茜色の日常
茜色の、埃っぽい部屋の中
小さく舞う埃が日差しを浴びて
夜空の遠い遠い星の様に儚く輝く
そんな風情をぶち壊す様に
蒸した部屋の中
北側に置かれたベッドの上で
干上がった蛸の様に四肢を投げ出し
額から汗を流して考えるのは
自分のことばかり
今日こそ卵を、買いに行かなければ
鍵をかけていなかったのに
隣で知らぬ住人が大家と話している
曰く、自転車を盗まれた、と
曰く、鍵はかけていた、と
曰く、管理体制の問題では無いか、と
押し問答に飽きは来ず
手にうっかり乗ってしまった
蜘蛛を地面に返してやり
自転車でその場を去るまでに
話は一つも進まなかった
盗むには、ぼろすぎたのか
愛車の横腹を、思わず蹴る
スーパーの前まで来て忘れ物に気づく
日は既にビルの向こう側に隠れ
その名残だけが空を照らした
また、あの部屋に戻るのか
一度入ってしまったら、また出て来れるだろうか
あの喧しい住人は、まだ話しいているのだろうか
自転車を置き場に戻す必要はないか
自転車で地面を蹴り上げ踵を返す
隣で小さなケーキ屋の
白い手袋の店員たちが
営業中には見せない、屈託無い笑顔で
何かの装飾を外している
季節はいつなのかも
無頓着な私は何も知らず
急ぐこともなく
私は降り出した雨の中、財布を取りに帰る