 直也」
ふあ〜ッと大きな欠伸をしてえりなは身体を伸ばした。
「疲れたろ? 今日はもう歯を磨いて寝ような?」
「ひゃい……」
こうしてエレナと俺の生活が始まるのだが程なくしてエレナの規格外の成長速度に驚かせられる事になる。




