3.プロローグ 後編
女神デューケの叫び声が途切れ、周囲は先程までとは異なり、しんとしていた。そして、俺は自分の変化に気付いた。
まずは、服装が変わっているということ。先ほどまでは、元の世界で着ていた洋服だったが、今は、白銀の軽鎧になっている。しかも、鎧なのに軽く動きやすくて、それでいて頑丈だ。
そして一番の変化は、背中に一対の大きな純白の羽が生えているということだ。
俺は、羽を動かしてみようと試みる。意外にも頭で考えるだけで、動かすことができた。
俺は本当に天使になったのか……。それに身体全体に力が漲ってくる。これなら、どんなことだってやれそうだ!もしかしたら、勇者の代わりに魔王だって……!。
そんな俺の妄想を遮るように女神デューケが声を発した。
「ふう。随分久しぶりですね。こんなに力を出しきったのは。お陰で、とっても疲れちゃいました。アーク君、どうですか?天使になることが出来たでしょう?この分は、このあとしっかり働くことで返してくださいね?」
あまりの嬉しさで、あんなにムカついていた女神デューケに対しても、口調が敬語に戻ってしまう。
「はい!女神様!ご期待に添えるよう頑張ります! ……ところで、手に持ってるそれは何ですか……?」
女神デューケの手には、謎の渦。小さい竜巻のようなものがあった。なんだ、あれ? また何か俺に力を授けてくれるのか?
しかし、女神デューケか発せられた言葉はとんでもないものだった。
「いいえ。あなたには与えうる全ての力が既に宿っているはずです。なので、早速天使達が働いている場所に行ってもらいます。私の今手にある、この竜巻の卵に乗ればすぐに着きますよ。」
えっ!?あれに乗る?どうやって? ていうか、場所さえ教えてもらえれば、この羽を使って行けるだろ!?
そんな小さい竜巻に乗るなんて無理じゃないか、と発しようとしたときには、女神デューケは無慈悲にも、竜巻の卵をアークに向かってすでに投げつけていた。
気付いたときには、アークは竜巻に巻き込まれていた。先程までは、女神デューケの手にのる大きさだったのに、今はアークの身体を完全に覆うほどの大きさになっている。
アークは竜巻の中でぐるぐると弄ばれている。そんなアークを見て、女神デューケは笑いながら手を振っていた。
「アーク君ー!頑張ってくださいねー!」
アークは、この仕打ちに対して、さっきまでは忘れていた女神デューケに対する、怒りの感情が込み上げていた。
チクショーが!!少しでもアイツを尊敬した俺がバカだった。やっぱりろくでもないやつだ。アイツのことは、性悪腹黒女神って呼ぶことにしよう。そして、次会うときは、絶対に一泡吹かせてやる!!!
アークは竜巻と共に高速で移動していく。アークの行き着く先が何処なのか。それは、女神デューケとこの竜巻にしか分からない。アークは、そっと目をつむりこう呟くのだった。
「もうあいつが魔王を倒せばいいじゃん……。」